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スピルバーグ氏とドリームワークスを創業した人物が仕掛ける動画アプリ「Quibi」
米国の各メディアは、このほどローンチされた動画ストリーミングアプリ「Quibi」に関するトピックで盛り上がっている。
NetflixやHuluなど競合ひしめく動画ストリーミング市場だが、同アプリの注目度が特に高い理由はいくつかあるようだ。
Quibiウェブサイト
まず、同サービスを立ち上げた創業者が米エンタメ界の大物ジェフリー・カッツェンバーク氏であるということ。
日本では一般的に知られた人物ではないが、本国米国ではスティーブン・スピルバーグ氏らとともにドリームワークスを設立したエンタメ界の大物として知られている。過去に手掛け、ヒットさせた作品には「スタートレック」のほか、「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」など日本でもよく知られるディズニー映画などが含まれる。
そんなカッツェンバーク氏が2018年8月に創設し、開発を開始したのが動画ストリーミングアプリQuibiだ。エンタメ界の大物が創設したスタートアップ、注目度は非常に高く、投資資金はまたたく間に集まった。
2018年中に、ディズニー、NBCユニバーサル、ソニー・ピクチャーズ、ワーナーなどから10億ドル(約1,070億円)を調達したと報じられている。またウォール・ストリート・ジャーナルやThe Vergeなどによると、累計調達額は2020年3月までに20億ドル(2,140億ドル)近くに達したとのこと。
映画俳優エディ・マーフィー氏(写真左)とカッツェンバーク氏(右)
こうした報道などで一層多くの関心を呼んだQuibi、鳴り物入りで4月6日米国とカナダでローンチされた。すでに認知度が高かったことに加え、無料トライアルが90日間与えられるということもあり、ローンチ1週間で170万回ダウンロードされたという。
NetflixやHuluなどの既存動画ストリーミングサービスとはどこが違うのか。
最大の違いは、Quibiが短編動画に的を絞っている点だ。Quibiで公開されている動画は長くて10分、平均的な長さは5分ほどといわれている。取り扱いジャンルは、ドラマ、コメディ、リアリティ・ショー、ミュージックビデオ、ライフスタイル、ニュース、ブランドコンテンツなどの多種多様。
またスマホでの利用に限定しているのも他のストリーミングサービスと一線を画す点だ。短編動画とスマホオンリーで差別化し、通勤などの「隙間時間」のユーザー獲得を狙ったものと思われる。
Quibiが注目される理由
Quibiのローンチを前後して、米メディアの間では同アプリが成功するのかどうか、期待・落胆・賛否など様々な声があがっている。
Quibiに対する批判的な声としては、Quibi独自の機能「Turnstyle」に向けられたものなどがある。
Turnstyleとは、横長動画を縦向きで視聴するための機能。YouTubeなどでもスマホの向きを変え視聴できるが、それとは若干異なる。YouTubeなどの一般的なターン機能は、横向きから縦向きに変えても、動画の比率は固定されており、縦向きでも動画全体が表示される。横向きに見ていた動画を縦向きにすると、必然的に全体が縮小してしまう。
一方、Turnstyleは、横向き動画におけるフォーカスエリアを割り出し、縦向きにしたときに、その部分をメインに表示することができる。スマホで動画を視聴しているとき、縦向きにすると全体が縮小してしまい、登場人物の表情が分からないといった経験を持つ人は多いかもしれない。QuibiはTurnstyle機能によって、そのような状況をなくし、視聴エクスペリエンスを向上させようとしている。
この機能が本当に必要なのかどうか、この機能がユーザーに求められているのかどうか、などの点が疑問視されている。
一方、短編動画という特性やインタラクティブ性などから、既存メディアのあり方に一石を投じる可能性もあり、目が話せない存在としても見られている。
まず、短編動画という特性について。これはニュースメディアとの相性がよく、様々なテキストベースのニュースメディアの映像化を促す可能性がある。
実際、英語ニュースメディア「The Verge」に関して、その親会社Vox MeidaとQuibiの間で映像化の話が持ち上がっているという。
YouTubeなどでもニュースメディアの動画が多数配信されている。しかし、これらの動画の長さはコンテンツによって大きく異なる。数分のものもあれば、数十分に及ぶものもあり、視聴時間の長さが予測できない。忙しいビジネスパーソンにとっては予測できないことはフラストレーションにつながってしまう。
一方、Quibiであれば、平均5分、長くて10分という予測がつく。通勤やランチなど、どのタイミングで視聴するのか、スケジュールも立てやすくなる。
スピルバーグ氏の新作ホラーQuibiでオリジナル配信、恐怖感掻き立てる仕掛けも
また、Quibiはインタラクティブ性にも注目しおり、今後クリエイターたちのインタラクティブ・コンテンツ制作を促すことも考えられる。
Netflixが2018年末にリリースした「ブラック・ミラー・バンダースナッチ」。物語が進む中で、視聴者が意思決定を行い、それによって物語とエンディングが変わってくるというインタラクティブ・ストーリー。Quibiはこうしたインタラクティブ・コンテンツの配信も検討しているというのだ。
コンテンツだけでなく、視聴タイミングにおいてもある種のインタラクティブ性を導入し、視聴体験を高める取り組みが計画されている。
その第一弾となるのがスティーブン・スピルバーグ氏が脚本を書いたホラー映画「After Dark」。7〜10分の短編動画で構成されるQuibiオリジナルのシリーズだ。スピルバーグ氏のリクエストにより、視聴できるのは日没後以降のみ。恐怖感を掻き立てる工夫が施されている。現在制作中で、現時点でリリース日はまだ決まっていない。
映画といえば2時間というのがこれまでの常識だが、Quibiとスピルバーグ氏によって、その常識は変わっていくのかもしれない。
[文] 細谷元(Livit)