INDEX
電子国家エストニア、新型コロナ危機にテックで応戦
世界中に広がる新型コロナ感染。各国は対応に追われている状況だが、その対応は国ごとの特徴をあらわすものとなっている。
「電子国家」と呼ばれるエストニアはデジタルテクノロジーを駆使した取り組みをいち早く導入。たとえば、3月中旬頃に政府系ウェブサイトに導入されたチャットボット「SUVE」は、新型コロナに関する公式情報のみをシェアし、フェイクニュースによる混乱を抑える役割を果たしている。
エストニア政府系サイトに導入された新型コロナ関連情報に特化したチャットボット「SUVE」
エストニアでは、SUVEのほかにも様々な対新型コロナのデジタル・ソリューションが登場し、その効果のほどに期待が集まっている。
エストニアで対新型コロナのデジタル・ソリューションが続々登場する理由は、同国が世界に先駆けて対新型コロナをテーマにしたオンライン・ハッカソンを開催したためだ。
参加チームが数時間〜数日間で特定テーマのデジタル・ソリューション開発を競うハッカソン。エストニアは3月13〜15日の日程で「Hack the Crisis」をスローガンとしたオンライン・ハッカソンを開催。世界各国のプログラマやデジタルクリエイターたちの参加を呼びかけた。
特筆すべきは、同ハッカソンが国を挙げたイベントであること。エストニアのカリユライド大統領も、国際コミュニティに対しHack the Crisisへの参加を呼びかけた1人なのだ。
Hack the Crisisには20カ国以上から約1100人がオンラインで参加。チューターと学生をつなげるマーケットプレイス、ウェアラブルを活用した新型コロナ診断アプリ、メンタルヘルスケア・プラットフォームなど様々なソリューションが登場した。
エストニアが先陣を切った対新型コロナのハッカソン。この動きに触発され、いくつかの国で同様のハッカソンが続々登場(詳細は後述)している。
エストニアも各地の動きに呼応し、Hack the Crisis第2段を4月9〜12日の日程で開催することを決定。
スタートアップメディアSiliconRepublicによると、世界的にパンデミックをハックする機運が高まっていることに加え、今回は当初から世界中のコミュニティに参加を呼びかていることから、100万人の参加が予想されているという。プールされた賞金額は12万ユーロ(約1,400万円)。
スイスやドイツも国主導でオンライン・ハッカソン開催
スイスでもこのほど対新型コロナのオンライン・ハッカソンが開催されたばかりだ。4月3〜5日の日程で開催されたハッカソン「Versus Virus」。政府主導のイニシアチブだ。
「Versus Virus」ウェブサイト
このスイスのハッカソンには263チームが参加。それぞれが48時間でユニークな対新型コロナのソリューションを生み出した。
その1つ「OldSchool」は、65歳以上を対象にしたオンライン学習プラットフォームだ。
外出自粛・禁止によって孤立する高齢者が増えている。デジタルサービスやデバイスを使いこなせる若い世代はソーシャルメディアなどでつながりを維持できるが、高齢者はそうはいかない。
この問題に対して、チューリッヒ大学の研究者らが出した答えが「OldSchool」という高齢者による高齢者のための学習プラットフォーム。テックサビーな高齢者とそうではない高齢者をマッチングさせ、高齢者全体のデジタルスキルを高めようという試みだ。
このほかメンタルヘルス・マネジメントの「Mental Care Advisor」やバーチャル・コクッキング・プラットフォーム「Dinner Party」など様々なアイデア/ソリューションが誕生した。
ドイツでも3月20〜22日の日程で対新型コロナ・ハッカソン「WirVsVirus(私達VSウイルス)」が開催された。ドイツ首相府のヘルゲ・ブラウン長官がパトロンに名を連ねる国を挙げたイベントだ。
ドイツ国内外から4万2,000人以上が参加、800以上のアイデアが生まれた大規模なハッカソンとなった。オンラインで自宅から参加できるため、他のハッカソンに比べ女性の参加が多かったと報じられている。
「WirVsVirus」ウェブサイト
これら800のアイデアには、機械学習を活用し自宅にいることを確認するアプリやリアルタイムでソーシャルディスタンスが機能する様子を確認できるダッシュボードなどが含まれている。
WHOやMITなど国際機関や大学もオンライン・ハッカソン開催
国が主導するものだけでなく、国際機関や大学主導の対新型コロナ・ハッカソンも開催されている。
世界保健機関(WHO)はテクノロジー大手企業と連携し「#BuildforCOVID19 Global Online Hackathon」を開催。TechRepublicによると、マイクロソフト、フェイスブック、ツイッター、スラックなどのテック大手企業は同ハッカソンの参加デベロッパーに対し、自社リソースを提供し支援しているという。
3月26日にプロジェクト申請が開始され、3月30日に締め切られた。応募総数は2万以上。4月10日に優秀プロジェクトが発表される予定だ。
またマサチューセッツ工科大学(MIT)も4月3~5日の日程でオンライン・ハッカソン「Beat the Pandemic」を開催。他のオンライン・ハッカソン同様に世界各国から参加者が集まった。
MITオンライン・ハッカソン「Beat the Pandemic」ウェブサイト
4月7日時点の最新情報によると、優秀プロジェクトの1つにインドの研究・高等教育機関マニパル高等教育アカデミーの学生らのプロジェクトが選出された。
この学生チームが考案したのは、スマホカメラとウェブカメラだけで心拍や呼吸数などのバイタルサインを確認できる非接触モニタリングの仕組み。実用化すれば医師や看護師の感染リスクを大幅に下げることができるソリューションだ。
今後も増えることが予想される対新型コロナのオンライン・ハッカソン。そこから生まれるユニークかつ強力なソリューションに期待を寄せたい。
[文] 細谷元(Livit)