新型コロナウイルスの影響で在宅勤務や学校閉鎖が続く中、家族がずっと家にいて顔を合わせる状態が続いている。

ただでさえ、仕事が思い通りにいかないなか、憂さ晴らしに友人や同僚と飲みに行ったり、週末に外出したりすることもままならない現在、夫婦や親子間のケンカが増えているほか、甚だしきにいたっては家庭内暴力にまで発展するケースも報告されている。

コロナ状況下で少しずつ溜まるストレスを上手に解消し、家族と狭い家の中でも機嫌よく過ごすにはどうすればいいのだろうか?

「人の話を本気で聞く」宇宙飛行士のトレーニング

少人数で限られた空間の中、長時間過ごさなければならない現在の状況は、宇宙飛行士が置かれる状況と似ている(写真:アンドレ・カウパー氏 ホームページより)

限られた空間の中で少人数のメンバーが長時間生活を共にする――こういった状況を経験する人達の筆頭に上がるのは、宇宙飛行士だろう。彼らは一歩外に出れば死が待ち受けているような状況下で、少数の乗組員と狭い空間で、時には何カ月も一緒に生活しながらミッションをこなさなければならない。

オランダ人宇宙飛行士のアンドレ・カウパー氏もその一人。彼は2回目のミッションで193日間を「国際宇宙ステーション(ISS)」で過ごした。

同氏がオランダの一般紙『フォルクスクラント』に対して語ったところによると、こうした状況を乗り切るためにまず心掛けなければならないのは、「怖れやストレスを仲間とオープンに語ること」。トレーニングでは特に、他人の話を徹底的に聞くことを学ぶという。

「会話の中ではみんな、自分が割り込む瞬間を探して、自分の経験を共有したがります。他の人が言っていることは、実際に聞いていないのです」(カウパー氏)。まずはよく他人の言うことに耳を傾ければ、おのずと理解力が増し、苛立ちを乗り越えることができるのだという。

また、ハウスメイトであれ、家族であれ、グループ活動を大切にするのも、閉所空間でメンバーが仲良く暮らすには大切なこと。一日に一回は顔を合わせながら食事をしたり、ゲームをしたり、掃除やペンキ塗りなど一緒に作業をしたりすることを勧めている。

ほかにも各自がしっかりと身体を動かし、よく寝ることも、メンバーの円満な関係を保つためには必要不可欠だという。宇宙飛行士は筋力を保つために毎日1時間半の運動をしなければならないが、家ではそこまでしなくとも、動画インストラクションを見ながらエクササイズをするだけでも十分なのだ。

さらに、カウパー氏はミッション中、ISSの片隅で育てられていたズッキーニの匂いを嗅いだり、鳥の鳴き声の録音を聞いたり、日記を書いて考えを整理し、自分を振り返るようにして、自らの心を整えていたという。また、電話などで離れた友人とコンタクトを取り続けることも、閉塞状況を乗り越えるのには有効だったという。

子供とは「機内で過ごす感覚」で

子供には好きなだけテレビを見せてもいい。機内にいる感覚で(写真:Pinterest)

学校や保育園が閉鎖になり、一日中家で小さな子供の相手をしなければならないこともストレスとなる。期間が決まっているならともかく、先が見えない状況下で、どうすれば子供に機嫌よく接し続けることができるのだろうか?

英『ガーディアン』紙によれば、育児に関する情報サイト『Fatherly』の編集者であるジョシュア・デービッド・ステイン氏は、「飛行機の中にいる時と同様、子供たちは好きなだけテレビを見てもいいんです。少なくとも今のところは、機内とほとんど同じ状況です」と語っている。

親もストレスが溜まりがちな中で、子供に爆発する場面もあるかもしれないが、そんな時は「自分を責めてはいけない」とステイン氏。「それは良くないことだけれど、世界の終わりじゃない。そのことで自分を痛めつけずに、次回はもっとうまくやればいいのです」と、くよくよしないことを勧めている。

『Fatherly』では、家の中で子供とできるゲームの数々を紹介。各アクティビティで費やす時間や必要なもの、子供が費やすエネルギーなども記してある。

例えば、家にあるものを使って、「家内ビーチを作ってみよう」。本来は、バカンスでビーチに出かけたのに、あいにく雨になってしまった時のためのアクティビティなのだが、現在の状況下でも応用できる。

「手書きゲーム」も典型的な室内ゲーム。子供と手書き文字の美しさを競うもので、大人は目隠しをしたり、利き手でない方の手を使って書くようにすると楽しさが増すという。これは室内のエンターテイメントになるほか、子供の読み書きや手の動きの練習にもなって、一石二鳥のゲームなのだ。

同メディアではこのほか、子供向けのポッドキャストのリストや、欧米の有名ミュージアムのバーチャルツアーなども紹介している。

自分のスペースを確保する

家族と家でべったりだと、自分の感情を吐き出すことができない苦しみもある。ジャーナリストのジェシカ・グロス氏は、ある週のハイライトとして、「スーパーマーケットに行く車の中で泣いたこと」を『ニューヨークタイムズ』に綴った。

彼女は家族が新型コロナウイルスにかかってしまい、悲しみや不安でいっぱいの中、子供たちの前では明るく振舞わなければならなかったことを説明し、「精神を浄化するために『車中の泣き』が必要だった」と語っている。

また、ある心理学専門家は、辛いことがあったときに「お風呂やシャワーで一人泣く」ことを自身のストレス発散法にしている。車中同様、一人きりになれて、誰にも遮られることのない空間は、鬱屈した気持ちを吐き出すために必要なもの。お風呂上りだと、すっぴんで目が少々赤くなっていても誰にも気付かれないし、長時間入っても怪しまれない点が、お風呂のメリットだという。

ジョージワシントン大学医学部・精神医学の臨床助教授プージャ・ラクシュミン博士によると、「自分のスペースを見つけて自分を振り返ったり、思いにふけったり、感じたりするのは大切な瞬間」。

前述のカウパー氏が、ISSの片隅でズッキーニの匂いを嗅いだり、日記を書いたりしていた時間も、こんな瞬間に当たるのだろう。精神の健康を保つために、どこかで自分のスペースと時間を確保するように工夫したい。

ユーモアで苦境を乗り切る

男性の速すぎる回答が、笑いを誘う動画。ヨーロッパでロックダウンが広がり始めた頃、大いにシェアされた

「新型コロナウイルスのため、お前はこれから隔離状態に置かれるが、次のオプションから選べる。A:妻子と一緒に隔離される。B:…」

「Bだ。Bで頼む」

オプション内容を最後まで聞かずに、「B」と即答する男性に周りは大爆笑。ヨーロッパでロックダウンが広がった頃、欧米でこんな動画が出回って、みんな自分の置かれた状況を重ね合わせながら自虐的に爆笑していた。

あるオランダ人男性は、妻と2人で隔離状態にあることを「楽しい!ホントに心地いい!2人でいろんなことができるし、サイコーだよね!」と言いながら、自撮り動画を撮影。

しかし、妻に見えないように視聴者に見せる紙には、「彼女また飲んでる」「助けをよこしてよ!」「今すぐ!」「おねがい……」の悲痛なメッセージが書いてある。「囚われの身」となった男性の心の叫びが大いにうけて、オランダ人の間で拡散されている。

妻と2人で家に隔離された男性。動画では紙に書いたメッセージで「助けをよこして!」と訴える

一方、「チャレンジ」と銘打った面白いアクティビティも「インスタグラム」や「ユーチューブ」を賑わせている。中でも最近オランダで話題になったのは、「ピローチャレンジ(#Pillowchallenge)」。

オランダの有名スタイリスト、フレッド・ファンレールも「ピローチャレンジ」に挑戦(インスタグラムより)

枕とベルトだけの独自のファッションをつくって写真を撮り、インスタグラムでシェアするというもので、セレブたちもこぞって参加した。みんなが家にいるからこそ盛り上がれる「コロナネタ」の一つと言えるだろう。

自分が置かれた状況を客観的に見て笑い飛ばすことができれば、それは精神的に一歩突き抜けられたことを意味するのではないだろうか。閉塞感が漂う今だからこそ、共感と強さをもたらす笑いが求められている。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit