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伸び続ける平均寿命、2500年には寿命が200歳に?
世界に先駆けて、超高齢化が進む現代日本。
1950年の平均寿命をみてみると、男性は59.57 歳、女性は62.97歳だった。だが、2000年には男性が77.72歳、女性が84.60年へ著しく伸長。男女いずれも、50年間で約20歳伸びた計算になる。
このペースを維持すると仮定すれば、日本人の寿命は2050年に100歳、2100年に120歳、2500年に200歳になる計算だ。
一昔前は、100歳が長寿の目安とされており、厚生労働省は、1963年以後、老人の日の記念行事として、100歳を迎える高齢者に内閣総理大臣からのお祝い状と記念品を贈呈している。
だが現在は、100歳まで生きるのは決して無謀ではない話。
医学の急速な発展により、現在なら100歳はおろか、200歳まで生きることは決して夢ではないのだ。
「人間の寿命は120年」という説もある。これは、俗に「命の回数券」とも言われるテロメアを使い切るのが120歳のころ、というのが理由だ。
しかしその一方、人間の脳は100年どころか200年でも、300年でも生きると主張する科学者もいる。もちろん、年齢を重ねれば重ねるほど脳は萎縮し、認知症などの障害がみられるリスクは高くなる。
脳の萎縮の早さや程度は個人差によるところが大きく、また部位によっても差がみられるため、一概には言えないが、仮にこうしたリスクを無視すれば、人間の脳は思う以上に長生きだ。
ミラノ大学の薬学者・神経生物学者であるミケーラ・マッテオーリ氏は、「脳は老化しない。体のほかの細胞と違って、脳のニューロンは一度分化するとそのまま残る」と発表している。
もし、「脳は老化しない」ということが事実であるなら、脳よりも体の方が先に寿命が尽きることになる。ということは、たとえば人造人間のような、人工的な体に脳を移し換えれば、人間は何百年も生き続けることが可能になるということだ。
不老不死に対する3つのアプローチ
そもそも、人間が不老不死をめざすには、大きく分けて3つのアプローチがある。
一つ目は、体を低温の状態に保ち、その後、蘇生させるというもの。
二つ目は、老化する要素を排除し、延命するための薬を作るというもの。たとえば、アメリカのMITでは細胞の新陳代謝を促進する化学物質を入れたカプセル錠剤を開発。実験により、このカプセル錠剤には延命効果があることを明らかにしている。
三つ目は、人間の頭脳を不死身のボディーにアップロードするというもの。
たとえば、ロシアでいくつかのメディア企業を運営するドミトリー・イツコフ氏は、すでに「2045イニシアチブ」というプロジェクトを進めている。これは、人間の脳をコンピュータに移植する取り組みで、実現すれば、人間は脳が寿命を迎えるまで、永遠に若さを保ち続けることができるようになる。
まるでSF映画のストーリーのようにも聞こえるが、実際、神経工学の分野において、脳のモデリングや生体機能の修復や置換を可能とする技術の発展へ向け、世界は現在も進化している。
ロボットに脳を移植する取り組みを進めているイツコフ氏は、「2045年までには人体に負けないぐらいの魅力を備えた人工的な体が造られるだろう」と予測している。
このプロジェクトでは、まず、自分の思い通りに操作できるロボットを作り、次の段階で人間の脳をロボット移植。その後は物理的な移植を行うかわりに、「脳のコンテンツ」をロボットにアップロード。「最終的には有形のロボットではなく、人間の意識のホストになれるホログラム・タイプのボディを開発したい」と、イツコフ氏は述べている。
つまり、イツコフ氏が目指す最終段階では、「肉体」が介在する余地がなく、人間は単なるデータの集積に過ぎないのだ。
GoogleなどIT経営者たちが注目するアンチエイジングの可能性
2013年、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジ最高経営責任者 (CEO)は、医療会社Calico(カリコ)を設立。資金を投入すると発表した。
いわば、グーグルからスピンオフした形のカリコが行うのは、アンチエイジングの研究だ。
カリコはハダカデバネズミという生物を3,000匹以上飼育しているが、ハダカデバネズミは通常のハツカネズミより、寿命が10倍も長いとう。その理由について研究を進めたところ、ハダカデバネズミには加齢とともに死亡する確率が高まるという現象が発見されなかった。
カリコは具体的な研究内容やその目的を明かしていないが、不老不死の実現に向けて、アンチエイジング(抗老化)の研究を進めていることは明らかだ。
Calico ウェブサイト
また、アメリカの西海岸のシリコンバレーやその周辺でも、現在、アンチエイジングのスタートアップが急増している。
電子決済サービス「ペイパル」の創始者ピーター・ティールや、シンギュラリティーに関する予言で知られる未来学者レイ・カーツワイルも、「老いや死は、科学技術の発展で克服できる」と主張している。
なぜ、彼らがアンチエイジングに熱心なのかといえば、仮ににすべてのがんを克服しても、人類全体の平均寿命は4年しか延びないという説がある一方で、仮に老化を遅らせられれば、健康寿命を10~20年も延ばせる可能性があるためだ。
どれだけ平均寿命が伸びても健康寿命が伸びなければ、人間は真の意味でしあわせとは言えない。
そのため、アンチエイジングの研究を加速して、「老いない」「病気にならない」「死なない」という人間の可能性を追求することに意義を見出しているのだ。
不老不死は、本当にしあわせをもたらすのか
しかし、こうした不老不死が本当に実現した場合、一体、社会はどのように変わるのだろうか。
人間は、本当にしあわせな人生を歩むことができるのだろうか。
ここでは、現在イツコフ氏が進めているような、脳をロボットに移植する技術が完成・普及した場合の未来について想像してみる。
まず、社会構造自体が崩壊するというリスクがある。
人類全員が脳をロボットに移し換えれば、誰も、子供を生み育てなくなるだろう。社会のシステムは停滞し、革新や変化は生まれなくなり、世代交代も行われず、経済的にも文化的にも次第に先細りになっていき、その結果、社会は崩壊する。
さらに、財産の有無を問わず、人類の全員に対し、均等に不老不死の技術が提供されるわけではないだろうから、絶対的な階級格差が生まれるのは間違いない。それは、貧富の差どころの話ではなく、まさに「命の格差」となって、社会全体を混乱の渦に巻き込むはずだ。
また、死というものの存在が、今まで以上に大きくなることが予測される。なにしろ、富さえあれば誰でも不老不死の身体を手に入れることができるのだ。
だが、たとえばテロの爆弾で脳が粉砕された場合や交通事故で脳が木っ端微塵になった場合は、脳をロボットに移すことができないため、その人には永遠の死が訪れる。誰もが死なないというしあわせを享受するなかで、その者にだけ、突然訪れる死。その恐怖は、現在の比ではないはずだ。
そして、脳が不死のロボットに移されるようになれば、人間は単なるデータの集積となり、意識は瞬時に広大なネットワークにアクセスできるようになって、「人間」という生物としての存在価値は失われていくことは間違いない。
脳だけがこの世に浮遊する存在となって、ロボットに移植され、永遠に生き続けるのだ。果たして、もしそうしたことが現実になった場合、物質的な人間がこの世に存在する意義とは、どこに見出されるのだろうか。
AIやテクノロジーが人知を超えた領域にまで発達しようとしている現代において、改めて原始に立ち返り、物質としての人間の価値を確認せざるをえなくなるというのは、ある意味、とても皮肉な事実だ。
こうした未来のシナリオは本当に実現するのか。
2045イニシアチブ
AIの能力が人類を超える「シンギュラリティ」は、2045 年に訪れると予測されており、イツコフ氏も自身が進める「2045イニシアチブ」を同年までに完成させると意気込んでいる。
それまであと25年。
その前の2030年頃には、人間の社会生活、経済生活あるいは価値観が大きく変わる「プレ・シンギュラリティ」(前特異点)がやってくるとされるが、「プレ・シンギュラリティ」の過ごし方を誤れば、シンギュラリティの到来を待つことなく、人類の存在自体が宇宙から永遠に消えてしまうかもしれない、と示唆する研究者もいる。
そうなるとこれからやってくる「プレ・シンギュラリティ」の時代において、人間はますます進化するAIやテクノロジーだけに目を向けるのではなく、改めて原始に戻り、「生」や「死」の持つ意味を考える必要があるのかもしれない。
文:鈴木博子