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新型コロナウイルスの広がりで外出自粛・禁止措置が採られるなか、消費者のメディア消費が変化している。なかでも、主に通勤時間に人気のあった「ポッドキャスト」の消費は、在宅勤務の増加を受けて減退。しかしジャンル別でみると、ダウンロード数を大きく伸ばしている分野もある。
コロナクライシス下の欧米のボッドキャスト市場では、何が起こっているのだろうか?
主に通勤中でよく聴かれていた「ポッドキャスト」は、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが増える中、消費内容が変わってきている(写真:Pinterest)
通勤時間帯のポッドキャスト消費が大幅減
アメリカにおけるポッドキャスト週間ダウンロード数とリスナー数の年初比推移。3月第一週をピークに下降している(出所:Podtrac)
10万以上のポッドキャストやラジオ番組を無料で配信するアプリ会社「Stitcher」によると、4月7日までの4週間、同アプリの聴取は3月第一週に比べて8%減少した。
1週間毎の聴取動向をみると、新型コロナウイルスが欧米で深刻化した3月9-15日は1%減にとどまっていたが、3月16-22日に11%減少。3月23-29日は9%減、3月30-4月5日は11%と、9-11%減で推移している。
もちろん、これは「Stitcher」で配信されている番組だけを対象とした調査だが、ポッドキャストに関する調査を実施している「Podtrac」によれば、同社がカバーする大手ポッドキャストの総合調査でも同様の傾向がみられる。
今年年初から増加傾向にあったアメリカのポッドキャスト聴取は、「コロナ危機」が始まる前の3月第一週(2-8日)をピークに、その後下降トレンドが続いている(グラフ参照)。
なかでも平日の通勤時間帯の聴取が減っており、3月30日- 4月5日のストリーム・ダウンロード数は、3月第一週との比較で平均23%も下落た。在宅勤務で通勤中のリスニングがなくなったケースが増えたことが容易に想定できる。一方で、週末の聴取は増えており、土曜・日曜のピーク時ではそれぞれ、12%、20%の幅でリスニングが増加している。
フィクションとキッズ向けは好調
アメリカ市場におけるカテゴリー別ポッドキャストの週間ダウンロード数年初比推移(出所:Podtrac)
「コロナ危機」が欧米で顕在化して以来、ポッドキャストで人気のジャンルにも変化が表れ始めている。
年初からトップの座を占めてきたニュース番組は、コロナ危機が発生して以来、ほかのジャンルを大きく引き離して聴取を伸ばし、3月9-15日の週にピークに達した。新型コロナウイルス関連の情報に対するリスナーの関心の高さを示しているのだろう。3月16日以降の聴取は下降トレンドにあるが、ジャンル別では首位の座を維持している。
ニューヨークがロックダウンとなった3月23日からの週では、前週との比較で、「テクノロジー」の聴取が19%減、「歴史」が17%減と苦戦。「犯罪ドキュメンタリー」も3週間連続で前週を割り込んでいる。空気中に得体の知れないウイルスが恐怖をまき散らす中、敢えて犯罪ドキュメンタリーを聞く人が減っているのは、感覚的に理解できる結果ではないだろうか。
一方、ビジネスは前週との比較で10%増加。年初からコロナ発生前までは大きく落ち込んでいた「フィクション」も19%と好調を博している。また、「サイエンス」、「キッズ・ファミリー」もそれぞれ9%の幅で聴取を伸ばした。
求められる「現実逃避」コンテンツ
ジャンル別で、キッズ・ファミリー向けのポッドキャストがリスニングを伸ばしている背景にはもちろん、学校閉鎖や外出自粛・禁止措置の影響がある。子供の相手で疲れ切った親が、子供にポッドキャストを聞かせる間、ちょっとしたブレイクを取っている様子が容易に想像できる。耳のメディアは子供の想像力をかき立てるという点で、少しだけ動画よりも親が罪悪感を感じにくいという利点もあるのかもしれない。
ほかには、外出自粛・禁止措置を受け、「Stitcher」や「Apple Podcasts」がキッズ用のポッドキャストのリストをキュレーターページで紹介したことも、同ジャンルのリスナー獲得に貢献したとみられている。
