家庭の都合でどうしても会議に出席できない、育児や介護があるため自宅で仕事をしたい、出張に行く必要があるが、移動の時間が取れない……。

テクノロジーが進化した現代でも、「移動」に関して頭を悩ます機会は意外と多い。ビジネスシーンでは未だに、物理的に“そこにいる”ことが重要視され、「出張」という言葉が無くなる気配はない。

そのような背景の中で登場したのが、株式会社ISO総合研究所が日本での販売を手がけるOHMNI ROBO(以下、オムニロボ)だ。


オムニロボ

オムニロボは、シリコンバレーを本拠とするロボティクス企業「OhmniLabs, Inc.(以下、OhmniLabs社)」が開発した、遠隔操作可能なテレロボット。シンプルなボディにはカメラ付きモニターが取り付けられており、テレビ電話の要領で通話ができる。

簡単なリモコン操作で離れた場所から自由自在にロボットを実際に動かすことができるため、あたかも本人がそこにいるかのように周囲とコミュニケーションが取れる点が最大の特徴だ。

会議や出張などの、移動に関する悩みを解決するのはもちろん、オムニロボの持つポテンシャルはそれだけではない。今回は、オムニロボがもたらす未来について、ISO総合研究所の井上 貴仁氏(以下、敬称略)にお話を聞いた。

「行きたくても行けない」をロボットで解決

──近年、大企業でもリモートワークが導入されるなど、オフィスの社内外での働き方が変化してきています。そのような中で、オムニロボはビジネスパーソンのどのような問題を解決できると思いますか。


ISO総合研究所 井上 貴仁氏

井上 オムニロボは、働く人の「移動」に関する課題を解決するロボットです。人と人との仕事上のコミュニケーションにおいて、実際に対面で話すことが早い場合も確かにあります。

しかし、現代では一人ひとりの生活環境や、望む働き方も多様になってきています。中には様々な事情で、オフィスに「行きたくても行けない」という社員もいます。ですが従来のやり方ですと、無理をして出社をするか、休むかのどちらかしか選べません。

そこで、遠隔操作可能なオムニロボを活用することで、物理的に距離が離れていてもオフィスで仕事ができる、という状況を生み出すことが可能になります。

──働く場所を問わなくなってきている、ということですね。

井上 そうですね。通常、育休産休の方や働き方が安定しない方、身体に障がいがある方などは、仕事を休まざるを得ない場合があると思います。ですが、このロボットがあれば、そうした事情があったとしても働き続けることができます。それは同時に、休職や離職を食い止める効果もあります。

いま多くの企業は、人手不足に悩まされています。それを解決する手段にもなり得る。そうして、企業側と働き手側の両者が、win-winの関係になれるソリューションになればいいなと思っています。

──会議の他に、現場ではどのように使われていますか?

井上 人手不足のほかに、企業の課題となっているのが中間管理職やマネージャー層、役員などの主要ポジションの人たちに仕事が集中しすぎてしまっていることです。

その人が見ないと分からない、その人が行かないと分からない、といったシチュエーションはよくあることだと思います。ですが、そうなると目の前の仕事を中断して、移動や出張をしなければいけなくなる。

そうした時にオムニロボは、本人が移動することなく、自分の意思で自由にロボットを操作できるので、効率的に問題解決を行うことができます。ぜひ、経営層の方にも試していただきたいですね。

──具体的にはどのように使うのでしょうか。

井上 皆さんがお持ちのiPadやスマートフォン、パソコンなどの端末から、Webブラウザ経由で接続でき、簡単に操作可能です。そのため、専用のアプリケーションをダウンロードする必要はありません。実際にやってみると、ラジコンを動かしている感覚に近いかもしれません。

ユーザーインターフェイスも非常にシンプルな設計なので、初めての方やご高齢の方でも直感的に操作でき、使いやすいモデルだと思います。

オムニロボが変えるビジネスの常識

──映像がクリアで、モニタ越しでも相手の表情がわかりますね。

井上 画面が固定されるテレビ電話と比較すると、モニタの位置を上下左右に動かせるのがポイントですね。首を振ることができるので、例えば会議に参加している全員の顔を見渡すことができます。これまでのテレビ電話では映すことができなかった角度まで、全方位360度動かすことも可能です。

──実際にテスト導入している企業の反応はいかがでしょうか。

井上 導入いただいている企業さまには、様々な用途で使っていただいています。例えば、あるサッカーチームでは、広い試合会場で迷っている人に声を掛ける案内ロボットとして活躍していたり、人員を配置できない警備の薄い場所では防犯ロボットとして活用いただいている事例などもあります。

またユニークなところでは、バーチャル参拝の引き合いがあります。足腰が痛く、お寺に参拝に行きたくても行けないおばあちゃんのために、お寺にいるご家族と、自宅にいるおばあちゃんとを繋いでバーチャル参拝を行いました。

オムニロボを使っていただいたお寺の方からは、追加でロボットに合掌できる手を付けて欲しい、といった要望もありました(笑)

このように、私たちが本来想像していなかったような使い方を導入企業さまに教えていただくこともよくあります。その意味でもオムニロボは、人材不足や移動に関する課題を解決するだけではなく、その企業ならではの細かいニーズにも柔軟に対応することができます。

──オムニロボの導入例は、オフィスだけに限らないのですね。

井上 そうですね。やはり、「移動したいけど移動できない」という社会ニーズはあらゆるジャンルで存在しているので、生活からビジネスシーンに至るまで、幅広くオムニロボをご活用いただくことが可能です。

特に日本のビジネスシーンにおいては、働き方改革の文脈も相まって、働き方自体に近年注目が集まっています。冒頭でもお話ししたように、病気や介護など様々な事情でオフィスに出社することができない人もいます。

ですが、オムニロボのような離れた場所にいながら、そこで仕事、もしくはコミュニケーションが取れる手段を提供できるというのは、新たなワークスタイルの選択肢を生み出せる私たちの価値だと思っています。

またグローバルでの事例では、現在およそ1,000台のオムニロボットが世界各国の企業や団体に導入されています。

オーストラリアでは学校に行けない子どもの代わりに教室にロボットを置き、その子が一緒にイベントや授業に参加できる工夫がなされるなど、大人だけでなく子どもにとっても、移動に関する課題を解決するソリューションになっています。

──ARやVRとも相性が良さそうですね。

井上 そうですね、特に不動産業界などは相性が良いと思います。地方に住んでいる方が東京の物件を見に行く場合、それこそ移動が課題になりますよね。そういった時に、物件内にロボットを置いてもらい、AR機能を使って部屋のレイアウトを遠隔で再現・操作するというアイデアもいいでしょう。

現地に行くのがベストだけど行くほどでもない、というシーンはビジネスを含む私たちの生活の中に意外と多くあるため、そういった場面で役立つと思っています。

その他、飲食店やアパレルの接客・案内など、発想次第で自由な使い方ができるのもオムニロボの面白いところなので、皆さんにもぜひ色々試していただけたら嬉しいですね。

──今後、どのような業界にニーズが増えてくると思いますか。

井上 既に実装されている機能で、「フォローミー」という、人の後ろをロボットが付いてくる機能があります。これは今後、遠隔監視という視点で警備や倉庫、製造業などでの展開はもちろんですが、空港やショッピングモールでもニーズが出てくると考えています。

また介護の現場でも、離れた場所から家族の様子を見守ったり、コミュニケーションを取ることができるので、高齢化社会の日本では需要が増えてくると思います。

そういった様々な課題を解決できるポテンシャルを、オムニロボは秘めているし、ニーズに応えられるような用途を実現していきたいですね。

移動しなくても良い社会をつくりたい

──オムニロボの開発は、シリコンバレーで行われているのですね。

井上 はい。オムニロボの開発元であるOhmnilabs社は、設立して5年のスタートアップです。同社の技術力は高く、実はオムニロボのボディは3Dプリンターで作られています。

プロダクトの製作スピードが他社と比較しても早いので、試作品の開発も素早く柔軟に行うことができる点もOhmnilabs社の強みですね。

──今後、オムニロボを世の中に広めていくためには、どのようなことが必要だと思いますか?

井上 まずは、より多くの企業さまにオムニロボの存在を知ってもらうことが、第一優先であると考えています。先ほどお話しした導入事例からも分かる通り、オムニロボには様々な活用方法があります。それらを自社で実験的に試してみていただきたいですね。

──2019年12月18日から開催された「2019国際ロボット展」にも出展され、多くの人が足を止めて見ていましたね。

井上 そうですね。「2019国際ロボット展」が初のお披露目となり、たくさんの人にご来場いただきました。会場ではブラック、ホワイト、レッドの3色を展開しました。ボディのカラーや形状を オーダーいただける点も、興味をもっていただけたポイントのひとつだと思います。

──実際に会場でスマートフォンから操作をしてみましたが、まさに“直感”で動かせる気持ち良さがありました。上下左右の首振りもスムーズでしたし、小回りが効くのも印象的でした。

井上 さらにユーザーインターフェイスはSDKを公開したオープンソースプラットフォームなので、自由にプログラミングをして、使いやすいようにカスタマイズすることも可能です。

──「2019国際ロボット展」に出展し、どのような課題が見えてきましたか。

井上 やはり、いい製品であることは間違いないので、認知されることが重要だと感じました。今後もより多くの方に知っていただけるように活動していきたいと思っています。

また、我々も事例が少ない新規事業ですので、一緒にこの事業を動かしていただけるようなパートナーを見つけていきたいですね、例えば日本で一緒に開発をしたいとか、ハードウェアの修理をしたいなど、ビジネスパートナーも探していければと考えています。

──企業に導入するにあたり、費用はどのくらいかかるのでしょうか。

井上 サブスクリプション形式で1台あたり月3万円、もしくは売り切りで30万です。ロボットとしては非常に安価で、テスト導入しやすいという声をいただいています。

──オムニロボを通じて、どのような未来を実現していきたいですか?

井上 今後、10年以内に、人間の仕事の約60%が人工知能やロボットに置き換わっていくと言われています。そうした社会では、ロボットが一家に1台、1社に1台あるのが当たり前になるでしょう。

人間が解決できない問題や、わざわざやる必要のない仕事はロボットにやってもらい、本来人間がやるべき仕事に集中できる状態というのが理想です。身体に不自由があっても働けるような、移動しなくても済むような社会にしていければと思います。

──移動の問題が解決すると、会社や組織のかたちも変わってきますね。

井上 そうですね。そうした社会の変化に合わせて、オムニロボも柔軟に進化していければと考えています。直近の動きでは、遠隔コミュニケーションをより円滑にするための機能開発に注力しています。ロボットハンドなども追加していきたいですね。

また将来的には、ロボット自体に人工知能を持たせて自ら思考、行動し、人間にとって解決困難な状況に対応できるようなプロダクトになればなと。そうすれば今後、より面白い展開を起こせると思っています。

一番の目標は、パソコンやスマートフォンのように各家庭、個人がロボットを持つ社会にすること。そうなるためにも、オムニロボをさまざまな生活シーンで使ってもらい、『こんな使い方ができれば』『こんな楽しみ方もできる』というアイデアを教えて欲しいです。

私たちが知らない、思いつかない使い方がまだまだたくさんある。それに合わせて進化できるのが、このロボットの強みです。

取材・文:野口 理恵
編集:花岡 郁
写真:小山 将冬 / 益井 健太郎