2019年10月中旬、ブランディング専門会社のインターブランドが「ブランド価値」によるグローバル・ブランドランキング『Best Global Brands2019』のTOP100を発表した。

インターブランドは1974年にロンドンで設立、世界17カ国でブランドとビジネスの支援を展開する世界最大のコンサルティングファームである。

ブランド価値(「Brand Valuation™」)は3つの手法で評価される。企業が生み出す利益の将来予測「財務分析」、財務分析で算出された将来の経済的利益のうち、ブランド貢献分の抽出「ブランドの役割分析」、ブランドによる利益の将来性の確実性評価「ブランド強度分析」。

Brand Valuation™は国際標準化機構(ISO)からISO10668の認定を受けていることもあり、インターブランドのレポートは、現在のトレンドを知る上で格好の資料である。

本記事では、ランキングとともに、『Best Global Brands2019』のレポートを元に、現在のトレンド、そして今、ブランドに何が求められているのかを探っていきたい。

世界ブランド価値ランキングTOP20

まず、2019年度のTOP20を紹介しよう。(  )は2018年度、%は前年比成長率。

1(1)アップル 9%
2(2)グーグル 8%
3(3)アマゾン 24%
4(4)マイクロソフト 17%
5(5)コカ・コーラ -4%
6(6)サムソン 2%
7(7)トヨタ 5%
8(8)メルセデス・ベンツ 5%
9(10)マクドナルド 4%
10(14)ディズニー 11%
11(13)BMW 1%
12(12)IBM -6%
13(11)インテル -7%
14(9)フェイスブック -12%
15(15)シスコ 3%
16(17)ナイキ7%
17(18)ルイ・ヴィトン 14%
18(19)オラクル 1%
19(16)GE -22%
20(21)SAP 10%

業界別ブランドのランクイン数、成長率の高いブランドTOP10、今年初めてTOP100にランクインしたブランドも紹介する。

■業界別
16ブランド テクノロジー・エレクトロニクス
15ブランド 自動車関連
15ブランド 小売・ラグジュアリー
12ブランド 金融関連

■前年比の成長率TOP10
25%アップ 62位マスターカード(2018年度70位)
24%アップ 3位アマゾン(3位)、70位Salesforce.com(75位)、
23%アップ 33位グッチ(39位)、48位スターバックス(57位)
20%アップ 39位アドビ(51位)
19%アップ 55位VISA(61位)、76位Caterpillar(82位)
18%アップ 89位Nintendo(99位)
17%アップ 4位マイクロソフト(4位)

■初ランクイン
63位 Dell
87位 Uber
98位 LinkedIn


インターブランドのウェブサイトより

年々規模は拡大している

インターブランドではTOP100を発表した第1回目の2001年と2019年の比較も示している。

ランクインブランド全体の金額価値は、2001年は9,882億8,700万米ドル、2019年は2兆1,309億3,000万米ドルと、規模は2.1倍に拡大。ビジネスにおいて“ブランド”の価値が一層高まっているのは間違いない。

そして、2001年には登場さえしなかったグーグルやアマゾンなどのIT系ブランドが今やグローバル・ブランドの頂点にあり、2001年では存在感のあったノキアやヒューレットパッカードなどがすっかり影をひそめた。

この変化は、いつの間にか変わっていたというよりも、肌で実感できるほどのスピードを伴ったものだった。そして、この20年はITの発展期でもあるので、上位をプラットフォーマーたちが占めるのは納得がいく。

モノとインターネットがつながるIoT、AIなど、ITが未だ発展途上にあることは、日々情報に触れていればITのエクスパートでなくてもわかる。ということは、進化という肥沃な土地で育つIT系のブランドが今後も安泰ということだろうか。

レポートでは、これからのブランドが成長し続けるためには、“アイコニック・ムーブ(Iconic Moves)”が必要不可欠だと強調する。


ベストグローバルブランドTOP100の累計ブランド価値。2001年と2019年の比較。インターブランドの『Best Global Brands2019』レポートより

ブランド・ポジショニングは終わりを告げようとしている

アイコニック・ムーブの前に、ブランディングで最初に行う、最も重要な戦略であるブランド・ポジショニングについて触れたい。

ブランド・ポジショニングとは、対象となる消費者に対し、他ブランドとは明確な差を作り、唯一無二のブランドとして認識してもらうための立ち位置を確立する戦略だった。

「だった」と過去形を用いたのは、ブランド・ポジショニングは、現在のブランディングと拮抗する戦略となりつつあると、インターブランドが説いているからだ。そう考える3つの理由を述べている。

まず、スピードの問題。顧客の期待がビジネス展開よりも早いスピードで変化する市場では、ポジショニングで足場を固めることが逆にフレキシビリティを失わせ、独自のカスタマーエクスペリエンスがニーズとずれてしまう可能性がある。

次にビジネスはカテゴリではなく顧客のニーズによって定義されるようになっており、そのニーズは短いスパンで移り変わっていく。最後にブランドはビジネスであることだ。

ブランドの名のもとに、誰が、何を、どのようになされているのかなど、ビジネスの透明性と信頼性がそのままブランドの価値となる。ブランドとビジネスを分離して考える時代は終わりつつある。

大胆な変革「アイコニック・ムーブ(Iconic moves)」とは

顧客の期待に応えるサービス・プロダクトを回す仕組み・方法を継続的に改善することはブランディング活動の基本だが、もはやそれだけでは十分ではない。

変化に抵抗感を示すどころかむしろを歓迎する顧客の期待を上回る大胆な展開、それによって飛躍をとげ、市場の風景さえ変えてしまう――。インターブランドでは、そんな大胆な変革をアイコニック・ムーブと名付けている。

レポートでは、3位を維持しているアマゾンを例にとって説明している。

アマゾンのアイコニック・ムーブは、2005年のプライムサービス、2007年のキンドル導入、2014年のスマートスピーカーEchoの発表、2017年の米高級スーパーの「ホールフーズ・マーケット」買収、プライム会員に値引きを提供する実店舗オープンだとする。

確かにキンドルが発表された時、何百冊もの本が一台の端末に収まる途方もない利便性や電子書籍という全く新しいスタイルに軽い興奮を覚えたことを記憶している。


インターブランドの『Best Global Brands2019』レポートより


「伝統的なスタイルとスポーティなスタイルを融合させ、新しい製品カテゴリーも拡大、常に革新を続けている。自由、自己表現、文化、多様性、男女平等をブランドで体現、ソーシャルメディアを通じてミレニアム世代を魅力している」とインターブランドは成長分析している

アイコニック・ムーブに関してレポートに興味深い記述があった。

ブランドTOP100位のうち、1回以上のアイコニック・ムーブを行ったブランドは、ブランド価値年平均成長率は全体の標準平均値を上回っており、インターブランドのブランド強度評価モデルの要素である「共感共創度」(Engagement)、「要求充足度」(Relevance)、「変化対応度」(Responsiveness)の標準値からプラス方向で逸脱しているという。

そのようなパターンが見られるにも関わらず、アイコニック・ムーブに関する科学的な方程式やアルゴリズムが存在しないというのだ。

シンプルなステートメント

「今までにない新しいモノ・サービス」「顧客の想定外の大胆な変革」を起こす原動力は何なのだろうか。レポートにヒントになる記述があった。

ステートメントの「Simplicity」である。Simplicityとは単純、平易、簡略、分かりやすさという意味で、レポートでは、アポロ11号を例にとって説明している。

ジョンFケネディ大統領が「1960年代中に人間を月に到着させる」というステートメントを発表した。その分かりやすく強いメッセージがあったからこそ、数々の困難をクリアし、不可能が可能になっていった。

アップルの「テクノロジーを介して何百万人もの人の生活を変える」、グーグルの「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」、アマゾンの「地球上で最も豊富な品揃え」。

むろんブランドの成長に必要な要素はそれだけではないが、シンプルで強いステートメントが根幹にあるからこそ、大胆に、勇敢に挑戦し続けることができ、それがアイコニック・ムーブを可能にするのではないだろうか。


グーグルのウェブサイトより

文:水迫尚子
編集:岡徳之(Livit