学校閉鎖が長期化するなか、キッズ・ファミリー向けのポッドキャストは聴取を伸ばしている。(写真:Pinterest)
子供向けメディアコンテンツ企業「Tinkercast」は、同社が製作するキッズ用ポッドキャスト「Wow in the World」のダウンロード数が3月23日時点で、前13週間の平均を23%上回ったことを明らかにしている。同社は学校閉鎖に伴い、デジタル教材を無料で提供。リスナーの反応は非常にポジティブで、学校閉鎖が続く限り同措置を継続する予定という。
同じくキッズ・ファミリー向けの番組を製作する「Gen-Z Media」によれば、過去数週間の同社ポッドキャストのダウンロード数は約3割増加した。主力番組「Six Minutes」のダウンロード数は、これまで月間200万回だったのが、現在は300万回に達する勢いだという。
同社CEOのベン・ストラウス氏は「我々がつくるようなコンテンツは、楽しさやちょっとした現実逃避を提供するもので、子供や親にとって癒しになる。この前例のない危機のなかで、テレビよりももっと異世界に逃避できることは、解放感と平常心もたらす」と述べている。
大人向けのコンテンツでもフィクションの人気が高まっていることを見ると、危機的な状況下で人々が求めるのが「現実逃避」や「癒し」であることが分かる。
子供向けサイエンス番組を提供する「Tumble Media」のリンゼイ・パターソン氏とサラ・ロバ―ソン・レンツ氏は、「こういうひどい状況の結果として成功しているのは心苦しいが、こういう時期に多くの人に慰めを与えるコンテンツを作れることに感謝している」とコメント。「コロナ騒動が収束しても、多くのファミリーはリスナーであり続ける」との見方を示している(ジャーナリズムに関する情報サイト『Niaman Lab』より)。
スポーツは苦戦、新たなビジネス参入も
一方、「スポーツ」のジャンルはコロナクライシス下で苦戦中。1月22日に武漢で開催される予定だったボクシングの東京オリンピック予選が中止されて以来、スポーツイベントが軒並みキャンセルや延期となっている影響であることは言うまでもない。すべてのスポーツ報道は、他の内容で穴埋めされなければならなくなっている。
特に、イギリスで熱狂的なサッカーファンを惹きつけてきたサブスクリプション型のポッドキャストは、リスナーも支出を削らなければならない現在のような局面で、厳しい状況を迎えている。リバプール拠点の「The Anfield Wrap(TAW)」は、月間5ポンド(約670円)のサブスクリプションサービスでキャンセルが増えているという。
現在は週に2回、無料の番組を配信するほか、10回のプレミアムエピソードを放送。普段はシーズン中につかまらないようなアスリートにインタビューするなどで、この苦境を乗り切ろうとしている。
「TAW」は地元サッカークラブ「リバプールFC」の熱狂的なファンがターゲット。英プレミアリーグの中断は痛手(TAWの宣伝ビデオより)
『Nieman Lab』によれば、「The Athletic」の番組「The Lead」のエグゼクティブ・ディレクター、アンダース・ケルト氏は、実際にスポーツの試合がなくなる中で「番組を続ける意味はあるだろうか」と自問したという。先の見えないコロナクライシス下で、スポーツ界がどうなってしまうのか想像もできず、一時期は途方に暮れたが、「すぐに面白いストーリーが山ほどあることに気付いた」と語っている。
サッカー番組「Totally Football Show」で知られる「Maddy Knees Media」のCEOイアン・マッキントッシュ氏によれば、現在の状況は「むしろチャンス」。「今までやろうと思ってもできなかったことが実現できる」と意気込んでいる。
同社は動画レビュー、ドキュメンタリー、クイズなどで、サッカーコンテンツを充実させるほか、教育的な歴史番組を英BBC向けに製作するなど、コンテンツの多角化に取り組んでいるという。
「コロナ以前」には新しいメディアとして人々の生活に浸透しつつあったポッドキャスト。コロナ影響下で思わぬ成長の足止めをくらった形だが、この前代未聞の危機を乗り越えた後には、新しい勢力図やコンテンツを持つ、新しいポッドキャストの世界が生まれているのかもしれない。ポッドキャスターのしたたかな柔軟性が問われている。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)