日本の観光地へ行くと必ず目にする外国人。政府が本格的に観光業に力を入れるようになって数年、日本への訪日外国人客は年々伸びている。

マスターカードによる「世界旅行先都市ランキング」では、東京は堂々の9位にランクイン(2018年、1,293万人)。2019年には更なる伸びが予測され、日本のインバウンドは順調であると言っていいだろう。

しかし、上には上がいる。タイの首都バンコクは、10年前より毎回トップ3入り。しかもここ4年連続首位の「不動の王者」なのである。

人気の旅行先ナンバーワン。世界中の人々を魅了し続けるタイ・バンコク


バンコク Photo: The Thaiger

「世界旅行先都市ランキング」では、1泊以上滞在する旅行者の数を元に、人気の旅行先をランク付けしている。

2018年は1位がバンコクで2,278万人。以下2位パリ(1,910万人)、3位ロンドン(1,909万人)、4位ドバイ(1,593万人)、5位シンガポール(1,467万人)、6位クアラルンプール(1,379万人)と続く。

マスターカードによると、世界中の海外旅行客は年々増加しており、特にアジア太平洋地域の旅行人口が急増しているという。

バンコクは今や東南アジアをリードする大都市だ。しかし、シンガポールほど物価が高くなく、東南アジアらしい“ゆるさ・優しさ”は健在、仏教国なので宗教的な禁忌も少ない。

さらに街中に観光スポットが多数点在し、スワンナプーム空港には世界中から旅客機が乗り入れている。バンコクはあらゆる側面で「旅先として選ばれる」要素が満載なのだ。

タイ政府観光庁(TAT)によると、2018年の外国人観光客数は約3,750万人を記録。19年には4,000万人を上回り、観光収入も約3兆4,000億バーツ(約11兆3,000億円)と前年より10%以上の拡大を予測している。

ユタサック・スパーソン総裁は「観光業は国内総生産(GDP)の18〜19%を占め、今後も拡大するだろう」と述べている。

人が来すぎて “ディカプリオのビーチ” が閉鎖?


Photo: Phuket.com

バンコク以外にも、プーケットやチェンマイなど、タイの主要都市には観光客が詰めかけている。しかし、ツーリズムの隆盛は良いことばかりではないようだ。

2000年に公開された、レオナルド・ディカプリオ主演のハリウッド映画「ザ・ビーチ」で映画の舞台となった、タイ南部にあるピピ島。プーケットからスピードボートで1時間の距離にある小さな島は、美しい海とサンゴの楽園として知られている。

中でも秘境のマヤ・ビーチは最大の見所だ。しかし近年、観光客過多(オーバーツーリズム)のせいで、環境破壊の危機に直面している。

10年前は1日約170人程度しか訪れなかった静かなマヤ・ビーチが、今では5,000人にまで増加。観光客によるシュノーケリングやマリンアクティビティのせいで、水中のサンゴがほとんど死滅してしまったという。環境保護のために、政府はマヤ・ビーチを2021年まで一時閉鎖することを決めた。

しかしこの閉鎖は、これまで観光業で潤っていた地元住民の食い扶持を奪うことになる。再開後は、自然保護と地域の活性を両立し、持続可能な観光を目指すことが不可欠だ。

そこで、新たにフローティングドックや遊歩道の設置、電子チケットによる訪問者数の制限など、再開後のため様々な計画が進んでいる。

地方、文化、体験。タイの多彩な魅力を発信 〜 Dissover Thainess


タイ北部の山岳地帯にある棚田
Photo: Finnair

バンコクや一部の観光地へオーバーツーリズムを防ぐ対策のひとつとして、TATは地方の魅力を発信し、観光客を分散させようとしている。

タイの国土は日本の約1.4倍、77もの県がある。北は山岳地帯、南は熱帯の海とダイナミックな自然に囲まれ、ラオス、カンボジア、ミャンマー、マレーシアと国境を接することから、多様な文化が息づいている。タイの魅力は非常に多彩で、地方による特色の幅が広いことが特徴だ。


