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保険分野におけるデジタルテクノロジー活用の進展にともない、様々なメディアやレポートで「インステック」という言葉の登場頻度が高まっている。
保険業界は、他の分野に比べデジタル化の進展が遅かったといわれているが、近年ブロックチェーン技術などの発展・普及によって急速にデジタル化が進んでいる。
フランスのコンサルティング会社キャップジェミニはこのほど、2019年のインステック世界動向をまとめたレポートを発表し、世界各国で起こる保険のデジタルイノベーション最新動向を伝えている。
また同レポートでは、保険契約において完全なデジタルのみでの手続きを好むZ世代もインステックを語る上で無視できない存在であると指摘している。
今回は、このレポートを基に世界のインステック市場における最新動向を紹介し、Z世代の保険に対する意識にも触れる。
インステックが向かう近年の方向性
世界保健レポート(World Insurance Report:WIR)2018でインタビューが行われた保険の顧客半数以上(52%)が、保険取引を行うための「モバイル、インターネット、またはWebサイトのチャネル」を非常に重視していると答えている。
様々な分野でのインタラクティブで直感的、かつ、わかりやすいセルフサービス型(カスタマイズ型)のプラットフォームの台頭しているが、このカスタマイズ型のプラットフォームは、保険業界でも、保険会社と顧客間の強い関連性の構築を可能にする。
さらにデジタルネイティブのZ世代は、当然のことながらデジタルプラットフォームを介してすべての製品とサービスにアクセスできる完全なデジタル化を好む。
サービスの相互の接続性、カスタマイズ、またシームレスな複数チャネルによるアクセスは「価値のあるサービス」の状態から「必須のサービス」になってきている。
さらに、顧客が求めているものに素早く対応するために、保険会社は広範囲のサービスを提供するプラットフォームを構築する必要がある。顧客が求めるあらゆる金融ニーズと、さらに非金融ニーズも実行するプラットフォームを介して、以下の図の様に、製品とサービスを包括的に結びつけるのだ。
単一のサービスの提供と比較し包括的なサービスの提供は、より高い知覚価値を獲得する傾向がある。
なぜなら包括的なサービスの提供は、顧客の個々のニーズに合わせて、複数の製品やサービスを便利に利用でき、カスタム設計もできるため、保険契約者の満足度の向上が表れるからだ。
インステックの普及:パートナーシップによって促進する、構造化されたアプローチ
このような市場の中で成功していくには、まず顧客のニーズと好みをアジャイルかつ柔軟に把握し、それに沿ったパートナーを選択してパートナーシップを結び、鋭い市場参入戦略の観点から開発した製品を提供する、構造化されたアプローチが必要になる。
つまり保険会社は他の分野のテック企業と提携することで、新しい製品の市場投入までの時間を短縮し、ポートフォリオの拡大により競合他社より優位になり、成長を促進できるわけだ。
これを実現するために、世界中で保険会社とテック会社のパートナーシップやコラボレーションが活発化している。
ケーススタディ1:イタリア発HomeFlix
たとえばスイスの保険会社ZurichConnectは、イタリアのインステック企業Yoloとパートナーシップを結び、HomeFlixという賃貸人および自宅所有者を対象とした保険を提供する仮想アシスタントサービスを提供している。チャットでバーチャルアシスタントが、対象者の必要な項目に沿って、月々の保険料を決めたり質問を解決する。
さらにHomeFlixはカスタマイズされた保険に加え、2019年7月から配管や電気などの家のメンテナンスサービスを展開している。洗濯やアイロンがけ、配達時に直接支払うドライクリーニングサービスなど生活の便利サービスも提供し始めた。
今後は宅配、ベビーシッター、および清掃サービスへの展開を計画しており、包括的に住居や生活に必要なサービスと保険を提供する。
ケーススタディ2:アメリカ発CareLinx
ニューヨークに本社を置く旅行保険関連サービスプロバイダーGenerali Global Assistanceは、アメリカの配車アプリLyftとのパートナーシップを2017年後半に樹立している。
これによりGenerali Global Assistanceの顧客である保険会社や多国籍企業の、費用削減を実践し、顧客サービス満足度を上げている。
Lyftはさらにアメリカの介護業者CareLinxとコラボレーションし、オンラインで介護者を見つけて雇用し、勤務状態を管理し支払うことが出来るマーケットプレイスを提供。
アメリカ50の大都市圏では、特別なアシスタンスが必要な個人向けに、戸別訪問サービスCareRidesも提供している。Generali Global AssistanceはCareLinxと提携し、必要なときに既存の保険契約者に付加価値サービスを提供できるように戦略提携している。
ケーススタディ3:シンガポール発FastTrackTrade
シンガポールでは、生命保険会社Prudentialと地元通信大手StarHubのブロックチェーンを活用した取り組みが実施されている。Prudentialはこの提携でStarHubと共にシンガポール初の中小企業向けデジタル取引プラットフォームであるFastTrackTrade(FTT)を構築した。
プラットフォームは、FintechスタートアップのCites Gestionが、Prudentialから資金提供を受けて開発した。
このFTTは、中小企業は単一のプラットフォームを介して、ビジネスパートナーや販売代理店を探せたり、商品の売買、貨物の追跡、支払いや受け取りもできる。それだけでなく、ビジネスに付随する保険にアクセスし利用することができるのだ。
パートナーシップの下、StarHubは企業顧客にFTTのサービスへのアクセスを提供し、Prudentialはリスクを軽減するための保険を提供するビジネスモデルだ。
また、このプラットフォームは、ピアツーピアの貸し手である資金調達団体を通じ、中小企業に代替の資金調達オプションも提供している。 FTTは資金調達、ビジネスインテリジェンス、支払い、ロジスティクスなどの幅広い分野で、多くのサービスを包括的に提供している。
保険会社は今後、個人用の保険とビジネス用の保険どちらに関しても、これから多数を占めていくZ世代を含む、様々な顧客層のニーズをデジタルに包括的に達成していかなければならない。
さらにシェアリングエコノミーなどの新しいビジネスモデルは、業界全体で資産の所有権とサービス提供モデルを混合させるように設定されている。
このように変化するビジネスシナリオにも対応する、新しい保険サービスの再設計がインステックには望まれ、急速に進んでいくだろう。
文・米山怜子
編集:岡徳之(Livit)