働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が2019年4月より施行され、本格的に働き方改革が始まった。

働き方改革は大企業だけでなく、中小企業も取り組むべき課題だ。大企業と中小企業が取り組むべき課題は同じだろうか。本記事では、中小企業が取り組むべき働き方改革について解説していく。

中小企業にも影響を与える働き方改革

中小企業における働き方改革には、働き方改革関連法案の施行時期が大企業と異なり、猶予が与えられているものもある。

中小企業の定義は、資本金の額または出資金の総額、常時使用する労働者数の2つで定義される。

<資本金の額または出資金の総額>

  • 小売業・サービス業:5,000万円以下
  • 卸売業:1億円以下
  • それ以外:3億円以下


<常時使用する労働者数>

  • 小売業:50人以下
  • サービス業・卸売業:100人以下
  • それ以外:300人以下

資本金や出資金の概念のない個人事業主や医療法人などの場合は、労働者数のみで判断される。

働き方改革関連法案の中でも、特に中小企業に関連する「有給休暇年5日取得」、「時間外労働の上限」、「同一労働同一賃金」について、重点的に解説していく。

有給休暇年5日取得

有給休暇年5日取得は、中小企業も2019年4月1日より施行されている。使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日有給休暇を与えなければならない。

有給休暇は原則労働者が自ら申し出て取得する者である。しかし、職場によっては労働者から申し出がしにくい場合もある。そのため、働き方改革関連法案が施行されてからは、使用者が労働者に対して時期の希望を聞き、年5日は必ず有給を取得してもらう必要がある。

有給休暇を取得してもらうためには、経営者側が労働者間の仕事の割り振りなどを計画しなければならない。

時間外労働の上限

時間外労働の上限については、中小企業は2019年4月1日より施行されている。原則として、時間外労働の上限は、月45時間・年360時間である。

原則である月45時間を超えることができるのは年間6ヶ月まで。月60時間の残業時間を超えた場合の残業割増賃金率は、大企業・中小企業ともに50%となる。

また、臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間・単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度だ。労働者の健康を守ることも、経営者側の責任となる。

同一労働同一賃金

働き方改革関連法による快晴労働者派遣法により、同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)の間で基本給や賞与などの個々の待遇ごとに不合理な待遇差が禁止となる。

待遇差は、基本給や手当てだけでなく、休暇や福利厚生などの全てが対象に。例えば、役職の内容に対して支給している役職手当であれば、正社員と同じ内容の役職に就く非正規社員には同一の支給をしなければならない。

同一労働同一賃金を実現することで、どのような雇用形態を選択しても、労働者が待遇に納得して働き続けることができ、労働者の働き方の選択肢が多様となる。

労働者派遣法は2020年4月1日より施行されるが、中小企業は2021年4月1日より施行される。

中小企業が働き方改革に取り組む意義とは

経済産業省のデータによれば、中小企業は日本における421万企業のうち99.7%を占めており、従業者数においても約7割を占める。

<大企業>

  • 企業数:約1.2万社
  • 従業者数:約1,229万人

<中小企業>

  • 企業数:約419.8万社
  • 従業者数:約2,784万人

参照:https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chushoKigyouZentai9wari.pdf

働き方改革の目指すものとしては、日本が直面している「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの課題を解決するため、多様な働き方を選択できる社会を実現することである。

そのためにも、日本の従業者数の約7割を占めている中小企業が働き方改革に取り組まなければならない。

働き方改革によって、多様な働き方を選択できる社会になることで、働く方一人ひとりが良い将来の展望を持てるようになることを目指している。

中小企業が働き方改革に伴う対応

働き方改革関連法案によって、中小企業の経営者や人事部の担当者は、様々な対応が必要となる。具体的には、以下のような対応だ。

時間外労働を行うには36(サブロク)協定が必要

労働者に時間外労働(残業)を行うには、36(サブロク)協定が必要となる。36協定とは、法定労働時間を超える際に必要な「時間外・休日労働に関する協定届」のことだ。

労働基準法では、労働時間は原則1日8時間・週40時間以内と規定されている。また、休日は毎週少なくとも1回与えなければならない。

法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合には、「労働基準法第36条に基づく労使協定の締結」、「所轄労働基準監督署長への届出」が必要に。

36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」、「1日、1ヶ月、1年当たりの時間外労働の上限」を決めなければならない。つまり、36協定を結べば、いくらでも時間外労働をさせていいわけではないということだ。時間外労働の上限は、月45時間・年360時間となる。

労働者に対し、労働契約を書面で交付

使用者は、労働者と労働契約を締結する際、労働条件を書面等で交付しなければならない。労働条件を明確にすることで、使用者と労働者の理解のくい違いなどによるトラブルを未然に防ぐことができる。

明示が義務付けられている労働条件は以下の5つだ。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
  3. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の就業転換に関する事項
  4. 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期に関する事項
  5. 退職に関する事項 (解雇の事由を含む)

厚生労働省では、労働条件を明示するためのモデル様式を作成している。

労働条件通知書例:https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/library/nagano-roudoukyoku/joken/roudoujokentuutisyo_ippan.pdf

労働者10名以上の場合は就業規則が必要

雇用形態に関係なく、雇用(所属)している労働者が常態として10名以上いる事業場では、就業規則を作成する必要がある。常時労働者は、雇用している人数であって、1日に出勤している人数ではないので注意が必要だ。

就業規則を作成し、過半数組合(労働組合)または労働者の過半数代表者からの意見書を添付し、所轄労働基準監督署へ届ける必要があり、また、就業規則を変更した場合も同様の手順が必要だ。

さらに、就業規則は作成するだけでなく、事業場で周知しなければならない。周知方法としては、以下の3点が考えられる。

  • 常時各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける
  • 書面で労働者に交付する
  • 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する

就業規則は、労使間の無用のトラブルを防ぐために重要である。

賃金台帳や労働者名簿などの法定帳簿が必要

労働者を雇用したら、帳簿を整える必要がある。今回は以下の2つを解説する。

労働者名簿

労働者名簿は、労働者を雇い入れた場合に労働者ごとに作成する必要がある。会社の規模に関係なく必要となるため、中小企業も作成しなければならない。

労働者名簿の保存期間は3年。起算日は、以下の3つだ。

  • 労働者の死亡
  • 退職
  • 解雇の日

必要な項目は以下のようになる。

  • 労働者氏名
  • 生年月日
  • 履歴
  • 性別
  • 住所
  • 従事する業務の種類
  • 雇入年月日
  • 退職や死亡年月日、その理由や原因

履歴については、社内における履歴や労働者の最終学歴等を記載しておく必要がある。

賃金台帳

賃金台帳は、労働日数や労働時間、手当等を含めた賃金を計算する際に必要となる法定帳簿だ。正社員やパート、アルバイト等区別なく、常時労働者を使用する際に作成しなければならない。

必要となる項目は以下となる。

  • 労働者氏名
  • 性別
  • 賃金の計算期間
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 時間外労働時間数
  • 深夜労働時間数
  • 休日労働時間数
  • 基本給や手当等の種類と額
  • 控除項目と額

保存期間は3年で、労働者の最後の賃金について記入した日が起算日となる。

まとめ

中小企業は、大企業よりも働き方改革関連の法案の適用が猶予されている項目がある。しかし、猶予があるからいっても、企業における働き方改革はすぐに実現できるものではない。

自社で取り組むべき課題を洗い出し、優先順位をつけて一つひとつ取り組んでいく必要がある。

日本を支えている中小企業が働き方改革に取り組むことで、一人ひとりが多様な働き方を選択できる社会を実現していくことにつながるだろう。