2017年の市場規模は10兆4,430億円、小売金額ベースで前年比102.3%だった国内ギフト市場(「ギフト市場白書 2018」より)。メールやLINEでギフトを贈れる「giftee(ギフティー)」や、選べる体験ギフトを贈れる「SOW EXPERIENCE(ソウ エクスペリエンス)」など、ギフトサービスの多様化が進み、盛り上がっている。

そんななか、ギフト特化型EC「TANP(タンプ)」を運営する株式会社Graciaが、2019年8月に5億円の資金調達をした。約400%という高い年次売上成長率で、投資家などから注目を集めている。

急成長を遂げる同サービスは、国内ギフト市場をどのように見ているのだろうか。そして、「TANP」が目指す未来とはーー。今回は運営会社、株式会社Gracia マーケティングマネージャーの諸徳寺陸 氏に話を伺った。


カラーバリエーション等も含めると5,600以上もの商品をそろえる「TANP」

伸びゆく国内ギフト市場。ユーザーがギフトに求める“コト”とは?

最近の日本人の消費形態として、ただ「ブランド品を買いたい」という“モノ”自体の価値を求めるニーズは以前より減少している。代わりに「モノによって得られる経験」を求めるようになり、いわゆる“モノ”消費から“コト”消費に移り変わっているのだ。

その消費形態は国内ギフト市場にも表れていると、諸徳寺氏は話す。

諸徳寺「ギフトを贈る目的が『モノをプレゼントする』から『気持ちを伝える』に変わってきています。気持ちを伝えることで手に入る、相手とのつながりを豊かにするといった“かけがえのない体験”が求められているのです」

諸徳寺「TANPをご利用いただくお客さまも、ギフトによって心あたたまる体験をされています。例えば、とある男子高校生のお客さまが、TANPでバラセットとリップを購入されまして。そのギフトとともに、思いを寄せていた女性に気持ちを伝えられたんです。

結果、想いが通じ合ってカップルに。こちらの男性は、ギフトを添えて告白したことで気持ちが伝わりやすくなり、“かけがえのない体験”がもたらされました。このように素敵なエピソードがTANPを通して多く生まれています」

唯一無二の体験を提供するため、ギフトECショップが乗り越えるべき課題とは

ギフトECショップは、単純に商品を販売するだけでは足りない。ギフトという唯一無二の体験を提供するため、通常のECショップとは求められるサービスが異なるのだという。

諸徳寺「ギフトECショップだからこそ求められるものは、二つあります。

一つ目は、ラッピングやメッセージカードなど、ギフトならではのオプションの充実度。例えば、せっかくギフトにぴったりな商品をそろえていても、ラッピングができなかったら、ギフトとして成立しません。『ギフトを華やかにするオプションサービスがいかに充実しているか』が大切です。

TANPでは、ラッピングやメッセージカード、花束といったオプションサービスを豊富にそろえています。また、人気ギフト『Kailijumei(カイリジュメイ) フラワーティントリップ』に名前を刻印して、オリジナルギフトにすることも可能です。弊社はオフィス内で在庫を管理しており、名入れ機も用意しています。

繁忙期には1日300〜400件の名入れ注文が入るなか、安定したオプションサービスを提供するべく、効率的に多くの名入れができる仕組みを独自に開発しました。その結果、かかる時間を半分以下に削減。繁忙期に左右されることなく、安定してオプションサービスを提供する環境を整えています」


TANPではギフトを渡す様々なシーンに合わせたギフトや、オプションが用意されている。

諸徳寺「二つ目は、配送スピードの速さ。ギフトが届くまでに時間がかかり、お祝いごとに間に合わないのなら、特別な時間を台無しにしてしまいます。

そもそも、希望日までに配送されないなら購入されません。スピーディーに配送できる基盤を構築していくことも、選ばれるギフトECショップになるポイントなのです。

先ほども少し触れましたが、TANPはオフィス内で商品在庫を保有し、ロジスティクスの部分を強化しています。注文が入ったらすぐにピッキングから梱包、発送まで対応できるため、最短で即日発送も可能です」

ギフトを扱うECショップは「ただ商品を販売すればいい」というマインドではいけない。付加価値のサービスによって、「その場でラッピングしてもらえる」「そのまま持ち帰れる」といった実店舗との間に生じる壁を払拭しなければならないのだ。

贈り先ファーストの時代到来。ギフト選びをサポートするTANPのコンシェルジュサービス

諸徳寺氏によると、“モノ”消費から“コト”消費に移り変わるにつれ、ギフト選びの基準も変わってきているという。

諸徳寺「より色濃くてかけがえのない体験をするため、ギフト選びの基準は『相手が本当に喜ぶモノ』になっています。“贈り先ファースト”の時代が来ているのです。慣習上、タオルを贈るといった定番はなくなり、ギフトとして選ばれる商品は多種多様になりました。年代や関係性、シーンによっても贈りたいものは変わり、ギフト全体における最適解がなくなったのです」

ギフトは特別な瞬間を彩るものだから、贈る側は絶対に失敗したくないだろう。

しかし、贈り先ファーストによって、ギフト選びが難しくなった。そのような背景があり、店員とリアルタイムにコミュニケーションを取りながら、細かい要望を伝えられる実店舗で買う人も多くいる。

諸徳寺「ギフトECショップを選んでもらうためには、お客さま一人ひとりのニーズに沿った提案をする必要があります。そこでTANPでは、コンシェルジュがギフト選びをサポートする「プレゼントコンシェルジュ」というサービスを提供していまして。

LINEでお客さまから「春から大学生になる彼女のために、大人っぽいギフトを教えてください」というように細かく状況や要望を伺って、ギフトを提案させていただいております」

確かに、プレゼント選びは悩ましい。相手の年代や性別、趣味嗜好によって喜んでもらえるプレゼントは大きく異なるから。頭をかかえるお客さまに寄り添って、人の血が通ったコミュニケーションを取ることこそ、TANPが選ばれる理由なのかもしれない。

TANPが目指すのは「魔法のようなギフトECショップ」

「プレゼントコンシェルジュでギフト選びをサポートしつつ、贈り主が『これだ!』と思える商品が並ぶショップも作りたいと考えています」と諸徳寺氏は話す。

アクセスした瞬間、お客さま一人ひとりにぴったりな商品だけが並ぶ、魔法のようなギフトECショップーー。この夢を実現できる可能性を秘めているのは、テクノロジーを使って精度高くレコメンドできるECだからこそだろう。

諸徳寺「贈られた人が喜ぶモノであればギフトになる今、全ての小売店舗は『ギフト好適品』を取り扱っているともいえます。

ギフト市場において、もはや競合は同業他社ではなく、小売市場全体となりました。そんななか、ギフトEC市場を盛り上げていくためには、よりかけがえのない体験を提供していかなければならない。

そこでTANPは、ホテルマンのようなサービスを目指していきたいと思っています。具体的には、ギフトだけではなく、ギフトに付随する体験をまるっと届けられるサービスになりたいんです。レストランを探して予約したり、クルージングなどのデートプランを考えたり。

大切なひとときを彩るために、期待以上のサービスを提供していきたいと考えています。最終的に、お客さまに『とっておきのひとときを過ごしたいから、TANPにコーディネートを依頼しよう』と思っていただけるサービスにしていきたいです」

「これからはモノだけにとどまらず、ギフトに付随する体験も求められるようになる」とTANPは予測した。

今後、ギフト市場においての競合は、小売市場全体からサービス業へと広がっていくだろう。“かけがえのない体験”をキーワードに、ギフト市場がどうアップデートされていくのか、楽しみだ。

取材・文:柏木まなみ
写真:西村克也