いま学生に戻ったとしたら、どのようなキャリアを考えるだろうか。社会人になり様々な価値観に触れることで視野が広がり、当時とは別の選択肢が浮かぶこともあるだろう。

様々なはたらき方が認められる多様性時代を迎えている中で、学生の時点で広い世界を感じることができれば、キャリアにおいてより良いスタートが切れるかもしれない。

10月10日(木)、SHARE GREEN MINAMI AOYAMA(シェアグリーン南青山)にて、パーソルキャリアが、「CAMP SUMMIT 2019 ~知るほどに面白い はたらくの世界~」を開催した。

同イベントは、仕事をする上で大切な「価値観」や「はたらき方」について、100名の学生に、考える機会を提供することを目的に開催され、CAMPキャプテン・はたらクリエイティブディレクターの佐藤 裕氏が、ファシリテーターを務めるAMP共同編集長・木村 和貴と共に、多様な社会人ゲストたちとトークセッションを実施した。

セッション1は、ゲストに和牛と高橋真麻氏の3人が登壇し、「はたらくを考える」というテーマについて語った。


(写真:佐藤 裕氏)

佐藤 裕
CAMP キャプテン はたらクリエイティブディレクター
若年層向けキャリア教育支援プロジェクト「CAMP」のキャプテンを務める、はたらクリエイティブディレクター。これまで15万人以上の学生と接点を持ち、年間200本の講演・講義を実施。現在活動はアジア各国での外国人学生の日本就職支援にまで広がり、文部科学省の留学支援プログラム「CAMPUS Asia Program」の外部評価委員に選出され、グローバルでも多くの活動を行っている。また、パーソルキャリア株式会社では若者にはたらくの本質や楽しさを伝えるエバンジェリスト、パーソルホールディングス株式会社ではグループ新卒採用統括責任者、株式会社ベネッセi-キャリア特任研究員、株式会社パーソル総合研究所客員研究員、関西学院大学フェロー、デジタルハリウッド大学の非常勤講師としての肩書きも持つ。

Part1「大企業にこそ安定ではなく挑戦を求める」

セッション2は「はたらき方の幅に出会う」をテーマにPart1・Part2の二部構成で行われた。Part1では、佐藤 裕氏、木村 和貴の他、ゲストで菅原 久里子氏(サントリーホールディングス)、小澤 悠氏(丸紅従業員組合)が登壇。

「大企業にこそ安定ではなく挑戦を求める」を議題に、大企業でチャレンジをするメリットやデメリットについて語った。


(写真左:菅原 久里子氏、写真右:小澤 悠氏)

菅原 久里子(すがわら くりこ)
サントリーホールディングス株式会社 ヒューマンリソース本部 人事部 ダイバーシティ推進室 課長
大学卒業後、サントリー株式会社へ入社。営業部門にて企画業務に携わった後、人事部門にて労務・グローバル人事・採用等を担当。現在はダイバーシティ推進室課長として、「みんな違うことがあたりまえ、違いを活かしあって面白いことにチャレンジする」組織を目指している。サントリーグループ全社のダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて、多様な意見・価値観を積極的に取り入れるような取り組み・働きかけを幅広く実施中。1児の母。
小澤 悠(おざわ ゆう)
丸紅従業員組合 副書記長 ANOTHER TEACHER代表
1990年、兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2013年丸紅株式会社入社。大豆・菜種等の穀物トレーディング業務に従事。その後、2017年より歴代最年少で組合専従。現職に至る。2019年1月~日本人全員を先生にするために、『日本総先生化プロジェクト(現 ANOTHER TEACHER)』を始動。400人のサポーターズ(高校生・サラリーマン・経営者・学校の先生)と共に総先生化に向けて奮闘中。

多様性のある価値観の中でチャレンジし続けること

佐藤 裕氏(以下、佐藤):就活したての頃って、「大手=安定」だと思いがちですよね。そんな大手のリアルな中身や裏側をお伝えできたらと思います。

木村 和貴(以下、木村):確かに、大手に対して固定概念を持っている人も多いと思います。大企業に在籍しているみなさんですが、その大企業の中でどのようなチャレンジをしていますか?

菅原 久里子(以下、菅原):現在、サントリーの人事部門の中にある「ダイバーシティ推進室」という所に所属しているのですが、ダイバーシティとは「多様性」という意味です。

日本で従来当たり前とされてきた、働き方への価値観が、年々変わってきています。そのような変化をチャンスととらえ、新しいこと・面白いことに挑戦する風土・仕組み作りに取り組んでいます。

小澤 悠氏(以下、小澤):僕は労働組合という特殊な組織にいて、主に「働き方改革」に携わっているのですが、「働き方改革」というのは、様々な取り組みや課題があります。

その中で、主に「働く時間や場所を自由にしよう」「どんどん新しいことをやっていこう」ということを働きかけています。

他責の概念を捨て、色々な価値観の人を巻き込むことが大事

木村:大企業には、関わる人がとても多いと思うのですが、その中で難しい点は何ですか?

菅原:それだけ色々な考え方があります。特に、経験が長い人だと、なかなかその価値観を変えられないと思うんです。色々な人がいる中で、歩み寄っていくことは、とても大変だと日々感じます。

小澤:誰もが皆、人のせいにしてしまっていることが多いと思うんです。

時代が変化している今、過去に成功例だったものが正解ではなくなります。しかし、頭では分かっていても、過去の成功にとらわれ、なかなか考え方をシフトできない人がいます。

そういった背景から、若手が上を「古い考え」だとバカにしたり、上が若手を「ゆとり」だとバカにしたりする傾向が見られるのですが、そういった他責の部分をいかに解消していくかが、重要だと思います。

木村:自分と違う価値観の人も巻き込むことができたら、すごく強みだと思うんですよね。

小澤:変なプライドは捨て、仲間をたくさん使ってください。自分の得意な領域、不得意な領域を把握し、強みがある人を仲間につけていくことで、可能性がより高まると思います。

時には自社だけではなく、他社の方も味方につけて、みんなで楽しく、可能性を追求していくことだと思います。

会社ではなく、自分自身が「価値」になるべき

木村:では、逆に、大企業だからこそできることや、大企業だから良かったと思える点などはありますか?

菅原:「1+1」をスピーディーに積み上げることができ、また、それが100にでも1000にでもすることができるというのが、メリットだと思います。

小澤:あと、ブランド力ですね。「◯◯の小澤です」といえば、それだけで信用に繋がります。大企業だからこその看板の力は大きいです。

あと一つは、やはり優秀な人がたくさんいます。それぞれの強みが必ずあるので、一つになった瞬間、できることの幅が大きいんです。

佐藤:ブランド力は、ビジネスの上で大きいですが、そのブランドをいかに上手に動かすかは、社員の力だと思います。

大企業は、一言で言えば「良い会社」で、市場価値も高いです。ただ、それはあくまでも「会社の価値」であって、その恵まれた環境下で、自分が価値になれるかはその人次第なんです。

木村:中身が伴っていない状態で表に出ても、必ずボロが出るので、ブランドを上手く使える人材であることは大事ですね。

菅原:私は「主語を間違えない」ということを、大切にしています。「他の誰か・何かが」ではなく、「自分が」を考える分だけ、成長につながると思います。

そして、「自分の成長のポテンシャル」を信じること。そのためには、「失敗をできる限り許容してあげる」ということが大事だと思います。

佐藤:今回大企業の裏話を聞いて、印象も変わったと思うのですが、会社の価値とその中の人の価値と意志は別物なので、その使い方を考えないといけないと思います。

ミーハー心は持たずに、自分の意志や価値をしっかり見据えた上で、ベンチャーに行くか大企業に行くかを選択してもらえたらと思います。

Part2「フィールドを拡げる”カンパニーフリー”なはたらき方」

Part2では、ゲストに小山 亮氏(福岡ソフトバンクホークス)、秋元 里奈氏(ビビッドガーデン)を迎え、「フィールドを拡げる”カンパニーフリー”なはたらき方」を議題に、一つの会社に縛られない働き方について語りました。


(写真左:小山 亮氏、写真右:秋元 里奈氏)

小山 亮
福岡ソフトバンクホークス株式会社 総務人事本部 人事部 ディレクター
2006年大手証券に新卒入社。営業経験を経て人材系企業に転職。ベンチャー企業から大手企業まで業種・職種を問わず幅広い企業への採用支援に従事。2012年ソフトバンクに入社後、中途・新卒採用を担当。地方創生インターンなど、ソフトバンク独自の採用活動に取り組み2018年7月から現職。
秋元 里奈
株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
神奈川県相模原市の農家に生まれる。慶應義塾大学理工学部を卒業後、新卒でDeNAへ入社。WEBサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、ゲームアプリ『キン肉マン マッスルショット』の宣伝プロデューサーに就任。順風満帆にITサラリーマン生活を送っていたが、次第に家業である農業を盛り上げたいという想いが強くなり、DeNAを退職。「農業の抱える課題をIT技術を活用し解決する」をミッションに掲げ、2016年11月に株式会社ビビッドガーデンを創業。2017年8月にこだわり生産者が集うオンライン直売所「食べチョク」、2018年11月に飲食店向けの仕入れサービス「食べチョクPro」をリリース。小規模の生産者でも簡単に消費者・飲食店と繋がれるプラットフォームとして、全国から約500軒の生産者が参画。

色々な会社でキャリアを積むことが価値と言われてる時代

佐藤:終身雇用が当たり前ではなくなってきている中、実際にそういった「カンパニーフリー」な働き方をされているお二人ですが、これまでの経緯を教えてください。

小山 亮氏(以下、小山):新卒で大手証券会社に入社し、その後、人材系会社数社で採用支援に従事、ソフトバンクに入り、約6年間採用担当の仕事に携わりました。

去年7月から、出向で現在の会社になり、現在36歳で、5社目になります。

秋元 里奈氏(以下、秋元):私は新卒で株式会社DeNAに入社し、3年半の間在籍していました。その後事業を起こし、現在は自分の会社を運営しています。

現在創業約3年で、農家さんから直接生鮮食品を買える「食べチョク」というサービスを展開しています。

木村:こういった経歴に、不安定さや疑問を感じている学生さんも、いらっしゃるかと思います。お二人は、どういった意志や考えで今に至っているのでしょうか?

小山:私自身は転職することが必ずしも正解だとは思っていません。実際に1社目に入社した時は、終身雇用のつもりで入社しました。しかし、家庭の事情など、様々な理由やタイミングが重なり、退社することになりました。

1社目を辞める時は怖い気持ちもありましたが、退路を断って転職しました。

“カンパニーフリー”に働く上で必要なマインドセット

木村:秋元さんの場合、起業というのは大きなライフチェンジですよね。起業を決意したきっかけは?

秋元:実家が農家だったのですが、親には継がなくて良いと言われていました。

DeNAで働いていた3年間はとても楽しかったのですが、何もやりたいことが見つかっていないことに気づいて。そうして社外の人との交流を増やしていく内に、「実家が農家って凄いね」と言われるようになり、農業に興味を持ち始めました。

木村:お二人はどの段階でキャリアチェンジを決めたのでしょうか?

小山:意志を持つことは重要だと思っています。ただ、僕が1社目を退職する時に、自分の意志をきちんと持てていたかというと、持てていませんでした。

意志を持つようになったのは、ここ2〜3年の話で、色々な価値観や考え方を持った人たちと、お会いさせていただく中で、自分が関わりたいことが見えてきたんです。

今となれば、限られた視野の中で「これをやりたい」と決定してしまうのって、結構リスキーだと思います

木村:得る情報の幅を広げていくと、自分の道が見えてくるのですね。

秋元:私も、DeNAに入社した時は、「起業したい」とは考えていませんでした。社会経験がないうちに、専門領域を決めるのはとても不安で、それが一生やりたいことかというと、自信がありませんでした。

学生の時は、違う目標があったのですが、実際に働いてみると、色々な知識がついて、自分が本当にやりたいことが見えてきたんです。

「働き方」をジャッジするのはあくまでも自分次第

木村:起業にはリスクがつきものだと思うのですが、起業する際は不安でしたか?

秋元:それが、辞める時は全然怖くなくて、辞めた方が「自分の価値が高まる」と、明確に分かったんです。

昔に比べ、現在では起業においてのリスクが少なくなったし、また転職することになったとしても、プラスになる経験だと思います。

元々起業するつもりはなかったのですが、農業への関心を抱いている時に、当時23歳だった後輩が、学生起業をした話を聞いている内に、「私もやるしかないな」と後押しされました。

何も分からないと怖いのですが、リスクを正しく把握すると怖くなくなったんです。

木村:幽霊と同じで実体がないものは怖いけど、正しく可視化することによって安心するのですね。

佐藤:人との出会い、その先は、自分で良し悪しの判断をし、選択していくことだと思います。

「大手」に「カンパニーフリー」、どちらの選択が正しいというわけではないので、自分でジャッジをできるようになることが大切ですね。

大手に40年間いることが幸せだと考える人もいますし、自分がそうでないと思うなら、転職することもアリなのではないでしょうか。

木村:「大企業で終身雇用」とか「スタートアップ」、「起業」というのは、あくまでも一つの選択肢で、その先にある、どういう自分でいたいかというところを、大事にしていきたいですね。

・セッション3「知ってるようで知らない、あの仕事の裏話」の様子はこちら

取材/文:Sayah
編集:花岡郁
写真:西村克也