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女性活躍推進法が施行されてから、今年4月で早4年。女性活躍推進法は、女性が自由に活躍できる職場づくりを目指し、それによって豊かな社会を実現するために制定された法律だ。
当初は「2020年までに女性管理者の割合を30%に引き上げる」ことが目標に掲げられていたが、HR総研が行なった「『多様な働き方』実施状況調査」によると、日本国内の女性従業員の比率は「10〜30%」が最多、また、女性管理職比率においては、約半数が「0〜5%未満」という結果が出ており、政府が掲げる目標には遠く及んでいない。(2019年11月時点)
さらに、2019年3月にILO(国際労働機関)が発表したレポート「変化のためのビジネス事例」によると、世界の管理職に占める女性の割合は27.1%と言われており、世界でも依然として仕事間での男女の格差は大きいと言える。
また、同レポートでは、各国の管理職に占める女性の割合も報告されており、日本の管理職に占める女性の割合は、なんと世界の管理職に占める女性の割合の2分の1をも下回る、12%という結果に。これは先進7ヶ国(G7)の中でも最下位であることを示している。
引用:「Women in Business and Management: The business case for change | International Labour Organization」
これを受け、日本国内でも、2019年6月に女性活躍推進法の改正法が公布されるなど、様々な取り組みが行われているが、女性が活躍できる社会を作っていく上で、今後何が必要となってくるのだろうか。
日本企業とグローバル企業の現状や、日本企業が抱えている問題などについて、女性のリーダーシップ開発を支援している「The Dream Collective」創業者 兼 代表取締役、サラ・リュー氏(以下サラ)にお話を伺った。
副業から、世界5ヶ国に拠点を持つグローバル企業へと急成長
——The Dream Collectiveの主な活動内容についてお聞かせください。
サラ:弊社は、一言で言うとBtoBのコンサルティング会社です。「一人でも多くの女性がリーダーシップを発揮し、より良い働き方ができるような社会を作りたい」という思いから、2012年に起業しました。
実は、当初はサイドビジネスとして取り組んでいたんです。当時は若手女性かつオーストラリア在住のアジア人ということで、差別や偏見も受けたのですが、現在ではありがたいことにGoogle、Adidas、ユニリーバなど、グローバルで活躍している大企業250社と提携させていただいています。
また、現在はメルボルン、上海、シンガポール、シドニー、東京に拠点を構え、グローバルに展開しているのですが、我々のビジネスの40%は何と日本市場が占めているんです。東京に進出してからまだ2年しか経っていないにも関わらず、凄まじいスピードで急成長を遂げています。
我々は、世界中で働く女性たちが、より自信を持って仕事をすることができるよう貢献していきたいと考えています。
女性のエンパワーメントの推進が、企業の発展につながる
——具体的なコンサルティング内容を教えてください。
サラ:女性従業員、男性従業員それぞれに向けた研修や、より多くの女性を採用できる企業にするためのブランディングなどをしているのですが、私たちがミッションとして掲げている内容は3つあります。
1つ目は「女性の従業員に応募してもらえるような会社にすること」、2つ目は「入社した女性従業員がずっと会社にいてくれるような環境を整備すること」、そして3つ目は「女性従業員がより成長し、より上の立場に立てるようにすること」です。
多くの働く女性は、自分にはポテンシャルがあると思っていても、なかなかそれを伸ばせるチャンスを与えられていないと感じています。すると、当然どんどん自信がなくなり、手を挙げる勇気が持てなくなってしまいます。
しかし「参加したい」と思っているにも関わらず、そこで手を挙げることができなければ、どんどん可能性も狭まり、小さな世界に留まってしまいます。私たちは、そういった女性たちが積極的に手を挙げられるようにするためのプログラムを提供しています。
内容はダイバーシティーやインクルージョンに関することが多いのですが、より競争率や生産性が高く、そしてパワフルな企業を作るためにも、企業はこれらをきちんと理解する必要があります。
そうすれば女性の能力を活用でき、優秀な人材の確保、生産性の向上など企業にとっても非常に多くのベネフィットをもたらすことができるからです。
——日本の企業とグローバル企業との大きな違いは何でしょうか。
サラ:日本では女性従業員に対して「女性に相応しい働き方」が求められていると感じます。
一方でグローバル企業は「女性だからこう」といったことはなく、男女ともに価値やポテンシャルが評価されており、ワークバランスも平等です。
つまり、従業員側は男女問わず進んで「価値ある人的資源になりたい」と思っており、企業側もそういった優れた人材を男女問わず積極的に使っていきたいと考えているのです。
例えば、採用をするにあたって、面接官が全員男性の時と男女半々ずついる時では、面接の結果が異なって来ますよね。また査定においても、検討しているのが全員男性だった場合と、女性が混ざっている場合で、結果が大きく変わってきます。
グローバル企業では、女性自身に変化を求めるのではなく、自社のシステムを変えることに努めています。
日本の企業でもそういった改善すべき点に気づき、改めてシステムを見直すことでより良い方向へと改善していく必要があると思います。
世界共通で強く根付く「働く女性」への先入観
——現在の女性の働き方において、改善すべき点は何だと思いますか?
サラ:これは世界共通なのですが、社会では、働く女性に対して4つの先入観があります。
1つ目は、男性は成功すればするほど好かれる傾向がありますが、女性は成功すればするほど嫌われる傾向があるということです。
これは実際に行われた研究結果にも出ているのですが、ジョンとジェニファーという男女の名前を使用し「どちらに上司になって欲しいですか?」と聞くと、ほとんどの方がジョンを選びます。
これは正に、成功した女性よりも成功した男性の方が好かれる、という良い例ではないでしょうか。
2つ目は、自身のパフォーマンスに対しての先入観です。
男性と女性では、自身の業績が上がった時に理由をどこに求めるのかが違います。
例えば、男性は「私が頑張ったから業績が上がった」「私の判断が良かったから業績が上がった」など、自分自身の価値や内部的要因に理由を求めるのに対し、女性は「企業のお陰で業績が上がった」「上司に恵まれたから業績が上がった」など、外部的要因に理由を求める傾向があります。
3つ目は、企業が従業員のパフォーマンスを評価する際の先入観です。
男性は秘めている潜在能力や可能性など、将来性で評価される傾向があるのに対し、女性は実績や業績、経歴など、過去の行いで判断されることがよくあります。
例えば、前述したジョンとジェニファーが、同じ条件で同時に企業に応募した場合、ジェニファーは「この人は経験がないから不採用」と判断され、一方でジョンは「この人は同じ仕事はしたことがないけど、ポテンシャルがある」と判断されるといったケースがあるのです。
4つ目は、子どもを産んだ女性は、仕事へのコミットメントが減るという先入観です。
多くの企業は、女性が母親になった時に子育てに追われて仕事の時間が取れず、コミットメントが減るだろうと考えます。
しかし、男性は企業からそういった不安や疑問を抱かれることはあまりありません。むしろ、家族が増えることで、より責任が増えるためこれまで以上に働くのではないかと期待される傾向があるのです。
こういった先入観や偏見から、男性の働き方と女性の働き方には、非常に大きな隔たりがあるといえます。
変えるべきは女性ではなく、システムである
——こういったジェンダーバイアスは、日本でも蔓延しているのでしょうか?
サラ:これは、実際に日本でも行われた調査なのですが、この調査は「国際的なプロジェクトにチームの誰かを海外に送らなくてはいけない場合、誰を選ぶか」といったものでした。
これに対して「親になって一年以上たった女性を選ぶ」という項目では、64%以上もの管理職が「いいえ」または「分かりません」と答えました。
一方「親になって一年以上たった男性を選ぶ」という項目では、70%以上の管理職が「はい」と答えているんです。こういったデータからも、女性は社会から非常に様々な偏見や先入観を持たれているということが分かります。
しかし、女性は本来そういった社会的システムに、働き方や可能性を制限されてしまうべきではありません。変えるべきは女性ではなく、システムなんです。
——コンサルティングを行った企業や女性従業員からは、実際にどのような反応がありましたか?
サラ:プログラム終了後にアンケートをとったところ、「以前より昇進について、上司へためらわずに話すことができるようになった」という女性が、なんと70%もいらっしゃいました。
また「女性のリーダーシップについて話ができるようになった」と答えた方が65%、「さらなる高みを目指したい」「もっと昇進したい」など、より野心的な気持ちになれた女性の中間管理職が40%、「ダイバーシティやインクルージョンに関わる活動に自主的に参加するようになった」と答えたリーダーが22%、という結果が出ています。
こうして、我々のワークショップに参加したことで「組織内で自分の価値を認められている」と感じられるようになった方がいたり「今まで受け身になっていたけど、昇進について自分から求めても良いんだ」と自信を持てるようになった方がいることは、我々にとってもありがたいことです。
そういったフィードバックをいただく度に、私たちもますますやりがいを感じています。
変化に貪欲になり、実際に行動することが重要
——今後の日本にとって、ますます女性が働きやすい社会を作っていくために必要なことは何だと思いますか?
サラ:弊社は、米国のシリコンバレーやオーストラリア、日本、シンガポール、マレーシア、パキスタンなど、世界中の企業と提携させていただいているのですが、多くの企業を見てきた上で感じることは「どの国でも似たような問題を抱えている」ということです。
ただ、中でも日本市場は非常に独特な市場であると感じています。他国と比べると、日本は変化することに対して非常に高いハードルを持っているという印象です。女性のエンパワーメントや育て方など、改革しようという意識や議論は慣れているものの、行動までに時間がかかっています。
そのため、より変化に貪欲に決断する勇気や、変化するための覚悟を持つことが大切だと思います。
しかし、内部から変わるというのは、なかなか簡単なことではありません。自社を客観視するためには、誰かの助けを借りることも必要です。
そのため、自社の知識や経験だけで解決しようとするのではなく、色々な事例に取り組んだ経験のある専門家と組むことが、一つのソリューションに繋がるのではないかと思います。ブレイクスルーは、時には外的な力によって簡単に打破することができるからです。
日本には素晴らしい伝統や文化があるので、それらを尊重しつつ、海外の好事例などを取り入れていけば、より素敵な社会になるのではないでしょうか。
意識を高めるだけではなく、貪欲に動くことが、新しい1ページを開くための一歩につながります。先延ばしにするのではなく、今こそページをめくる時です。
取材・文:Sayah
写真:大畑朋子