昨今話題を独占してきた「ミレニアル世代」だが、人々の関心は徐々に次の「Z世代」に移りつつある。一般的にZ世代とは1997年前後から2012年前後の間に生まれた人たちのことを指す。

Z世代は世界190カ国以上で展開するマッチングアプリ、ティンダーでも注目を浴びている。同社は、10カ国にわたり、アプリを利用した人の特徴や行動を振り返った報告書、『イヤー・オブ・スワイプ』を毎年発表している。

昨年末発表になった2019年版で、利用者中最も多い層であることが明らかになったのがZ世代。恋愛においても、ミレニアル世代とは違った考え方が目立っている。


真実を求め、デモにも積極参加
© Susan Ruggles (CC BY 2.0)

Z世代は「真実を追求する世代」

米国大手のコンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーはZ世代を、「トゥルー・ジェネレーション(真実の世代)」と呼んでいる。つまり「真実を追求する世代」というわけだ。

目的意識が強く、そのために自ら進んで行動に出る。各人の個性を重んじ、レッテルを貼ったり、貼られたりを嫌う。人と人との対立を解決し、より良い世界にするためには、対話が重要であると考える。

一方、ミレニアル世代には、「ミー・ジェネレーション」という呼び名を付けている。要するに「自分を中心に考える世代」ということ。この世代の初期に属する人たちが生まれた1981年ごろは好況に恵まれ、自分のことを優先的に考えることが許される時代だったからだそうだ。

Z世代は、ミレニアル世代の次にくるとはいえ、ずいぶん違う意識と行動パターンを持ち合わせているといっていいだろう。


© Tinder

求む、「より良い世界」を一緒に築くパートナー

『イヤー・オブ・スワイプ』2019年版は、昨年1月から11月にわたる、世界のティンダー利用者のアプリの使用状況と自己紹介のデータを収集・分析したものだ。

報告書から見えてくるZ世代の大きな特徴は、「より良い世界を築きたい」という気持ちがあり、それを通して他者との結びつきを築いている点だ。

自己紹介で使う言葉で圧倒的に多いのが、「信念」や「目標」。ティンダーはこの2つの言葉をZ世代の象徴と捉え、「活動家世代」という別名も付けている。

マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析結果と同様、ティンダーによる報告書でもミレニアル世代との違いは明白だ。

「旅行」という言葉は両世代とも自己紹介で使っているが、Z世代の使用頻度はミレニアル世代のわずか3分の1に過ぎない。

パートナーを探す際に、旅行やスリルに富んだ冒険に触れ、一緒に楽しめる人を求めるミレニアル世代に対し、Z世代は世界を変えるべくお互いの信念や目標を語り合い、同じ価値観をもって共に目標に向かって進んでくれる人を求めている。

Z世代にとって一番大切なのは、「気候変動」と「環境」

Z世代の自己紹介に登場する言葉には、「気候変動」「社会正義」「環境」「銃規制」もある。「気候変動」と「環境」という言葉の使用頻度はZ世代の方がミレニアル世代より66%も高かった。Z世代が何に興味を持ち、情熱を注いでいるかは歴然としている。

ほかには、若者にとりカリスマ的な存在になっている、16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの名もよく引用されている。

最近はグレタさんの影響を受け、気候変動対策を訴えるデモが盛り上がりを見せている。その中心となっているのが、Z世代も含めた学生たちだ。「活動家世代」がグレタさんに触れない方がおかしいだろう。

ティンダーと並ぶマッチング・サイト、OKキューピッドでも、Z世代は「環境」を「世界平和」「病気の根絶」「経済」より重要視していることが明らかになっている。グレタさんの名についていえば、2018年に比べ、世界的に800%増しで、利用者のプロフィールに挙がっているそうだ。

米国Z世代の会話の中心は人権・環境問題関連の政治家


アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏。「AOC」の3文字で呼ばれることも多い
© Dimitri Rodriguez (CC BY 2.0)

ティンダーは米国に限り、Z世代の利用者が頻繁に触れる政治家についての情報もまとめている。

政治家とはいえないが、政治と関連が深い人物としてまずグレタさん。そして人権や環境問題に尽くす人の名も挙がる。最高裁判所判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏や、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏だ。

ギンズバーグ氏は連邦最高裁に3人いる女性判事の1人で、弁護士時代から女性とマイノリティの側に立ち、両者の権利獲得に尽力している。オカシオ=コルテス氏は昨年初め、気候変動に包括的に取り組む「グリーン・ニューディール政策」を打ち出した。

政策内容はもちろん、29歳と史上最年少で下院議員に選出され、現在30歳と年齢が近いこともあり、ミレニアル世代やさらに若いZ世代に支持されている。

また今年11月に大統領選挙を控えていることもあり、ドナルド・トランプ大統領を筆頭に、候補者であるジョー・バイデン、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン各氏の名も見られる。

下院議員議長を務める、民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ氏や、ロシア疑惑捜査で知られる特別検察官、ロバート・ミュラー氏などメディアで話題の人物も名を連ねる。

OKキューピッドはパートナーをできるだけ絞り込むために、利用者に5,000の質問を用意している。2017年には、「パートナーに求めるのは、『セックス』か、『政治における相性』か」という問いが加えられた。

約1年間で450万人以上がその質問に回答。ベビーブーマー、X、ミレニアルと、ほかが明らかに「セックス」を選ぶ一方で、Z世代はほぼ半々という結果が出ている。政治に執心するZ世代の姿はこんなところでも浮彫りになっている。


ティンダーのAndroidアプリ(Google Play)

マッチングアプリがNPOとコラボし、投票を奨励

「信念」「目標」を心に留める、「活動家世代」、Z世代に対し、ティンダーをはじめとするマッチングアプリを提供する数社はロック・ザ・ヴォートとコラボしている。

ロック・ザ・ヴォートは、米国内で若者に、投票すれば政治に影響を及ぼすことができることを知ってもらおうと活動するNPOだ。

ティンダーは、選挙登録を奨励する「スワイプ・ザ・ヴォート」を、また別のマッチングアプリ、ヒンジは、利用者がロック・ザ・ヴォートのインスタグラムポストに「いいね」をする度に、1USドル(約110円)を寄付するというキャンペーンを行っている。

ネバダ大学医学部で精神医学・行動保健学の教授を務めるキャサリン・ハートレイン博士はマッチングアプリにまで政治が入り込んできている理由を、ソーシャルメディア関連の最先端情報サイト、『マッシャブル』に話す。

「自分が持つ信念をチャットで話すことで、他者にも共感を持ってもらえるものなのかどうか確認したいからだろう」というのだ。

人というものは、心配なことがある時、ほかの人とのつながりを求めたり、自分が考えていることへの裏書がほしくなったりするものだ、とも博士は分析する。米国民の現在の心配事といえば、間違いなく今年行われる大統領選挙の結果に違いない。

各世代を研究し、将来予測され得る世代間ギャップについてを解説した『The Next America』の著者、ポール・テイラー氏は、政治が以前よりパーソナルなものとなってきていること、また民主党と共和党各々の支持者の二極化が進んでいることを指摘する。

子どものフィアンセが、自分とは違う政党の支持者だとしたらどうするかという問いに、結婚に反対するという親は1960年にはたった5%だったが、2010年には40%にも上ったという。政治は親子関係はもちろん、本来ロマンチックであるはずの男女の間にも明らかに入り込んできている。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit