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オフィス・店舗の緑化トレンドとバイオフィリア・デザイン
米国の著名生物学者エドワード・O.ウィルソン博士が自著『Biophilia』のなかで提唱している「バイオフィリア仮説」。進化の過程から、人間は本能的に自然を求めるようプログラムされているとする仮説だ。
このバイオフィリア仮説に基づき、オフィスや小売店舗、住宅に緑を取り入れる「バイオフィリック・デザイン」が欧米でトレンドになっていることを以前お伝えした。
アマゾンのシアトル本社で2018年1月に登場した緑地ドーム「The Sphere」。ドーム型の4階建ての建物で、4万本もの樹木・植物が植えられており、アマゾン社員の仕事・ミーティングスペースとして利用されている。
アマゾン・シアトル本社の緑地ドーム「The Sphere」
アップルのサンフランシスコ・ユニオンスクエア・ストアでは店舗内に本物の樹木が植えられているほか、太陽光を取り入れる大型のガラスが採用されており、店舗内でも自然を感じられる空間となっている。
オフィスや店舗で自然を感じることができると、人間にどのような影響があらわれるのか。心身がリラックスするということは、多くの人が認めるところだろう。このリラックス状態によって、仕事の生産性が高まったり、おおらかな気持ちにさせ購買行動を促進させたりする可能性があるといわれている。
学術誌Journal of Forestry2005年12月号に寄稿された論文によると、街のなかに緑があると、そこにある店やプロダクトに対する消費者の評価・印象が高くなる傾向が観察された。また緑あふれる街のショッピング街であれば、消費者がそこに出向く頻度も高まる可能性があると指摘されている。
緑化のトレンドはオフィスや店舗にとどまらず、都市計画のなかに大々的に盛り込まれる事例が登場しており、より大きな流れになりつつある。都市の持続可能性の向上や景観整備といった理由が背景にある。また緑化によって都市の魅力を高め高度スキル人材へのアピールポイントにしたいと目論んでいる都市もあると考えられる。
都市の緑化に関する興味深いランキング
都市の緑化に関しておもしろい分析がある。グーグル・ストリートビューのデータから、都市の緑化度を分析し指数化している「Treepedia」と呼ばれるプロジェクトだ。0〜100の値を取る「Green View Index(GVI)」によって世界各都市の緑化度をランク付けしている。現時点では世界27都市が分析対象となっている。
これまでの分析でもっとも緑が多いと評価されているのはフロリダ州のタンパだ。GVIは36.1%。タンパに関するさまざまな画像を見てみると、たしかに緑が多いことが確認できる。
Treepediaによるタンパ市の分析
タンパに次いで緑が多かったのはシンガポール。GVIは29.3%。シンガポールといえば、マリーナベイサンズや金融街などコンクリート都市のイメージが強いが、郊外に少し足を伸ばすと未開発のジャングル地帯が意外と多いことに気付かされる。またパークの整備が進んでいることも緑が多い理由の1つといえる。
このほか上位には、ノルウェー・オスロ(GVI 28.8)、シドニー(25.9%)、バンクーバー(25.9%)、モントリオール(25.5%)、米ケンブリッジ(25.3%)、サクラメント(23.6%)、ヨハネスブルグ(23.6%)、フランクフルト(21.5%)、ジュネーブ(21.4%)、アムステルダム(20.6%)などがランクイン。
日本の都市は現時点では神戸のみが分析対象となってるが、GVIは9.4%。最下位のパリ(8.8%)に次ぐ低い値だ。
The Trust for Public Landという団体が実施している「パークスコア分析」からも興味深い視点を得ることができる。この分析は、米各都市で一般市民がパークにどれほど簡単にアクセスできるのか、またパークの質などをまとめてスコア化したもの。現在、自宅から10分以内の距離にパークがない人々が米国には1億人もいるという問題意識のもと作成されている。
パークスコアがもっとも高かったのはワシントンDC。西ポトマックパークや東ポトマックパークに加え、ロック・クリーク・パーク、フォート・トッテン・パークなど街のいたるところにパークがあり緑が多い印象だ。同分析によるとワシントンDCには629カ所のパークが存在するという。
このほかパークスコア分析で高い評価を得ているのは、セントポール、ミネアポリス、アーリントン、ポートランド、アーバイン、サンフランシスコ、シンシナティ、ニューヨーク、シカゴ、シアトル、マディソンなど。ニューヨークでは市の土地の22%がパークとして利用されている。米国平均の15%を7ポイント上回っている。
米国各都市、公共空間刷新の取り組みが加速
こうしたランキングや分析が増えているのは、緑化やパークの重要性が広く認識され始めているあらわれと見て取ることができる。
そのことを示すかのように、米国では公共空間やパークを刷新しようという大型プロジェクトが相次いで開始されている。シカゴの606やアトランタのBeltlineなどがそうだ。
最近特に注目を集めているのがマイアミが実施している1億2,000万ドル(約130億円)のプロジェクト「Underline」だ。鉄道高架下の空間を線形パークに刷新する試み。高架下というと薄暗く、犯罪発生率が高いといったようなイメージが持たれているが、これを地元住民の憩いの場として、また通勤・通学の自転車道として刷新しようという。
マイアミの公共空間刷新プロジェクト「Underline」
この線形パークは、マイアミ川に沿った形で開発が進められ、コンドミニアム地区からコワーキングやテックオフィス地区までを結ぶことなる。テックコミュニティを一層活性化する可能性にも期待が寄せられている。2018年12月に始まった同プロジェクト。2020年6月までのオープンを目指している。
世界的に活発化する都市の持続可能性議論。マイアミを含め米各都市で進められている緑化・パーク開発の動きは他の都市にどのような影響を与えることになるのか。都市動向を見る上で、今後は「緑化」や「パーク」というキーワードが重要性を増してくることになるはずだ。
文:細谷元(Livit)