国内最大級のターミナル駅である東京駅は、食の一大中心地でもある。そして世の常として、消費が大きいほど、一方で莫大なロスも生まれてしまう。

このたび、そうした現状を変えていくために、ある実証実験が実施された。東京駅エキナカ商業施設・フードロス削減「レスキューデリ」実証実験である。

東京駅地下1階の八重洲側と丸の内側をつなぐ改札内最大のショッピングスポット、グランスタ。約3550㎡の売り場面積に並ぶ97店舗中、コンビニを含むパン・弁当取扱店が37店舗と4割弱を占める。

このエキナカ商業施設においてはかねてより、閉店まで品揃えを確保する必要性や、天候によって見込み客数が大きく変動することなどにより、大きなフードロスが発生する課題を抱えてきた。

そこで、2017年より実施している「JR東日本スタートアッププログラム」の一環として、フードシェアリングサービス「TABETE(タベテ)」との連携による実証実験を1月14日〜2月14日の1ヵ月間行った。

6店舗で日に70kgの商品が売れ残る

今回実証が検討されたシステムは、エキナカ商業施設での販売しきれなかった食品を、駅で働く従業員に安く販売するというもの。平日は毎日、店舗が閉店する午後10時に、TABETEを運営するコークッキングの「レスキュークルー」が各店舗を回って回収し、東京駅構内の休憩室に即席の実店舗「レスキューデリ」を開店。パンなら詰め合わせ3袋が300円、弁当なら1個500円などの割安な価格で販売する。


駅の従業員が帰宅前に購入していく。レスキューデリ公式LINEに登録した従業員には予約受付・配達も行う

実験の対象となっている店舗はブランジェ浅野屋、BURDIGALA EXPRESS、笹八など6店舗。主に弁当、パン、おにぎり、惣菜などだ。いずれもエキナカの人気店で、パン1つが300円近くする商品もあるから、詰め合わせを300円で入手できるのは、買い手にとってはかなりお得と言える。

取材した2月7日は金曜日だったからか、売り切れなかった商品は少なめ。笹八にいたってはゼロであった。しかし「レスキューデリ」開店の10時半を待たずして、販売場となる休憩室は勤めを終えた従業員で満員状態に。およそ10分ほどで売り切れてしまった。

運営を担うコークッキングによれば、多いときで回収が70kgに上る。また、休憩室の入り口に行列ができるほど従業員が集まることもしばしばだそうだ。

「休憩室が建物の端にあることや、終業時間が違うことなどによって、従業員の方に広くご利用頂くことの難しさはあります。商品が少ないときに来られると、次回来店してもらえなくなる可能性がありますし…。ただ利用して頂けている従業員の方には喜んで頂けていると感じています」(コークッキング)

廃棄物処理費、分別などの負担が軽減

では、店舗側はどう受け止めているのだろうか。

おにぎり、弁当などを販売する笹八では前年の販売データをもとに販売予測を立てて商品を仕入れているものの、天候などによる影響を大きく受けるそうだ。例えば、このたびのコロナウイルス感染症の発生で売れ行きは大きく下がったという。主力商品であるおにぎりは、中国観光客からも需要が高いため、中国観光客の減少が大きく響いているようだ。

「売り切れなかった商品はこれまで処分せざるを得ませんでした。廃棄の経費がかかるほか、生ゴミ、プラスチックの仕分けには長いときで2時間ほども要します。それらの負担がなくなっただけでも、今回の取り組みには大いに助かっています」(笹八)

また、ベーカリーのBURDIGALA EXPRESSでも、売れ残った商品を処分する際には、種類ごとに数を数え、袋から出して分別するなど、かなり手間暇がかかるのが悩みだったという。

「コークッキングさんのTABETEにも参加させて頂いていますが、今はスタッフの負担が少ないレスキューデリを主に利用させて頂いています」(BURDIGALA EXPRESS)


回収した商品はその場で量を計測する。1kg300円でコークッキングが買取

ここでTABETEについて補足しておこう。TABETEは、今回運営を担っているコークッキングのメイン業務で、フードロスに困っている店舗とお客をマッチングするアプリだ。

TABETEでは、店舗側は営業時間中に余りそうな商品を写真に撮り、アプリにアップ。定価より安い、250〜680円で売りに出す。お客(TABETEユーザー)はアップされている商品を購入し、お店に足を運んでピックアップ。お金のやりとりもアプリ上で行うので、お店側は負担なくフードロスを削減できる。お客は商品をお得に購入するほか、社会にも貢献できる。

実は東京駅ではすでに2019年8月より、TABETEとの協業を開始。鉄道会館が運営するグランスタ・グランスタ丸の内内の6店舗がTABETEに登録している。

BURDIGALA EXPRESSもその一つだ。ただし同店によれば、営業時間中では、商品を袋に詰める、写真に撮ってアップするなどの手間が負担となる。今回のレスキューデリでは店舗側で行う作業は営業終了後の袋詰めだけなので、店舗側にとってはありがたいのだそうだ。

レスキューデリが実用化することで、TABETEのビジネスを圧迫することはないのだろうか。

コークッキングでは、「登録店舗様は営業中に売り切りたい商品はTABETEにアップするなど、TABETEとレスキューデリをうまく使い分けて下さっているようです。店舗の利益としてはTABETEに出品するほうが大きくなりますので」(コークッキング)と、前向きに捉えているようだ。

つまり、TABETEでは1個あるいは1袋あたり250〜680円で販売するのに対し、レスキューデリでは、キロあたり300円でコークッキングに買い取ってもらう。単純に値段だけ見れば、TABETEのほうが利益が高いわけだ。実際には店舗側では、人件費、廃棄物処理費用などそれぞれの状況に照らし合わせ、効率を見て双方のサービスを運用しているということだろう。

TABETEの会員数は514店舗約22万人まで拡大している(2020年2月14日現在)が、さらにフードロス削減の取り組みを広げて行くには、企業や自治体といった組織と連携した、より大きな枠組みでのシステムが必須となってくる。

その意味で、JR東日本スタートアッププログラムの一環として実施する今回の取り組みは、大きな一歩となるわけだ。

現場で汗をかくことで、実効性の高いシステムをつくる

実証実験のもう一人の担い手、JR東日本スタートアップはどのような期待を抱いているのだろうか。

同社はJR東日本を持ち株会社とする、JR東日本スタートアッププログラムを運用するための企業。駅や鉄道など、JR東日本グループの資産を活用できるビジネス、アイディアを広く募集し、優れたアイディアを持つベンチャー企業などに出資するほか、事業共創に向けて支援などを行うことがメイン業務だ。

スタートした2017年からこれまでに63件の提案を採択している。

大きな特徴が、「現場主義」。プロジェクトの立ち上げにおいては同社社員がベンチャー企業といっしょになって汗をかき、より実効性の高いシステムをつくり上げていくことを旨としている。

例えば、無人駅でグランピング施設を運営、新潟で獲れた新鮮な魚介を新幹線で運び、品川駅内で販売、などのユニークな実証実験を手掛けてきた。

JR東日本の傘下である鉄道会館(東京駅構内、周辺商業施設を運営)との協業は今回が初めてとなる。

「レスキューデリは2019年4月に応募があり、8月に採択されました。グランスタにおけるTABETEの運用と時期はかぶったものの、もとは別々に進んでいたプロジェクトです。

今回の目標は、日に50食をレスキューすることです。開始してちょうど半ばの時期ですが、目標はクリアできることが分かってきました。あとは、今アナログ(手作業)で行っているところを、システム化して効率アップできるように、課題を洗い出して検討していきます」(JR東日本スタートアップ アソシエイト 佐々木純氏)


開店時間前の時点で商品が残りわずかに

売場が限られることや配送面での人手不足など、いくつか改善点は挙がってきている。とくに現在は実験規模ということで参加を6店舗に限っているが、店舗数を増やした場合のオペレーションなども課題だ。2月14日までの実験期間終了後、あまり間を置かずオペレーション改善などを行い、近く実用化に踏み切りたいとのことだ。

東京駅という大規模な食の中心地において成功できれば、他のターミナル駅や商業施設にも応用できる。その意味で、JR東日本スタートアップ、コークッキングともに大きな期待をかけているようだ。

「予想外だったのが店舗様の反応です。売れ残っていたものなので、『売れないですよ』と出品を遠慮する方も多かったのですが、実際売れるとやっぱり喜ばれる。今まで廃棄するしかないと思っていたものが商品になる、その気づきを得てもらったのが、大きな収穫だと感じています。今回、店舗経営者、スタッフ、商品を購入する従業員の方と、さまざまな立場の人がそれぞれにフードロスへの意識を持ってくれるようになりました。さらに個人でTABETEを利用するようになったりと、さらに広がっていくと嬉しいのですが」(コークッキング 取締役 篠田沙織氏)

コークッキングが掲げる理想が、「三方良し」。つまり、店舗、消費者、環境(社会)の三者にとってメリットとなることだ。今回の実証実験を通じ、その理想にまた一歩近づいたようだ。

取材・文・写真:圓岡志麻