動画:ディスカバー・タイネス

2015年、TATは「Discover Thainess(ディスカバー・タイネス)」という観光促進キャンペーンを実施。

タイネスとは造語で「タイらしさ」を指すという。「タイらしさを再発見する」をスローガンに、タイの知られざる魅力を世界中に発信した。

このキャンペーンでは「タイの12の秘宝」として、テーマ性に富んだ地方12都市がピックアップされ、集中的にプロモーションされた。

またTATは、伝統舞踊を学んだり、農村でファームステイをしたりという、体験型のツーリズムも促進している。現在、タイに訪れる観光客の半数以上はリピーターであり、バンコクほか主要人気都市のみの滞在だという。

ツーリズムマネーを地方へも落とし、さらに体験型を組み込むことで滞在日数を増やし、タイの文化や歴史、ライフスタイルへの理解も深めて欲しい。そんな狙いがあるようだ。

TATの日本事務所では、日本語の観光パンフレットが無料配布されている。これらの種類は非常に多く、スタンダードなものから、ローカル体験に特化したもの、ロングステイ、地方の小さな町のイラスト地図など、驚くようなラインナップだ。また、毎年春に東京、大阪で開催されている「タイフェスティバル」では、積極的に地方文化を発信。

2019年のテーマは「イサーン(東北地方)」だった。TATのブースでは、草木染め体験や同地の舞踊団によるダンスショーなどを行い、新たなデスティネーションとしてアピールした。

さて、ここまでタイの観光事情について触れてきたが、せっかくなので、タイの個性的で魅力溢れる地方都市をいくつか紹介しよう。

ビビッドな仮装祭りが楽しい:ルーイ(北部)


Photo: The Phuket News

北部にあるラオス国境の街ルーイでは、カラフルなお面や衣装をまとって練り歩く「ピーターコーン祭り」が、毎年6〜7月に開催される。

ダイナミックで個性豊かな“精霊たち”が一堂に会する光景は圧巻だ。国内でも有名なお祭りで、この時期は大勢の見物客で賑わう。ルーイまではバンコクから国内便が毎日運行しており、1時間程度で到着する。

東南アジアきっての恐竜王国:コーンケーン、カラシン(東北部)


カラシンにあるシリントーン博物館
Photo: The Straits Times

東北地方の中心都市・コーンケーンは恐竜王国として有名だ。隣県のカラシンにかけて恐竜の骨が多数発掘され、今も発掘され続けている。両県には東南アジア最大の恐竜博物館や恐竜の足跡が残る公園などがあり、中には実際の発掘作業を間近で見ることもできるスポットもある。

また、同地では「イサーン料理」と呼ばれる素朴な郷土料理も楽しめる。特に地鶏の炭火焼き「ガイヤーン」や、辛味の強いパパイヤサラダ「ソムタム」は、バンコクからわざわざ食べに来る人も多いのだとか。

サッカーで町おこし:ブリーラム(東北部)


チャーン・アリーナ
Photo: Buriram United

東北地方の南の都市ブリーラムにある「チャーン・アリーナ」は、3万2,600人を収容するタイ最大のサッカースタジアムだ。ACLなどの国際Aマッチも行われ、試合当日には国内外から多くの観客が訪れる。

タイのサッカー人気は相当なもので、今年8月、前日本代表監督の西野氏が、タイの代表チームの監督に就任したことで驚いた人も多いかもしれない。

タイのナショナルリーグでは日本人選手も多数活躍しており、同スタジアムをホームとする「ブリーラム・ユナイテッド」には、元柏レイソルの細貝萌選手が所属している。

少数民族の文化が息づく:カンチャナブリー(南部)


モーン族の村にかかるタイ最長(850m)の木造橋
Photo: Thailand adventure guide

映画「戦場に架ける橋」で知られるカンチャナブリーは、ミャンマー国境に位置する自然豊かな場所。北部にあるサンクラブリーでは少数民族のモーン族が暮らしている。

街の市場では民族雑貨なども販売しており、タイの“多彩な”魅力を体感できるだろう。バンコクからバスで3時間という近場にあり、日帰りトリップも可能だ。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit