在宅勤務が標準になりつつある欧米。テクノロジーリテラシーが高いテック企業はいち早く在宅勤務に移行し、試行錯誤を繰り返し、在宅勤務でも生産性を維持するノウハウを確立しているようだ。

今回は、海外の様々なメディアが報じるテック系スタートアップや大手の在宅勤務スタイルを紹介。スタートアップから大企業まで、リモートという新しい形での従業員エンゲージメント醸成の秘訣も探る。

Facebook、Twitter、Uber… 大企業幹部の働き方は

アメリカの大手テレビネットワークニュース社CNBCではテック大手の幹部に注目し、彼女らの在宅勤務スタイルを紹介している。大きく4つに分かれた傾向を以下で紹介する。

早朝・午後9時以降など、柔軟な時間の活用

FacebookAppの代表フィッジ・シモ氏は、平日午後6時から9時までは家族と一緒にいるために仕事をログオフしているという。彼女の娘が午後9時頃眠りにつくと、シモ氏は再度ログオンし、メールやチームの働きをチェックする。チームの多くは世界中の異なるタイムゾーンにいるため、返信が夜になっても構わないメンバーもいるからだろう。

同様に、Twitterの幹部ドラナ・ブランド氏も、3人の子供の母親であり、家族との夕食や時間を楽しむために、午後6時頃に仕事をログオフする。彼女の子供は大学に通う年齢のため小さくはないが、休学中の子どもが家にいることは、少なからず彼女にいくらかの「家族と共に時間を過ごすプレッシャー」をかけている、と彼女は良い意味で語る。

Airbnbのビジネスパートナー、マリア・キューバ氏も、夫と在宅で仕事をしており、午後6時を目安にログオフする。休憩したり、夕食を食べるためのログオフ時間だが、この間、彼女は午後8時頃までは定期的にメールをチェックし、その後は完全にオフにすると言う。 「このような(コロナの)時期でも、家族や友人と一緒に、自分自身を開放して楽しむ機会を与える必要があります」と彼女は言う。

これらの事例から、自分のライフスタイルに合わせた柔軟な時間の活用がみられる。

自宅周辺も含めた作業場を作る

Uber Eatsのシニアディレクター兼グローバルビジネス開発責任者であるリズ・メヤーデーク氏は、ホームオフィスがある同僚を羨ましがっている。というのも、彼女は5歳、3歳、11ヶ月の3人の幼い子どもの母親として、自宅の固定した場所で働くのが難しい。

そのため、彼女は自宅(周辺)にいくつかの「ワークステーション」を確立した。それは寝室の窓際の小机だったり、居間のテーブル、子供部屋にある小さな椅子、そして、隠れた場所はガレージの駐車中の車内だ。

この事例から、彼女の柔軟な働く場所への対応能力がみられる。普段は子供部屋や物置小屋となっているスペースでも、インターネットさえ整えば、ドアを閉めて仕事する環境を作り出す。米大手テック企業の責任者でも、自宅で仕事場を作り出す努力を惜しんでいない。

マルチタスクできるところはする

Facebookのシモ氏は先日、カメラをオフにして重要な電話会議に参加しながら、4歳の娘の妖精作りを完成させたという。彼女はこれを「勝利のためのマルチタスク」と呼んでいる。

「私たち皆が新しい挑戦に適応しようとしており、幼い子供が会議の最中に現れても大丈夫であることを、私のチームの全員が知ることが、重要だと思います」と彼女は言う。

一方でメヤーデーク氏は、仕事中に子供たちの注意をそらすために、テレビを見せたりiPadで遊んだりする時間を少し長くすることを許可していると言う。「彼らが安全で愛情を感じている限り、それに対して許容する態度をとった」と彼女は語る。

これらの彼女たちの対応は、仕事と生活を両立させるための、育児に関する努力と寛容さを表している。

プライベートも含めたチームメンバーへのケア

その他、今回の新型コロナウイルスによる自閉症や差別などの課題、子どもがいる家庭の在宅勤務に関するディスカッションの場を立ち上げるなど、周辺の様々なトピックを話し合う場を各企業で設けているようだ。

従業員の幸福度が潜在的に仕事の効率性に関わるため、チームメンバーのプライベートも含めた気のかけ方が重要となってきているようだ。

規模が小さいテック系スタートアップの働き方は

では、小規模のスタートアップでの働き方はどうだろうか。オセアニアのメディア企業Startupdailyでは、オーストラリアのスタートアップ企業3社をインタビューして、彼らの傾向を探っている。

まず紹介するのは、メルボルンの営業支援のデータ企業Salespreso。20人あまりの従業員で、Slackを活用し、チームの連携とモチベーションを維持している。朝と午後のチェックインでの会話や、Slack上でのランチタイムのコミュニケーションを促進する。

共同創始者のジョエル・トムソン氏は 「こまめなコミュニケーションは、1日を通してプラスの行動につながり、お互いを理解するのに役立つ。そして、全員が少しでも行動すれば、前進し続け、お互いをサポートし続けることができる」と言及する。

2社目の教育テック企業Compass Educationは、100人を超える従業員がリモートで働いている。毎日のビデオキックオフ会議に加え、毎週のリモートゲーム大会、金曜はZoom上でリラックスしながら週の報告をするバーチャル飲み会が開催される。

また、上記のような既存のイベントだけでなく、この度同社がバーチャルで取り入れたのは、月曜日の瞑想だ。HeadspaceやSmiling Mindなどのアプリを活用して、社員のセルフケアや精神的健康に焦点を当てる。毎週水曜日はリモートヨガも開催し、いくつかのグループ・フィットネスクラスも開催している。

さらに同社では、負担に変化のあったリモートマネージャーたちに対しても、サポートを強化する。マネージャー同士もつながりを感じ、自分のチームを支援できるようにするための活動も始めている。

例えば、取締役員などと一緒に、バーチャルランチ・ワークショップで自分自身とそのチームが成功するための準備を支援する戦略を考えたり、バーチャルコーヒーを共にすることを奨励している。これにより、チームメンバーも対処方法、作業内容、およびその感じ方について、声を上げることができる。

3社目のオーストラリア証券取引所に上場するMed-Advisorはメドテック企業。国の薬局の6割を支えるテクノロジーを提供する同社は、コロナ対策で忙しい時期を迎えている。

Compass社で紹介したヨガや瞑想のオンラインレッスンや、金曜のwork@homeドリンクに加え、メンバーのエンゲージメントを高める小包を用意している。

普段オフィスで祝われているメンバーの誕生日にはチョコレートなどの小さな贈り物を届けたり、新規転職者が疎外感を味わないように、ウェルカムパッケージの小包を送る。中身はちょっとした会社の旗飾りやスナックなど、小さなサプライズと社員のエンゲージメントを上げるようなグッズが届けられる。

在宅勤務で、誰もが様々な方法で新しいストレスに対処しており、従来と異なる日々を送っている。これらテック企業の幹部に共通して見られるのは、他者への配慮と親切さを拡大し、より頻繁にプライベートも交えたコミュニケーションをすることだろう。

スタートアップから大企業まで、テクノロジーを活かしたリモートでの新しい形での、従業員エンゲージメント醸成が広がっている。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit