グローバルマーケットへの進出はもちろん、英語を使った情報収集や発信、グローバル人材の採用等、ビジネスで英語力が求められるシーンはより一層増していると言える。特に最先端テクノロジーを扱うIT企業やスタートアップでは、なおさらだろう。

語学学習事業を柱とするスタートアップ・株式会社Lang-8が開発・運営する英語学習サービス「HiNative Trek」は、IT業界・スタートアップに特化した学習がコンセプトだという。

アメリカ西海岸のTech企業で働くネイティブ・スピーカーが監修をする教材と1日1題のアウトプット型学習の効果を「HiNative Trek」の講師であり、サービス設計にも携わるチェルシーさんに伺った。

IT業界・スタートアップに特化した英語学習サービス誕生の経緯

——膨大な数の英語学習サービスがある中で、IT業界・スタートアップに特化したサービスを開発した背景を伺いたいです。

弊社では、「HiNative Trek」をはじめ3つの英語学習サービスを展開しているのですが、最初に開発したのが、ネイティブスピーカーが文章添削を行う「Lang-8」です。

長文の添削がメインで一定層に強い需要があったものの、一部の国と地域でのみマーケットシェアを伸ばすに留まりました。(現在は新規申し込みの受付を停止している)

次のステップとして2014年に生まれた進化版が、全世界・全言語のネイティブスピーカーに質問ができるランゲージエクスチェンジサービス「HiNative」です。

ここでは、もう少しラフに英単語や発音のチェック、文章添削等をお願いできるほか、オススメの海外ドラマや観光スポット等の質問を通して海外文化を知ることもできます。

ランゲージエクスチェンジ サービス「HiNative」より

全世界の110言語に対応し、490万人以上の登録者(2019年10月現在)がいる「HiNative」は、各国にアクティブユーザーがいて盛り上がっているのですが、そこで見えてきたのは、ビジネスの現場でそのまま使える「生きた英語」のニーズの高さ。

グローバルマーケットを狙う起業家や人事担当者等から、「英語で会社紹介をしたい」「資金調達のために英会話スキルを身につけたい」といった声をいただくようになりました。

そういった方々に向けて弊社が提供できるのは、一般的なビジネス英語に加えて、IT界隈で交わされる会話や起業家が交渉で使えるような実践的な英語学習サービスだと考えました。

2007年に創業した弊社にはスタートアップとして事業をグローバルにスケールさせた経験がありますし、他者の英語学習サービスとの差別化という意味でも、IT業界・スタートアップに特化した「HiNative Trek」を開発しました。

サービスの運営を開始した2016年からIT・スタートアップ界隈の方を中心にご利用いただいており、1日約10分の学習を半年、1年と継続していただくことで、着実にビジネスシーンで使える英語力を身につけられるのが特徴です。

「HiNative Trek」の講師、及びサービス設計を担当するチェルシーさん

——「HiNative Trek」には、「ビジネス」「IT」「IT Part2」の3つのコースがありますが、それぞれどんな方が対象になりますか?

いずれのコースも推奨レベルを初中級以上の方としています。TOEICでいうとLRともに275点以上(トータル550点)以上で、英語のビジネスメディアの記事が単語の意味を調べながら理解できるぐらいのレベルを目安にしています。

「ビジネス」は実践的なビジネス英語全般を学べるコース、「IT」「IT Part2」はテック企業の英語ネイティブが監修したIT・スタートアップ業界特有のフレーズが学べるコースです。

各コース共通して日を追うごとに難易度が上がります。まずは「ビジネス」からスタートし、「IT」「IT Part2」と順を追って進めていただく流れになっています。

アウトプットから”気付き”を得ることが語学習得の近道

——「HiNative Trek」では、1日1問の課題に対して英作文と音声を提出するスタイルとのことで、どのような手順で取り組むのが効果的でしょうか?

実際の課題の一例をお見せしながら、解説しますね。

「ビジネス」コースの課題より

こちらは「ビジネス」の課題で、「英語のテキスト」「日本語のヒント」「課題」を組み合わせた構成がベースになっています。このコースではビジネスシーンで頻出するフレーズの構造を習得することを重視していて、日々のアウトプットにより”英文の型”をどんどんストックしていくイメージです。

「IT」コースの課題より

「IT」からは日本語のヒントがなくなり、より実践に基づいた内容になります。こちらは、取引先やビジネス上で付き合いのある相手からのメールに対して返事を書く課題です。

「IT Part2」コースの課題より

「IT Part2」には、外国人インフルエンサーに仕事を依頼する際の交渉シーンを想定した課題も。「IT」「IT Part2」の課題は、現実的にIT企業で起こり得るようなシーンばかりだと思います。

いずれのコースも毎朝、プッシュ通知で課題が届き、英作文と録音した音声を提出すると専任のネイティブ講師から個別のフィードバックが返ってきます。回答に対して不明な点があれば、1日3回まで質問が可能です。

——課題に答える前の段階で不明点があれば、先に講師に質問しても良いのでしょうか?

「HiNative Trek」では、まちがってもいいからアウトプットを重ねること、大量のアウトプットを通して「何がわからないのか」という”気付き”を得ることを一番大事にしています。

もし不明点があった場合は、一旦できるところまでで構わないので、何かしらのアウトプットをしていただいたほうがいいですね。

まちがえること前提で課題に回答していただくスタンスで、まったく問題ありません。「アウトプットする⇒不明点に気付く⇒正しい使い方を学ぶ⇒再びアウトプットする」というサイクルを繰り返すことで、外国語の習得が可能になると私たちは考えています。

——英語でのやり取りに苦手意識がある方の場合、「英語で質問する」ことはハードルが高いと思うのですが、講師に意図が伝わりやすい質問をするためのコツはありますか?

何が理解できていないのかを明確にしていただくと、講師とのやり取りがスムーズになると思います。

例えば、文章の意味そのものが理解できなければ「Do you mean (理解できなかった文章)?」、ある単語の使い方が理解できなければ「Please teach me how to use(該当する単語)?」等、質問する際の言い回しを使い分けていただくと、講師もポイントを理解することができ、例文等を交えながらわかりやすい回答ができると思います。

ですが、最初のうちは「自分の質問が正しく伝わっているかどうか」を学ぶことも勉強の一つなので、正しく伝わらなくても落ち込む必要はありません。講師との意思疎通を通して、英語スキルの上達はもちろん、ネイティブの考え方への理解が深まるはずです。

生活リズムに組み込む学習スタイルを推奨

——IT業界・スタートアップに特化している以外に、他社の英語学習サービスと差別化したポイントがあれば教えてください。

1つは、専任のアメリカ人講師が担当する点です。添削付きの語学学習サービスのうち、アメリカ人、かつ専任の講師が付くサービスは多くありません。

正しいアメリカ英語をネイティブ講師から習得できること、講師が生徒の理解度を把握しながら効果的な添削ができることは、「HiNative Trek」のメリットだと考えています。

IT業界はアメリカのシリコンバレーから発展していった歴史があり、現場で使われる表現はアメリカ英語が中心になるため、そこを強化しているという事情もあります。

こちらは、「KPIレポートの書き直しの依頼」を英作文で作成した課題に対する講師からのフィードバックです。「修正を依頼する」というビジネスでよくあるシーンで、「can」や「please」を使った自然な言い回しを解説しています。

おそらく現状の回答でも意味としては伝わると思いますが、依頼を受け取った相手に正しい理解を促し、気持ちよく対応してもらうために役立つスキルと言えます。

もう1つ差別化ポイントと言えるのは、スキマ時間に取り組める仕組みを採用し、継続率を高めている点です。「HiNative Trek」の課題は、1問5分程度で解けるように制作しており、忙しいビジネスパーソンや経営者の方でも通勤時間や昼休み等の合間で学習ができます。

朝、回答すれば、お昼休みの時間にはフィードバックが返ってきているぐらいのスピード感なので、モチベーションを維持しやすい勉強スタイルだと思います。より継続率を高めるコツは、朝の始業前に回答するなど、日々の生活リズムに学習を組み込んでもらうことです。

丁寧な解説以外に、絵文字を使ったフレンドリーなやり取りも

さらに、1日コーヒー1杯分の約400円で、英語学習に欠かせないアウトプットと専任講師の添削サービスを受けられるのは、他社と比べてもコストパフォーマンスが高いのではと考えます。

——一定期間以上サービスの利用を継続しているユーザーは、どのような効果が得られているのでしょうか? 実例があれば教えてください。

少なくとも3ヵ月以上サービスを利用されている方は、何かしら英語力の向上を感じてくれているように思います。

もっともわかりやすく効果が発揮された事例は、2年間の学習を継続された方が、海外の投資家からの資金調達を成功させたことです。これは私たち講師にとっても、非常に手応えを感じた結果でした。

また、弊社に寄せられたアンケートでは、以下のようなコメントもいただいています。

【IT業界勤務の男性】
使用歴:1年以上
動機:近い将来、海外で事業展開したいと考えているため。

感想:採用候補者との面談、投資家へのピッチ、カンファレンスで出会った人との会話など、極めて実践的な内容でした。類似のサービスも調べましたが、IT業界特化の教材はとてもめずらしく、重宝します。

最初は1日1問は少なすぎるのでは、という印象でしたが、骨太な問題も多くスパルタです(笑)。先生からの回答はかなり丁寧で、自然な表現を学べました。

このクオリティで、この金額はコスパ抜群だと思います。ライティングを習慣的に行なえていなかったため、英語学習の促進になりました。自然な表現の引き出しも増えたように感じます。

【IT業界勤務の男性】
使用歴:1年以上
動機:仕事で海外の人と話す機会が今後増えそうだったので。

感想:文法はもちろん、発音も非常に細かいところまで丁寧にチェックしてもらえることに驚きました。

毎日こなすのは大変ですが、英会話スクールのように1〜2時間でまとめて指導してもらうのではなく、毎日こまめに個別指導してもらえる点が気に入っています。

——ビジネスシーンで英語を使う明確な目的があることに加え、学習のリズムができてくると効果がしっかりと現れそうですね。

そうですね。できれば日々のスケジュールに組み込んで利用するのが一番ですが、毎日の生活リズムが不規則で、同じ時間に学習を組み込みづらい方の場合は、まとめて課題を提出していただいても問題ありません。

講師と楽しくコミュニケーションを取りながら、自分の生活スタイルに合わせて利用していただければ、無理なく継続ができるのではないかと思います。

<取材協力>
Lang-8
HiNative Trek

取材・ 文:小林 香織