2007年に雇用対策法が改正されて以来、事業主は労働者の募集及び採用について年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないと年齢制限の禁止が義務化された。しかし、それはあくまで表向きの求人への記載内容であって、実態として若手を中心に採用されている現状がある。

未経験転職は29歳まで、同業界でも35歳まで―――
そうした「転職限界説」を耳にしたことがあるビジネスパーソンもいるだろう。

日本で長らく続いてきた終身雇用に限界の兆しが見えつつある中、労働力不足が叫ばれる状況も後押しし、転職市場ではこの概念が崩壊しつつある。

日本人の平均勤続年数は12.1年で平均転職回数は「3回」であるのに対し、転職がさかんなアメリカの平均勤続年数は「4.6年」というデータから見ても転職回数は単純計算で「9回」は転職していることが分かる。

海外の平均的な転職回数は日本と比較して2~3倍多くなっている。転職回数をネガティブにとらえる会社は少ないため30代、40代になっても転職を叶えているビジネスパーソンは多数存在しているのが実態だ。

出典:国際労働比較 2018年/独立行政法人 政策研究・研究機構

筆者は20~30代を中心に転職支援をおこなっているが、近年は日本でも外国人労働者の増加やグローバル事業展開が後押しとなり、「転職回数」「年齢」に対し寛容な会社が増えた。それにより40代を越えても引く手あまたという転職強者を度々見かける。

そこで、今回は35歳限界説の実態と年齢を重ねても転職に成功するビジネスパーソンの事例や特徴を話そうと思う。

筆者が出会ってきた年齢を重ねても転職強者として君臨する人には共通する能力がある。それは「汎用性の高いスキル」×「恒常的に結果を出す力」×「素直で謙虚な人柄」だ。

同じ年数を生きていながら転職強者と弱者に分かれる能力はどんなものか、その分かれ道はどんなタイミングで訪れるのか、紹介していこう。

決断や行動の遅さはキャリアにとって致命傷

まず「汎用性の高いスキル」のひとつに、決断・行動力があげられる。

それが如実に表れているのは学生時代の過ごし方だ。「やりたいことが見つからない」「自分探しをする」といった漠然とした不安を抱える若者が多いが、不安なりに「まずやってみる」と決断・行動をしてきた量が多い学生は社会に出てからとんでもないパワーを発揮する。

しかし、体力と時間のある学生時代にこれができなかった人が、年齢を重ねてより忙しく、また社会的責任が増える社会人になってから突然できるようになることは稀なのだ。

筆者は「35歳限界説」を唱える人ほど、この「決断・行動力」が足りていないと考える。挑戦する前から諦め、たった1回の面接失敗で自己否定してしまい、「やはり限界だ」と思い込んでいるのだ。

しかし、35歳を超えても社会から求められる人というのは、1度や2度の失敗に落ちこまず行動を起こす決断と行動のスピードが早いのでチャンスを決して逃さない。

また、ファーストキャリアで就業開始した後の1~2年がその人の人生を大きく変える一つのターニングポイントになることが多い。せっかく良い大学へ進学し、1社目は難関の大手の内定を射止めても、組織に所属することで満足してしまう人が一定数いる。

また、逆に新卒で希望の会社に入れなかったことを世の中のせいにし、入社して1〜2年ただ不満をこぼしながら時間を消耗してしまう人がいる。

実際に、新卒では希望とは違う会社へ入社することになったものの、その環境で誰よりも成果を出す努力をし、中途採用でリベンジして見事オファーを獲得する者もいる。

肩書きだけでは戦っていけないのが社会であり、どのような環境でも自分が仕事でどうやって価値を発揮できるか、それを考え抜くことが大切だ。

自分は会社でどれだけ利益貢献できているかという視点

さらに汎用性の高いスキルをもう1つあげるとすれば、「物事を俯瞰して捉える力」という能力がある。今自分が置かれている状況や、目の前で起きる出来事に対し「Why?」と常に疑問を持ち、どのような原理・仕組みでそのような状況になっているかを客観的に構造的に理解する力である。

これは大手企業に長らくと勤めている人ほど鈍りやすい傾向がある。

たとえば、新卒の給与25万円×12か月、賞与2回(各1か月)で年収350万円。これは高いだろうか?安いだろうか?

「成果を出していないうちは十分」という捉え方もできるが、おなじ労働時間とある程度の水準で仕事を遂行するとして、売り手市場と言われる中で将来有望な若手を獲得するには安すぎるという意見もあるだろう。

こうした多角的な視点を持つことは仕事を遂行する上でも重要な能力であり、業務上のあらゆる課題を解決し、仕事を円滑に遂行する能力につながっていく。

この能力が顕著に現れるのは、就職活動や転職活動の選択をするタイミングだ。業界・業種によってなぜ収入に差がでるのか理由を理解しないまま、安定やネームバリュー、面白そうという理由だけで仕事を選ぶと3年後、5年後に不満を抱くことになる。

例えば利益率の低いビジネスモデルは1億円売り上げても経費や原価等で9,900万円が必要であれば100万円しか利益が出ない。しかし、1億円の売り上げに対し5,000万円の経費・原価等で済むとすれば5,000万円の利益が出るビジネスモデルもある。

自分の仕事は、いったいどれだけのコストがかかっていて、どれだけの利益を出せているのかという意識を持つことができる人は、社内評価だけでなく世の中で自分の仕事がどう評価されるかという視点があるため、常に転職市場と照らし合わせた仕事の取り組みが習慣となりどのような分野においても「恒常的に結果を出す力」が備わっていくのだ。

この視点がない人は、仕事で成果をだす能力が乏しいにもかかわらず「なぜ自分の給与が低いのか」「それは会社のせいだ」と怒り出し、仕事で発揮できる価値や根拠もなく「1,000万円がほしい」という野望を抱いたりする。

「素直さ」という最強のスキル

そして、筆者が35歳を超えたビジネスパーソンに最も大切にしてほしいと考えているスキルは「素直さ」だ。35歳を超えてもなお転職強者として引く手数多の人材に、傲慢でプライドの高すぎる人間は少ない。仮に内心はプライドと信念を持っていたとしても、「素直で謙虚な姿勢」を崩さないのだ。

35歳以上の転職希望者の支援をしていてよくある見送り理由に「オーバースペック」というものがある。要は、受け入れできるだけのキャパが会社側にないのだ。

例えば、メンバークラスで入社するにしても既存組織のリーダー層が30代前半であった場合非常に組織構成・マネジメントしずらく、逆に管理職としての採用であった場合でも急に外部からプライドの高いおっさんに上に立たれてしまうと、その下にいる若手がモチベーションを落としたり波紋を呼ぶのだ。

しかも希望する年収が高い。

意識高いビジネスパーソンであれば、実行はしなくとも誰もが一度は「独立、起業」といった選択肢が頭をよぎった事があるはずだ。しかし、多くの人が「いや、自分には無理だ」と断念しているのが現実ではないだろうか。

だからこそ、35歳を超えてもなお「会社」という組織で仕事をしていく場合、私達は雇われているサラリーマンであることを決して忘れてはならない。

決して傲らず、自分のWINだけでなく会社組織のWINまで考え自身が入社するメリットを訴求できなければ受け入れ難い存在となってしまうのだ。

専門性や手に職をつければ安心とはいえない

大学やファーストキャリアは家庭環境や経済的事由も影響することもあるため、それだけでビジネスパーソンとしての一生が決まるわけではない。

まだ何者にもなれる可能性を秘めている20代のうちに資格の取得や専門性を磨くことも大切だが、進化を続ける世の中の変化に対し、せっかく習得したスキルが10年後には不要となる可能性だって大いにある。

だからこそ、どのような環境でも仕事で成果を出し、35歳を超えても社会から必要とされるビジネスパーソンになっていくことがこれからの時代をサバイブしていく秘訣なのではないだろうか。

文/えさきまりな