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在宅勤務、米国の現状。ワーク・フロム・ホーム(WFH)がメディアの注目トピック
4月13日時点で、感染者55万人、死者2万2,000人を超えた米国。感染拡大を防ぐため、在宅勤務を導入する企業が急増している。
マサチューセッツ工科大学(MIT)が4月6日に公表した最新調査によると、この4週間で在宅勤務に移行した企業の割合は34%に上ることが示唆された。同調査は、米国で4週間前に雇用された人々2万5,000人を対象に実際されたもの。全体の34.1%が雇用直後は出社していたが、今回の事態を受け在宅勤務になったと回答した。
コロナショック以前から在宅勤務をしていたという割合は約15%。これらの数字から、現在米国では労働人口の半数ほどが在宅勤務であることが推測される。
欧州など他の国・地域でも在宅勤務が増えており、在宅勤務を意味する「WFH(Work From Home)」という言葉が英語圏のメディアでは頻繁に登場するようになっている。
「WFH」に関するトピックは、在宅勤務が生産性を高めるといったポジティブなものから、逆に生産性を下げストレスを必要以上に高めてしまうといったネガティブなものまで多種多様。
在宅勤務が生産性を高めるか否かは、慣れ、業種・職種、雇用主の理解、自宅環境、ネット環境など様々な要因が複合的に影響する。ポジティブな影響の場合は良いが、生産性が下がる問題が発生したときは、これら数多くある要因をつぶさに調べる必要が出てくる。
パンデミック時の在宅勤務、働きすぎでなくても燃え尽きリスク
在宅勤務は、通勤する必要がなく、比較的ラフな格好で仕事ができるため、オフィス勤務に比べ自由度は幾分高くなる。こうしたことからストレスレベルは低くなるだろうと考えてしまうが、実際はそうではなさそうだ。
パンデミックによって、人々の懸念が増大し、普段の生活でのストレスレベルが大きくなり、それが仕事にも影響を及ぼし「燃え尽き症候群」になってしまうリスクが高まっているという。
燃え尽き症候群とは一般的に過剰労働の結果起こるものと考えられている。労働時間の管理をしやすい在宅勤務では、そのリスクは低くなることが想定される。しかし、パンデミックという状況下、人々は生活のあらゆる状況で「意識的」な意思決定を求められ「意思決定疲労」という燃え尽き状態になってしまうのだ。
米ボストンの心理学専門家ジャンナ・コレッツ氏はBBCの取材で、パンデミックによって人々は情報に圧倒されていると指摘。
パンデミックそのものに関する情報から、子供のためのスケジュール、生産性を高める方法、避けるべき行動、食べ物を買い込むか否か、など普段考えなくてもよい情報に圧倒され、また日頃「無意識」に行っている意思決定に多大なエネルギーを費やさなくてはならない状態に直面している。
このような精神状態で生産性を高めるのは難しい。意思決定にかかる負荷を軽減する必要がある。その方法の1つとして、衛生・安全面に関する情報は、ソーシャルメディアではなく信頼できる政府や医療機関のサイトを利用するといったことが挙げられる。
在宅勤務で燃え尽きないためのティップス、境界線の明確化とコミュニティ感の醸成
パンデミックに関係なく、在宅勤務というスタイルが燃え尽き症候群につながってしまうリスクも指摘されている。
在宅勤務は自由度が高まる一方で、仕事とプライベートの境界線が不明確になってしまう。仕事関連のメールはオフィスでしか見ないという人も、在宅勤務によって仕事時間外でもメールを確認する必要性に迫られ、生活リズムを狂わしてしまうのだ。
ロンドン・ビジネス・スクール(LBS)の研究者らによると、仕事関連のメールに対する意識は、大きく2つのタイプに分類することができる。1つは、仕事時間に関係なくビジネスメールの送受信をしても良いと考えているタイプ。もう1つは、仕事とプライベートを明確に切り分け、時間外にはビジネスメールの送受信はしたくないというタイプ。
前者が後者に対して時間外にメール送信したとき、それが緊急のものでなくても、後者は返信する必要性を感じてしまう。前者は後者が感じるこの強制感を低く見積もる傾向があり、後者はストレスをためがちだと指摘している。
在宅勤務への移行と仕事・プライベート境界線の不明瞭化で、この問題が深刻化する可能性が考えられる。
ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)4月3日の記事で、LBSの研究者ローラ・ジウルジュ氏らは、アリゾナ州立大学のブレーク・アシュフォース氏らの研究結果を引用し、自ら率先して境界線を明確化することで、このような問題を低減できると説明。
アシュフォース氏らの研究が示すのは、人々はスーツに着替えたり、通勤したりという物理的・社会的な行動によって、仕事とプライベートの境界線を(無意識)に決めているということ。
ジウルジュ氏らは、パンデミック時の在宅勤務でも、スーツを着たり、仕事開始・終了時に近所を歩いたりすることで、仕事とプライベートの境界線を意識的に明確化できると指摘している。
スーツで在宅勤務(イメージ)
また多くの学校や幼稚園が閉鎖され、仕事しながら子育てに追われる人も少なくない。9時5時での勤務が難しい場合は、子育てなどを考慮した労働時間の配分が必須になるとも述べている。子供の昼寝やご飯・おやつ時間には、そのことを周囲に知らせるだけでなく、チャットやメールに「out of office(不在)」の返信を用意するなどし、境界線を確保するのが良いとのこと。
プライベート領域の明確化に加え、仕事領域においては企業側のコミュニティ感を醸成する取り組みも重要になる。
在宅勤務に適した人もいればそうでない人もいる。Buffer.comが毎年実施しているリモートワークに関する最新調査(2020年版)によると、リモートワークにおける最大の問題として回答割合が最も高かったのが「寂しさを感じる(20%)」というもの。パンデミック時、この傾向は強まったいることが想定される。
パンデミックを受け在宅勤務に移行した米国企業の中には、バーチャル・ハッピーアワーやバーチャル・コーヒーブレークといった憩いの空間・時間を設けるところも増えているという。
感染拡大を防ぐには、不要不急のオフィス勤務をやめ、在宅勤務に移行することは賢明な選択といえるが、在宅勤務移行による社員のメンタルヘルスの変化は必然。その変化への対応が重要になってくるだろう。
[文] 細谷元(Livit)