記録的な暖冬の今冬。日本各地の「雪国」は雪不足で、関係者が頭を抱えているというニュースは毎日のように流れてくる。2019年は秋に相次いで大型台風が襲来し、千葉県をはじめとする関東・東北地方はかつてない被害に見舞われた。

環境問題に疎いと自負する人でも、「何かおかしい」と、肌で感じ始めているのではないだろうか。

現在、世界規模で起こっている自然災害。温室効果ガスによる地球温暖化が温床となっていることは、周知の事実だ。本記事では、2019年に世界各地に甚大な被害もたらした自然災害を振り返るとともに、このまま温暖化が進んだ時の様々な影響について考察する。

2019年の自然災害損害総額、トップは日本の台風

2020年1月、ドイツの保険会社「ミュンヘン再保険」は2019年の自然災害による被害と損害額をまとめたレポートを発表。それによると、年間被害総額は約1,500億ドル。これは過去30年間の平均とほぼ同等であるが、うち額が最も高かったのは日本だという。

台風19号による被害が甚大で、損害額は170億ドル。保険支払い額は100億ドルにも上ったという。2位も日本で台風15号による被害。暴風雨による損害額は90億ドルで、保険支払い額は70億ドルであった。

日本を襲った2つの巨大台風は、東京近郊に甚大な被害を与えた。15号は風速時速170kmという爆速で東京湾を横断し千葉へ上陸。19号は、横浜から東京の大都市圏の真上を通過した。

19号は非常に大型で、関東・東北地方の広範囲に記録的な大雨をもたらした。河川では約140の堤防が決壊し、周囲はひどい冠水と洪水に見舞われた。

ミュンヘン再保険の気象学者Ernst Rauch氏によると、今回の台風は、赤道付近の太平洋の水温変化が影響しているという。とてつもない降雨量を伴う台風は、今後も起こり得る。氏は、被害に備えて予防策を講じることが、損害を最小限に抑えることに繋がると忠告している。

日本の国土約1/4に匹敵する土地が焼失。オーストラリアの森林火災

2019年9月より多発的に発生し、2020年1月に入っても沈静化の兆しが見えないオーストラリアの森林火災。乾燥した空気と雨不足が相まって、オーストラリア南西部の広い地域が炎に包まれた。

これまでに30名以上が亡くなり、10万3,000㎡と日本の国土約1/4に匹敵する土地が焼き尽くされた。これは1年前にカリフォルニアで起きた山火事の面積の256倍であり、山火事としては世界最大規模である。

焼失した中には、世界遺産のブルー・マウンテンズ国立公園も含まれ、約10億匹以上の野生動物が犠牲になっている。

地元紙によると、損害額はすでに20億豪ドル(約14億ドル)に達しており、保険請求額も7億豪ドル(約4億7,000万ドル)を超過した見込み。いずれも火災が続いている現在も更新され続けている。

火災が続くことで、膨大な量の二酸化炭素が排出されている。NASAによると、約1ヶ月でオーストラリアの年間CO2排出量の半分近い2億5,000万トンが排出されたとしている。これは今後も増え続け、Bloombergは9億トンに達するだろうと予測している。

死者1,000名、避難民290万人。モザンビークのサイクロン「イダイ」


2019年3月にアフリカのモザンビーク及び近隣諸国を襲ったサイクロン「イダイ」。死者1,000名以上、避難民290万人と2019年最大の惨事となった。

イダイはモザンビーク第二の都市ベイラを最大風速時速195kmの猛スピードで襲い、簡易建築であったほぼ全ての建造物を破壊した。それに伴う豪雨で広範囲が洪水となり、田畑をも飲み込んだ。

全体の損害額は23億ドルと、モザンビークのGDP約1/10に匹敵する。さらに、国民のほとんどが保険に加入していなかったため、保険の支払い額は当然ほぼゼロ。貧しい国にとっての自然災害は、先進国以上に深刻なダメージをもたらすことが実証された形だ。

この課題の解決のため、国連機関、世界銀行、そしてミュンヘン再保険を含む企業は2016年に発展途上国の保険問題を解決するフォーラムIDF(InsuResilience Global Partnership)を設立している。

過去最高気温を記録した、ヨーロッパの熱波

2019年6月はヨーロッパにとって過去最高に暑い夏となった。フランス、スペイン、ドイツ、イタリアなど西欧諸国に殺人的な熱波が到来。

6月28日、フランスのガラルグ・ル・モンテュでは、45.9度とフランス観測史上最高気温を記録した。スペインでは国内4ヶ所で山火事が発生し、約100㎢が焼失した。カタルーニャ地方の火災は、養鶏場の肥料が熱波で自然発火したことが原因ではないかと言われている。

また、ドイツのハンブルグで行われたハーフマラソンでは、100名以上のランナーが暑さのため倒れた。

過去500年のうち、ヨーロッパで観測された記録的に暑い年は、ここ17年に集中している。世界の気候問題を研究している専門家の団体WWA(World Weather Attribution)によると、ここ10年で起こった熱波は、気候変動によって発生した可能性があると分析している。

2017年に地中海地方に多大な被害を及ぼした熱波「ルシファー」は、気候変動により生じたリスクが10倍に高まっているという。

工業化により二酸化炭素濃度が40%増加。地球温暖化と自然災害の関係

気温の上昇をもたらす二酸化炭素。1750年代の産業革命の後、空気中の濃度はたった250年の間に約40%も増加している。これは工業化による石炭や石油などの化石燃料の燃焼の影響が大きい。すでに気温は1度、ここ100年で海面は19cmも上昇している。

気候変動が自然災害の直接的な起因になるとは、明確には言えない。発生要因は単体ではなく、複雑に絡むからだ。

しかし、世界気象機関(WMO)は「温室効果ガスの濃度が高まった結果地球の気温が上昇し、より頻繁に大きな被害をもたらすと予想される、気候シナリオと一致している」と述べている。

なお、現在最大の二酸化炭素排出国は中国とアメリカで、毎年50億トン以上を排出。両国で全体の半分近くを占める。日本はその1/4以下ではあるが、国としては世界第5位。個人排出量は4位と高い位置にいる。地球温暖化は、私たちにとっても無視できない課題である。

温暖化が進むとどうなる?

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、このまま温室効果ガスが排出され続けると、最悪の場合、2100年には地球の気温が4.8度上昇すると予測している。海面の熱膨張と氷河の融解などにより、海面は最大82cm上昇する。

これにより、熱波、山火事、サイクロン、台風、干ばつなどの自然災害リスクがより高まることは、容易に想像できる。さらにIPCCは、マラリアなど熱帯性の感染症の世界的な流行や、熱帯性低気圧の猛威による高潮、洪水リスクも示唆している。

自然災害による経済的損失は、1950年代には年間39億ドルだったが、1990年代には約10倍の399億ドルへ膨れ上がっている。今後、自然災害に対する保険料も、ますます増大することだろう。

比較的気温の低いアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本などの先進国にとっては、温暖化は「暖房費用が少なくて済む」など、プラス側面もあるかもしれない。

そして自然災害に対する技術力や資金力もある。しかし、熱帯地域に属する発展途上国においては、経済を含むあらゆる面に深刻な打撃を与える。地球温暖化は、さらなる地域格差を生み出すだろう。

地球温暖化が叫ばれて久しいが、実際に私たちが日常において実感し始めたのは、ここ数年ではないだろうか。目に見える変化は、数年、数十年と遅れて起こる。「気が付いた時には手遅れ」にならないよう、個々人が意識を持って「自分ごと」として取り組んでいく必要があるだろう。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit