訪日外客数は2011年から右肩上がりで増加し、2018年には3,000万人を超え、それに伴うかたちで日本製品に対する需要・関心も化粧品、食品、日用品を中心に高まってきた。

安心・安全という信頼感を武器に、越境ECに取り組む事業者も増加しているが、ニーズの把握やPRが思うようにいかず、撤退する事業者も増えてきているのが現状だ。

そんな中、商品のバーコードを読み取ることでアプリユーザーに商品の情報を外国語で届けると同時に、ユーザーの購買データをメーカーや小売店が把握できるサービス「Payke(ペイク)」の提供価値が高まっている。

バーコードという誰もが知る国際規格に可能性を見い出し、成長を続ける株式会社Payke。そのユニークな事業内容や将来性、さらに、同社のシステムを支えるMicrosoft Azure等の活用事例や、今後マイクロソフトとともに取り組みたいことなど、幅広いテーマについて代表取締役CEOの古田奎輔(けいすけ)氏にお話を伺った。

(以下、敬称略)

商品が持っている情報が伝われば、買いたい気持ちを後押しできる

――「Payke」というアプリについて教えてください。

古田 Paykeは、訪日外国人観光客に商品情報を多言語で伝えられるモバイルアプリです。現在、7言語(日本語、繁体字、簡体字、英語、韓国語、タイ語、ベトナム語)に対応しており、日本語を読めなくても文章や画像、動画を使って商品の情報を伝えられます。ユーザーの96%が海外という特徴もあります。

代表取締役CEO 古田奎輔(けいすけ)氏

使い方は簡単で、アプリを立ち上げて商品バーコードを読み取ると、情報が登録されていれば自分が選んだ言語で商品情報を見ることができます。現時点で40万点以上の商品情報が登録されています。

――Paykeの開発にいたった経緯についても教えてください。

古田 Paykeの開発に取り組むまで、沖縄で貿易業務に携わっていたんです。ただ、沖縄の特産品を販売する越境ECに取り組んでいると、思うように売れないものが出てきました。

例えば、沖縄の「ちんすこう」は海外のお客さまには全然売れなかった。沖縄みやげとして有名だとか、お菓子の背景といった情報を知らないと多分「何これ」ってなるんですよね。商品の見た目やパッケージでは伝えきれないモノの価値や、モノにひそむストーリーを、言語の壁を越えて伝えられたらもっと売れるはずなのに……。

しかも、同じようなことは世界中でも起きているはずです。海外旅行に行っても、パッケージの言葉が読めなくて買うのをやめてしまったり、その商品がその土地の名産や特産であることすらわからず、購入機会の損失が生まれています。そこで、海外での購入機会を創出するには、ツーリストにしっかりと情報を届ける必要があると考えました。さらに、その情報量を増やすには、デジタル技術を使うしかなさそうだと思ったのが、Payke開発のきっかけです。

――今や400万ダウンロードを超えるアプリとなったPaykeですが、リリース当初から順調でしたか?

古田 最初は、正直マネタイズも考えられない状態でした。まずは、訪日観光客のみなさんに使っていただかないと「Paykeに商品情報を登録しよう!というメーカーも増えません。

スキャンするだけで商品情報の多言語対応が可能に

リリース当初は台湾の空港に飛んで、バスを待つ方々にチラシをお配りしたりと、地道な宣伝活動を行なっていました。すると、ある台湾人のお客さまがPaykeを使って買い物する様子を動画でアップしてくれて、それがきっかけとなり、一気に利用者が増えたんです。

今でもありがたいことに、一番多いユーザーは台湾のユーザーの方々なんです。

――海外に行って、看板やメニューを読むのに画像認識アプリを使うことがありますが、Paykeとの違いはどんなところにありますか?

古田 一番の違いを挙げると、Paykeが固有名詞に強いということだと思います。その方が選んだ言語で商品情報を表示するので、例えば「ひよこ」という日本の銘菓を前にしたとき、Paykeだと「ひよこ」という名前のお菓子はどんな味で、こんな歴史があって……といった説明が表示され、その商品がどんなものなのかを理解することができますが、画像認識や翻訳サービスの場合は「chicken」と表示されるはずです。

とはいえ、翻訳サービスが便利なシーンももちろんあるので、場面ごとに使い分けていただければいいのかなと思います。

商品情報40万点×7言語×日々蓄積されるユーザー行動データの強み

――多くのメーカーがPaykeに商品情報を登録されていますが、どんなメリットがあるのでしょうか?

古田 最大のメリットは、これまで逃してきた可能性のある購買機会の創出です。Paykeで商品情報を的確に届けることで、購買行動を後押しすることが可能です。

もうひとつ喜ばれているのは、パッケージデザインを変えずに届けられる情報量が増えること。パッケージには面積の限界もありますし、情報を盛り込みすぎるとせっかくのデザインが台無しになります。まず、7言語を並列表記はできませんよね。

小売店にとってもメリットがあります。Paykeを利用できるタブレットを導入いただくと、外国人観光客の方にその方の選んだ言語で商品情報を届けられるので、店頭接客を多言語化できます。

どんなに語学が堪能な店員さんでも「頭痛薬AとBの違い」といった、細かな情報を伝えることは非常に難しい。そんなとき、タブレットで情報を見られるようにしておけば接客コストも抑えられますし、お客さまの満足度も高まるはずです。

日本語登録をするだけで自動で7カ国語に対応

さらに、タイ語やベトナム語話者のスタッフを地方で充分に採用できるかというと、かなり厳しいはずです。人口密度が高くない地方では、Paykeの活用メリットがより大きくなると思っています。

――Paykeユーザーの利用状況から、どのようなことが見えてくるのでしょうか?

古田 当社は大きく分けて2種類のデータをストックしています。ひとつは、約40万点の商品情報データ。もうひとつ重要なのが、ユーザーの行動データです。

どんなことが見えてくるかというと、例えば、タイ語を話す方が〇〇というお店に行って、AとBという商品を見比べ、Bを購入した、といった購買に関わる一連の流れがわかるんです。おもしろいのは、たとえ買わなくても「退店までにフェイスマスクを10種類もチェックしている」というような店内での動きがわかること。

小売店にとっては「AとBがよく比べられているから、一度Aだけ目立つところに置いて売れ行きの差を見てみよう」とか、「アジア系観光客としか今まで認識していなかったけど、中国人の方が多かったんだ。それなら、中国の方に人気の商品を仕入れて手前に並べよう」といった棚割りの戦略が立てられます。

メーカー側も、「行動データ」を分析すると、海外向けマーケティングのPDCAが回しやすくなります。外国人観光客の方は、購買データの情報源となるポイントカード(TポイントカードやPontaカードなど)を持っていないことがほとんどなので、彼らがどういった購買行動をしているのかを追うことがほとんどできません。

一方、Paykeのユーザーはほとんど外国人観光客の方です。行動データをメーカーの方にお見せすると「海外の方がこんなに関心持ってくださってるんですね」と驚かれることもあって、現状でも外国人観光客の行動データ収集にお困りなことを実感しています。

Officeを使っている数多の企業に、Paykeを知ってもらいたい

――今、Paykeのシステム構築はマイクロソフトのAzureでされているんですね。

古田 そうですね。他にもクラウドサービスを検討しましたが、私たちにとってマイクロソフトさんが持つ信頼度の高さは重要でした。現時点でPaykeを利用くださっているのは、歴史ある大企業が多いんです。

そういったお客さまにサービスを説明する際、マイクロソフトのクラウドサービスを使っていることはプラスに働いていると思います。

また、現在は、マイクロソフトさんからAzureでのシステム構築支援や、クラウドの使用量や監視データを元にしたアーキテクチャやコストの最適化支援をいただいています。

――マイクロソフトから今後受けたい支援はありますか?

古田 まだまだ大それた話ですが、PaykeはマイクロソフトのOfficeのように、企業や社会に浸透するインフラになりたいと思っています。だからこそ、マイクロソフトのグローバルな基盤を活かした営業支援を受けられたらという思いがあります。

営業支援を受けたいもう一つの理由は、先ほどお話した通り「レガシー企業」のお客さまが多いこと。実は、Web広告の成果があまり得られなかったことがあり、レガシー企業の決裁権者は、自分たちとは情報源が違う可能性があるのではと思ったんです。

でも、マイクロソフトのOfficeを利用していない企業はないと言ってもいい。Officeの提供で培われた信頼度と関係性をお借りしてPaykeをより多くの方に知っていただきたいです。

――では、マイクロソフトと協業してみたいことはありますか?

古田 まだアイデア段階ですが、Paykeをデータベースに、マイクロソフトのHoloLensをデバイスとして活用したサービスができると、自然に購買意欲を刺激できそうだなと考えています。

Paykeの行動ステップは、スマートフォンを取り出してアプリを立ち上げて、バーコードを読み取るというもの。

そのステップをなるべく減らしたいんです。ホロレンズをかけて商品を見ると情報が浮かび上がってくる。そんな風になったら、楽しみながら商品について深く知っていただけそうな気がします。

国際規格「バーコード」でモノの価値を届け、世界中の消費高を上げる

――国内での有用性の高さは理解できたのですが、越境EC(アウトバウンド)に取り組む事業者は、Paykeをどのように活用できますか?

古田 Paykeはインバウンド向けのサービスに見えますが、買う場所が変わるだけで基本的には同じこと。大切なのは「海外の方に欲しいと思わせられるかどうか」です。どちらも、商品ページを充実させて購買意欲と認知度を高めることがベースになりますし、インバウンド市場のデータは、そのままアウトバウンド戦略にも利用できます。

訪日して買ったものを、帰国後リピート買いしたくなるということは多い。そんなとき、Paykeのアプリを利用して、購入したものやその関連商品の広告をユーザーに届けることもできます。

――この先、取り組んでいきたいことについて教えてください。

古田 インバウンドに関しては、当社が最新のデータを最も大量に集めていると自負しています。その行動データを利用して、小売店への販売戦略コンサルティングや、メーカーへの海外プロモーションコンテンツの制作サポートなどを行いたいと思っています。

またユーザーの利便性向上のためには、海外で販売されている商品データも蓄積していきたいですね。

そうすると、日本の方が海外の旅行先でバーコードをスキャンすれば、商品情報を日本語で知ることができますし、中国の方がタイに旅行したときにも、タイの商品を中国語で知ることができる。まずは、訪日外国人が訪れることの多い韓国国内の商品データを7言語で蓄積していきたいです。

日本にとっては、観光業だけが毎年2桁成長が見込める分野であり、言葉の壁は世界中の課題です。この先も、国際規格であるバーコードを活用し、グローバル展開に向けた準備をして、世界の買い物消費を拡大していきたいと思っています。