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2009年にBitcoin(ビットコイン)がリリースされ、その技術を応用してブロックチェーンはつくられた。
ブロックチェーンとは、時系列に沿ってチェーンのようにつながっているブロック状の取引データを分散して管理するシステムだ。その技術が10年経った今、ブロックチェーン技術は仮想通貨だけにとどまらず、金融、不動産、小売、医療など多くの業界で実用化されはじめている。
しかし改めて確認したい。既存のシステムがブロックチェーンに取って代わることで、私達はどのようなメリットを得ることができるのだろうか?
今回話を聞いたのはブロックチェーン関連事業を行う株式会社LayerX(レイヤーエックス)の執行役員である牧迫寛之氏。そもそもブロックチェーンとは何ができる技術なのか、また実装していくことで私達はどのような恩恵を受けることができるのかなど、詳しく話をうかがった。
ブロックチェーンとは、複数者間で真正性あるデータの保持が保証されること
牧迫 「ブロックチェーン技術に関して、皆さんマイニングやICO、分散性・Peer to Peer(ピア・ツー・ピア)やコンセンサスアルゴリズム、暗号技術など各々の特徴に着目して議論されるケースが多いと感じます。
その一方、ブロックチェーン技術を活用することで消費者など一般の人にとって何が良くなるのか、何が変わるのかといった議論が少ないと感じています。
様々な特徴のあるブロックチェーンですが、その技術がもたらすものは”参加者全員が「同じデータ」を「合意されたプロセス」で管理・保持していることが保証されること” と考えています。
これまでは、複数者の間で真正性(=改ざんなどがなく正しいデータであること)を保証した状態でデータを共有する際、人の手による確認など非常に煩雑なオペレーションフローを組む必要がありました。
しかしブロックチェーン技術を用いることで、真正性を持った状態でデータが参加者全員と共有されるので、前述のような煩雑なオペレーションが不要になります。
こういった特徴があるため、Bitcoinに代表される価値を移動させる時にブロックチェーンの強味を発揮します。
また、ブロックチェーンを更に噛み砕くと大きく2つの特性に分かれます。
ブロックチェーンにはいわゆる ①DLT(分散台帳技術…分散された台帳を真正性を担保した形で参加者全員で共有できる技術)と、②スマートコントラクト(参加者全員で検証可能なプログラムを用いて自動執行を可能とする技術)があり、それぞれ役割があります。
① DLT(分散台帳技術)
DLTは改ざんできない形で全員が同じデータを共有できる技術です。複数の企業が別々にデータを管理する必要性が薄く、参加者全員で同じデータを管理、共有したい時にDLTがメリットを発揮します。
② スマートコントラクト
スマートコントラクトはブロックチェーン上で共有される検証可能なプログラムです。事前に参加者間で合意されたプログラムによって処理が行われます。
プログラム自体はネットワーク参加者によって確認・検証することができるため、ネットワーク参加者はどういった処理が行われているかがわかります。またそのプログラムも改ざんが不可能であるため、①のDLTにおけるデータの真正性を担保する役割の大きな部分を担っています。
上記の①DLTと②スマートコントラクトの特性によって、ブロックチェーン技術は低コストで真正性のあるデータを参加者間で共有できます。
結果、データが正しいことや改ざんがないことを証明できることから、これまでの商取引で発生していた異なる会社・参加者間でのデータの確認・修正コストがなくなります。
ブロックチェーン活用のメリットとは
ブロックチェーン技術を活用することにより、同じデータを全員が管理・保持できる。ではそのような特徴によって得られる具体的なメリットとは何なのだろうか。
牧迫 「メリットの一つはオペレーションコストの削減です。
例えば契約書のやり取りで考えてみましょう。
契約当事者は、はじめに契約自体の合意をします。次に片方の当事者が契約書を2部製本して押印します。そして相手側に送付し、押印をもって両社押印済の原本ができます。最後にそのうち1部を返送してもらい原本を保管して完了、というプロセスで行われています。
これはお互いがその契約に合意した事実を記録するために行われているプロセスであり、当事者自身が合意した証として判子や署名を用いて紙に記録するものです(割印を押したりもします)。
このように、データの正しさを証明するコストが現実世界では発生しています。ブロックチェーン技術はこれをデジタルの世界でもできるようにしてあります。」
またもう一つのメリットとして、牧迫氏は一気通貫のシステムを構築できる点を挙げた。
牧迫 「もう一つのメリットは一気通貫のシステムを構築できる点です。このメリットの事例でよく挙げられるのは、資金証券決済です。
今の資金証券決済システムの場合、様々なシステムが絡み合って決済を実現しています。その理由は、複数のデータベース間でそれぞれの処理を行う際、真正性を担保しながら取引を進める必要があるからです。そのため連携コストや確認コストなど、様々なコストがかかってしまいます。
しかし本来、そのシステムが行いたいことは、買い手がお金を払い証券を受取る、売り手は証券を売りお金を受取るというシンプルな処理です。
ブロックチェーン技術を活用すれば、すべてのプロセスの集約が可能になります。その結果、これまで真正性を保証するために入力したデータを人の手で確認するなどのオペレーションコストを削減することができます。
結果、上流から下流まで一気通貫のシステムを構築できるのです。」
品質保証・本人証明・契約書。様々なブロックチェーン活用事例
仮想通貨やICOのイメージに代表されるブロックチェーンだが、今はそのような投機の対象のものにではなく、商用環境で価値を出している事例が着実に増えていると牧迫氏はいう。
牧迫 「最近のブロックチェーンの活用事例では、商業環境で価値を出している事例が増えてきました。中国では国を挙げて AI と IoT、ブロックチェーンに投資することが打ち出されており、実証実験にとどまらず、すでに商用化・実用化されている事例が多くあります。
例えば、テンセントが請求書をブロックチェーン上に乗せた事例です。
なぜブロックチェーン技術を活用したかというと、請求書も契約書と同じようにその請求書が正しいのか、間違っているのか、本当に発行したのか、発行者は誰かなどといったデータの正しさを証明するコストが非常に高いからです。
請求書が正しいことを証明されると、その請求書を担保としたファイナンスの仕組み(いわゆるファクタリング等)の発展が可能となり、資金調達手段になり得ます。」
また食品などの品質証明にもブロックチェーン技術が使用されている事例が出てきていると牧迫氏はいう。
牧迫 「品質証明に関しては、IBMや小売の大手などが事例を出しています。野菜で例えると、販売している野菜が有機野菜であることを証明すれば、野菜の価値があがります。生産者側にもメリットがありますし、販売者側にもメリットがあります。
仕組みはシンプルです。例えば農場から野菜を出荷する時、その農場の人しか知らない秘密鍵で野菜のロットに対して署名を行います。
このような署名をロジスティクスの一連の作業者(運送業者など)が各ポイント(配送センターや空港、港など)で行うことにより、その野菜がスーパーに並ぶまでの一連の流れをブロックチェーンでトラックしています。
またGPS 情報なども記録すれば、本当に産地が正しいかどうかも分かります。つまり消費者側が付加価値を感じる情報に対して、その真正性を証明することが可能になりました。
ロジスティクスは、取引自体に多くの参加者が存在するためブロックチェーン活用の意義も大きいと思います。関連して、国際貿易などの分野でもブロックチェーンの導入が進んでいます」
ブロックチェーンの時代はやってくる。今後の動向とは
現在ブロックチェーンの事例は着実に増えており、相性の良い金融などの領域で活用はさらに進んでいくと見込まれている。そして今の日本はブロックチェーン技術を理解したうえで、試行錯誤している時期だと牧迫氏は語った。
牧迫 「日本は今、実証実験を推進し商用化に向けてトライ&エラーを進めているフェーズだと捉えています。国レベルでも、日本銀行が3年以上実証実験を続けていますし、経済産業省もブロックチェーン技術調査を続け、補助事業も実施しています。
過去2、3年はブロックチェーンは何に活用できるか日本も海外も模索していた時期だったと思いますが、今はそれが鮮明になってきて適切な活用領域が見えてきました。
そのため、現在はビジネスモデル等含め、現実的にどのように活用するか決める段階に入ったと感じます。一方日本の場合、中国など実用化例が多く出てきている国と比較するとその動きは少し遅れていると感じています。」
AIやIoTといった技術と比較すると、ブロックチェーン技術が活用されるのは人から見えづらい領域だが、だからこそ可視化されていないコストを改善できると牧迫氏は語った。
牧迫 「ブロックチェーンが実装されるのはAIや機械学習、IoTに比べて見えづらい部分です。
例えばAI、機械学習の領域であれば、契約書の画像をスキャンしたら自動でデータ化されたり、facebookの機能にあるように写真をスキャンすると人物の特定ができたと変化を目で見て確認することができます。
ブロックチェーンの知識がある人たちにとっては、どこに活用すべき技術なのかを理解されつつある一方、全く知らない人にとっては「Bitcoin、仮想通貨で使われている技術」程度の理解しかなされていないのが現状です。
ブロックチェーンの活用が推進されるポイントは「本来はコストだけれど、コストが見えづらく、認識されていなかった部分」という点だと考えています。オペレーションコストは指標化しづらく、実際問題いくらのコストがかかっているのか極めて不明瞭な領域です。
しかし、指標化しづらいだけでこういったコストは事業コストの大きな比率を占めうるものであると考えています。
また活用が進むことで新しいマーケットも生まれます。中国の事例ではすでにブロックチェーンがインフラになりつつあります。日本でも数年後には確実にブロックチェーンの時代が来ると感じています。
そしてブロックチェーンの活用が進むことで生まれる新しいマーケットを見据えて、水面下で動いている企業は多いです。
そういった動きが2、3年後表面に現れる時、そこからさらに派生するビジネスもまた大きく成長すると予測しています」
ブロックチェーンは現在のところ、普段の日常からは見えづらい部分に活用されている技術だ。しかし実装が進むことによって契約書や本人証明などの確認の手間が減ったり、購入した商品の品質を担保してくれたりするようになる。これまで可視化されていなかった様々なコストを削減してくれる。
国内・海外を問わずブロックチェーンの活用事例は着実に増えている。ブロックチェーンだからこそ実現できる、”信頼”のデジタル化”というメリットを享受できる日が、そう遠くない時期に訪れるだろう。
取材・文・写真:片倉夏実