新型コロナウイルス感染拡大に伴い、デマやフェイクニュースが多数出回っている。日々新しいフェイクニュースが飛び交い、中にはチェーンメール化していたり、風評被害や重大な健康被害などにつながってしまった例もある。

WHOは、このような事態をパンデミックならぬインフォデミックとして警鐘を鳴らしている。

WHOのデマ対策に関するウェブサイトに掲載されている画像「ニンニクを食べることは新型コロナに効くという証拠はない」

こうした警告があるにも関わらず、なぜ我々はフェイクニュースを信じてしまうのだろうか。

SNSはデマを拡散、真贋を見極める助けにも

「新型コロナウイルスは熱に弱いので、26〜27℃のお湯を飲めば感染を予防できる」。このようなデマを見かけたり、信じてしまった人もいるかもしれない。次々と新しいデマが飛び交うので、正しい情報を見極める力が一層求められている状態だ。

国際大学グローバル・コミュニケーション・センターのグループが、国内の10〜60代を対象としてフェイク・ニュースに関する調査をしている。調査では、「電波でムクドリが大量死している」などの実際に拡散した9つのフェイク・ニュースについてアンケートをとった。

その結果、フェイク・ニュースを嘘と気づかなかった人の割合は、60代がもっとも高く84.4%、続いて50代が80.1%になった。もっとも低かったのは40代で74%だった。

メッセージアプリやメールマガジンなどをよく利用する人の方が、TwitterなどのSNSをよく利用する人に比べて、フェイク・ニュースに気づかず拡散しやすかったのだ。他の人達のコメントがあるかどうかが影響しているようだ。

「4月1日にロックダウン(都市封鎖)する」というデマを見かけた人は多いのではないか。「民放各社にも連絡が入った」「安倍首相が緊急会見する」などと書かれたものが、3月末頃からTwitterやLINE上でチェーンメールのように出回った。

SNS上で関連投稿は500万件以上になり、30日にはとうとう菅義偉官房長官が会見で否定する事態となった。この時、元のデマ情報も多く飛び交ったが、「フェイク」「違う」というデマを否定する投稿も広がっていた。

たとえばトイレットペーパーが不足となったのは、「中国がマスクと同じ材料で作っているため不足する」というデマのせいというのが定説だった。

ところが実際は、デマは拡散されておらず、デマを否定する投稿自体が逆にデマを広げた面があるという。意見が分かれることには注意すると同時に、否定意見でも安易に投稿しない方がいいかもしれない。

SNSによって拡散力は格段に広がった。SNSは情報収集という面では便利にも使えるが、一方で誰もが情報を発信・拡散できるため、デマが極端に広がりやすくなっているのだ。

デマでは、風評被害も広がっている。たとえば長野県のある飲食店では、「感染者が店を訪れた」というデマがインターネット上に書き込まれてしまった。その影響で、それ以降は客数が以前の3割くらいにまで減ってしまったという。

止まらない新型コロナのデマ。“重要性×曖昧さ”が人々を惑わす

なぜフェイクニュースを信じてしまう人が多いのだろうか。

米国の心理学者が提唱したデマの公式によると、「情報の流通量=重要性×情報の曖昧さ」となる。新型コロナウイルス関連の情報は命にかかわるため重要性が高い上、まだわかっていないことばかりだ。つまりこの公式に当てはまるため、関連する情報はそもそも拡散しやすい。

米国ではこれまで「マスクは不要」と自国民に対して発信していたが、一部アジア諸国で効果をあげていることから、トランプ大統領もマスクをつけることを促すようになった。

このように情報は日々新しくなる上、不安で情報を求める人が多く、心配して善意で拡散してしまう人も多いことも、デマを拡散してしまうことにつながっているだろう。

フェイクニュースが拡散されているのは、日本だけではない。たとえば、3月半ばにはイギリスBBCを騙るTwitterアカウントが、俳優ダニエル・ラドクリフが新型コロナウイルスに感染したというフェイクニュースを投稿。

一見本物らしく見えたため、大手メディアのジャーナリスト等がリツイートしてしまい、拡散してしまった。実際はダニエルは感染していず、マネージャーが否定する事態となった。

ユベントスのアルゼンチン代表FWパウロ・ディバラも、感染したというフェイクニュースを拡散されてしまった一人。ユベントスでは既にDFダニエレ・ルガーニが感染していたことも、情報に信憑性を与えてしまったのだろう。

3月半ばにクラブがこれを否定、ディバラ自身がTwitterで「自発的に隔離された場所にいる」と無事を伝えることとなった。

イランでは、「アルコールが感染予防に有効」というデマが拡散された。その結果、密造酒を飲んだ2,000人以上がメタノール中毒に陥り、200人以上が死亡してしまったという。

フェイクニュースにはこのように、「◯◯が感染している」「感染者が◯◯に行った」「感染拡大で今後◯◯となる」「◯◯が新型コロナウイルス感染予防に効果がある」などのパターンが多い。人々は不安から疑心暗鬼になり、勝手に推測した結果を信じて拡散してしまうのだ。

新型コロナウイルス関連のフェイクニュースは、このように風評被害や重大な健康被害なども引き起こしているため、世界的に厳罰化の方向にある。

ホーチミン市の20歳の男性が、26日に「ホーチミン市は28日から14日間の都市封鎖(ロックダウン)措置が適用される」という投稿を自分のFacebookでシェアし、デマを拡散したとして罰せられることとなった。1,000万VND(約4万7,000円)の罰金を科されたという。

対応求められるIT企業、利用者はフェイクニュースにどう向かい合うべきか

フェイクニュースにはこのように問題が多いため、Facebook、Google、LinkedIn、Microsoft、Reddit、Twitter、YouTubeという米国大手IT会社7社が新型コロナウイルス関連の詐欺や誤った情報を排除するとして共同声明を出している。

Microsoft twitterより

例えば、Facebookではコロナウイルスに関わるニュースをチェックできる機能を実装し、リアルタイムでWHOや国家機関の近況を確認することが可能に。

また、Googleは、検索やYouTubeで新型コロナウイルスの関連情報を検索する日本のユーザーには、最新のニュースや、厚生労働省、世界保健機関(WHO)といった公的機関が提供する信頼性の高い情報へのリンクを表示するとのことだ。 

生活している我々にとっては不安な時期であり、心配になる情報をSNS内で見かけたら拡散してしまいたくなることもあるかもしれない。しかし、デマを拡散すると周囲に迷惑をかけそれ以上に大きな2次被害を引き起こしかねない。

もしそれを誰かに伝えようとするのであればまずは「疑い」を持ち、必ず情報の発信源を確認することを忘れてはいけない。もし情報の真贋が確認できないのであれば、拡散することはやめるべきだろう。

なお、ファクトチェック・イニシアティブの新型コロナウイルス特設サイトで、新型コロナウイルス関連情報の真贋についてファクトチェックしているので、参考にするといいだろう。

今、世界中で新型コロナの感染拡大が広がる中で我々の情報モラルが試されている時なのかもしれない。

文:高橋暁子