高齢化が進む欧米や東アジア諸国。ヘルスケアの発展や健康志向により寿命が伸びており、OECD諸国では余生の時間が20年以上という国も今や珍しくはない。多くの人は退職後のために十分な貯蓄をしていないうえ、政府の年金制度が前例のない緊張に直面している事態は、日本だけではない。

世界経済フォーラム(WEF)が発行した「Investing in (and for) Our Future」ホワイトペーパーや諸外国の記事を参考に、今回は世界各国の高齢化と余生時間の現状に触れつつ、各国の貯蓄ギャップ問題の深刻化とその議論の最新動向をお伝えする。

増え続ける高齢者人口と長くなる退職後の生活期間

高齢者の人口とその割合が増え続けている。世界経済フォーラム(WEF)によると、現在世界中で65歳以上の人口が5歳以下の人口を史上初めて上回ったとの試算がある。

国連の世界保健機関(WHO)統計では、今世紀半ばである2050年までには、世界人口の60歳以上の割合は2015年の数値12%のほぼ2倍である22%に達するといわれている。

それに付随して退職後の生活期間も長くなっている。ドイツのリサーチ機関Statista社は「誰が一番長い退職後の生活を送っている?」というタイトルで表をまとめている。

この表の中で余生の時間が最も長いのはフランスとスペインの女性。ともに26年という長い時間を過ごしている。フランスの男性は22.7年とOECD諸国・男性の中では最長で、スペインの男性は21.7年。続いてイタリアでは20.7年、ドイツでは18.9年などとなっている。

退職後人生を送る期間は、表の西ヨーロッパ諸国では男女ともに平均20年以上となる。これは、ヘルスケアの技術が高まっているのとともに、健康的な食事や定期的な運動を促進するライフスタイルへの、世界的な認識の高まりなどが影響している。

理想と現実、貯蓄ギャップの広がり

余生の時間が長くなること自体、長生きする人が増えることであり好ましいことだが、一方で余生に必要な貯蓄と実際の貯蓄のギャップが広がるという問題が各国で深刻化している。

WEFのレポートでは、各国の貯蓄ギャップの広がりを2015年のものと2050年の予想とで比較し表にしている。

これは世界の主要な年金市場または人口を抱える8か国(オーストラリア、カナダ、中国、インド、日本、オランダ、英国、米国)で調査されている。まず8か国全体で2015年には既に70兆ドルであったギャップが、是正措置が講じられない限り、年々5%ずつ増えていき、2050年までには400兆ドルまで拡大すると予測されている。

国別にみてみると、米国における高齢者の貯蓄ギャップは2015年に28兆ドルに上るものだったが、2050年にはその約5倍の137兆ドルに膨れ上がると見込まれている。

ギャップは毎年3兆ドルの割合で拡大しており、この増加の値は、米国の年間防衛予算の5倍にも匹敵する。中国でも2015年の11兆ドルから、2050年には119兆ドルになる見込み。日本では2015年の11兆ドルから年2%ずつ増えて、26兆ドルとなる。

国際機関が警鐘を鳴らし、拮抗する対策が各国で早急に求められてきているのは世界で自然の動きだと言える。

推奨される年金制度の仕組み作りと個人ができることは

WEFの報告書は、貯蓄のギャップを埋めるためには、政府、雇用主などの企業、資産運用会社や個人が貢献し、これらの資金の投資方法を最適化する必要があることを強調している。

それには新しい投資アプローチが必要で、政府は年金に対する従来型の万能アプローチを再考するだけでなく、リスクに対する姿勢を再設定することが含まれている。

年金規制を削減または調整することにより、個人は特定の退職状況をカバーするための長期リターンを増やす投資決定を自由に行うことができるからだ。

詳しく見てみると、政府の立場からは、たとえば最新のテクノロジーを使用して「ダッシュボード」による貯蓄の報告を促進することにより、支援することができる。

多数の退職口座がある人のため、年金と州の給付金に関する情報を1か所にまとめ、さらにそれを投資先など別にダッシュボードで見られるように工夫する形などである。

この方法はすでにオーストラリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン等で採用されている。また、シンガポールなど一部の国では、この考え方が政府主導の住宅や医療の特別口座の保有につながっている。

またレポートでは、多くがまだ活発な生活を送っている現在の退職者の生活の選択肢として、政府の仕組みを適応させ、より多くの規制緩和が必要なことを説明している。

たとえば英国とオランダは、貯蓄されている年金を利用して年金受領権を購入する要件を撤廃することにより、この道を進んでいる。その他の国でも年金の商品の年齢制限が解除され、貯蓄が促進されている。

企業からも関連技術を発達させることにより、コストを削減し、各自へのアドバイスなどをカスタマイズして改善することに貢献できる。金融サービス業界全体でも、柔軟なサービスの需要を理解し、退職商品を改善し資産の多様化を促進する必要がある。

では個人からはどうであろうか。Forbusの記事では、個人としてできることは多くあるとしている。カンザス州ピッツバーグ州立大学の金融教授であるケビン・ブラッカー教授が提唱するのは次のとおりだ。

・仕事を始めた時から退職プランへの貯蓄を早めに始める。

・退職用に貯蓄をし続ける。低コストの株価指数に沿ったファンドへの投資をし、市場が下落したときより多くの株式を購入する。

・投資には経費とリスク、販売手数料を見て判断し、経費を低く抑える。

・投資にかかる税金を低く抑える。

・どれだけ節約できるか、そして時間で複合金利がどうやって生まれるかを勉強し、実際にあるギャップをどうやって埋めるかを、現に数字を入れて計算し確認する。

教授は、「少なくともこれらの投資が自動操縦になるように貯金を置き、給与または預金口座から退職金に自動的に投資する計画を実行する。また、緊急資金も設定すること。どちらも簡単に設定でき、将来的に大きな違いを生むだろう」と記事で語っている。

退職後の貯蓄と実際に必要な費用のギャップを埋めるには、まずは政府が年金規制を緩和し、投資のための最良の長期選択を行う個人の能力を妨げることを防ぐ必要がある。そして個人でも、長期的な視点での投資や節約へのアプローチの実行は、リラックスして余生を楽しむのに十分な資金を得ることに繋がる。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit