世界最長ノンストップフライトは19時間へ

2019年11月時点で世界最長のノンストップフライトは、シンガポール航空が運行するニューヨーク・シンガポール路線。フライト時間は18時間30分。


現時点で世界最長路線を運行するシンガポール航空

この最長記録を上回るとされるのがカンタス航空が2020年の運行開始を予定しているシドニー・ロンドン路線。「21時間」の超長距離路線として話題となっている。

現在はリサーチフライト段階で、研究者やジャーナリストなどを乗せ試験飛行を繰り返しているところだ。2019年11月CNNの記者がリサーチフライトに同乗し、その様子をレポートしている。それによるとフライト時間は19時間19分だったという。

航空素材の軽量化やテクノロジーの進歩により、このようなノンストップフライトは今後も増えてくることが見込まれる。

LCCの普及もあり、より多くの人々がより長い時間、機内で時間を過ごすようになっているなか、機内空間の快適さをめぐって新たな動きが活発化している。

これまで機内サービスというと、映画・ゲームや食事に限られていた。しかし、ウェルビーイング意識の高まりにともない機内でもウェルビーイングを目指す取り組みが航空各社で増えているのだ。

どのような取り組みが実施されているのか、航空各社がこぞって導入する機内ウェルビーイング施策の最新動向をお伝えしたい。

航空機内の低酸素・低湿度がもたらす身体への影響

まず機内でウェルビーイングが求められる理由について少し触れておきたい。

高度1万メートルを飛行する旅客機内の圧力は0.7気圧ほど。酸素濃度は地上の70%ほどまで下がることになる。また、湿度は20%ほどとかなり乾いた状態だ。

この特殊な環境における心身の変化についてこれまで十分な研究がなされてこなかったといわれている。ドイツ航空宇宙医学学会会長のヨッヘン・ヒンケルバイン氏はBBCの取材で、これまで飛行機で旅行するのは健康な人々がほとんどだったため、機内環境の心身への影響は少なく、研究者による関心も低かったと指摘。

しかし、旅行者が増え、高齢者や病気を患う人も旅行するようになったいま、機内環境の影響に対する関心が高まっているという。

これまでの研究で機内環境が与える心身の影響について、どのようなことが明らかになっているのだろうか。

気圧が低いことで、低酸素状態となり旅客の血中酸素濃度は6〜25%下がるといわれている。医学誌Canadian Family Physicianで2009年10月に掲載された論文では、健康な人であれば大きな問題はないが、高齢者や呼吸器系に問題を抱えている人だと、その影響は高くなる可能性が指摘されている。

一方で健康な人でも低酸素状態の影響は避けられないかもしれない。米陸軍環境医学研究所の研究者らの調査によると、低・中程度の低酸素状態(高度3,600メートルと同等の酸素レベル)だと健康な成人でも、記憶や計算処理、意思決定が遅くなる可能性が示唆されたという。

また2,100メートル程度の酸素レベルでも認知機能の低下が観察された研究もある。

低酸素状態や認知機能だけでなく感情にも影響を与える可能性もある。英キングス・カレッジ・ロンドン航空宇宙医学学会会長のバレリー・マーティンデール氏はBBCの取材で、低酸素状態が人間の不安レベルを高める可能性があると指摘。

また、いくつかの研究では、負の感情が高まり、友好的でなくなるだけでなく、エネルギーレベルが下がるほか、ストレス耐性が低下するなどの変化が観察されたという。

機内で映画を見ると泣きやすくなるという調査(ガトウィック空港調査など)があるが、低酸素状態による感情変化が影響している可能性が考えられる。

このほか飛行機内でお酒を飲むと酔いが速くなったり、普段より強い眠気を感じたりすることがあるが、これらも低酸素状態による心身の変化と考えることができる。

こうした研究結果や普段の経験から、機内では健康な人であっても心身に何らかの影響を受けていることは明白といえる。さらにいうと、その影響はネガティブなものであり、できるならば回避すべきものであるということだ。

機内瞑想でストレス・不安を低減、時差ボケ解消サービスも

このようなネガティブな影響を取り除き、機内でもウェルビーイングな環境をつくりだそうという試みが航空各社で進行中だ。

ヴァージン・オーストラリアは、メンタルヘルス企業Smiling Mindと提携し、2019年1月から機内瞑想サービスの提供を開始。機内エンターテイメントシステムを通じて、ガイド付きの瞑想コンテンツを聞き、心身をリラックスさせるというもの。


ヴァージン・オーストラリアの機内瞑想サービス(同社プレスページより)

ヴァージン・オーストラリアによると、10人に1人以上は飛行機に乗ることを非常に不安に感じており、その不安を解消するのが目的だという。

同社は2019年8月にさらにステップアップした施策を導入。「Nervous Flyers」と呼ばれるプログラム。不安を感じる旅行者は、オンラインでのチケット予約の際に同プログラムへの参加ボックスにチェックを入れると、不安を和らげるためのさまざまなサポートを受けられるようになる。

たとえば、健康・ウェルネスに関するアドバイスや航空運行のテクニカル情報をEメールで受け取ったり、機内瞑想や追加のサポートを受けられるようになるという。乱気流の際に気持ちを落ち着けるための呼吸法などについても情報を得ることができる。

同社が実施した調査では、11%以上の利用客が非常に大きな不安を感じており、その不安解消のために運行に関する情報などを求めていることが判明。この調査結果をもとに、新プログラムを開始した格好となる。

機内瞑想に関しては、カンタスも機内エンターテイメントシステムで瞑想用の動画配信を開始。オーストラリアの大自然映像で利用客のリラックス効果を狙う。またエアフランスも人気瞑想アプリMindと提携し、機内瞑想サービスを提供している。


カンタス航空

長時間フライトに付き物の時差ボケを解消するサービスも登場。ユナイテッド航空は、時差ボケ解消アプリTimeshifterと提携、これにより旅行客は目的地の時間に応じて機内の睡眠スケジュールを管理し、時差ボケを解消できるようになるという。

機内でコーヒーを飲む時間やメラトニンを摂取する時間を的確に知ることができるようだ。

このほか食事や光、音などについてもウェルビーイングを意識した試みが増えている。「ウェルネス」や「ウェルビーイング」コンセプトを取り入れ、機内サービスがどのように進化していくのか、特にフリクエントフライヤーにとっては気になるところではないだろうか。

文:細谷元(Livit