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環境問題に関する議論は世界レベルでますます活発になり、食糧廃棄問題も連日のように取り上げられるようになった。外食産業でもエシカルやサステイナビリティに対する意識が高まった結果、各方面から解決につながるアプローチがなされている。
例えば、牛を一頭丸々解体し、これまでなら廃棄されていた部位も料理のテクニックで客に美味しく提供する「ノーズ・トゥ・テール」という、文字通り鼻からしっぽまで余すところなく全て調理するような、フードロスを極力出さないようにする風潮も芽生えてきている。
本稿で紹介するのは、サステイナブルビジネスに取り組む2つの新進気鋭のレストランだ。単に食事を提供する場所だけに留まらない、サステイナブルなレストランビジネスの最先端を追う。
客が自分で片付けるレストラン
ニューヨークベースのフードコンサルティング会社オベロングループが2017年にブルックリンにオープンしたレストラン「Mettā」は、ニューヨーク市で初となるカーボンニュートラル(企業活動を行う上で排出・吸収する二酸化炭素が同量であること)を標ぼうするレストラン。
そこで提供される料理は全て地元産の薪で調理され、それでも排出される年間約5万ガロンのガスに相当する残りの二酸化炭素は、購入した再生可能エネルギーで相殺していたという。
また、バーで廃棄されるレモンやライムの皮は塩にリメイクされ、キッチンにはその他にも多くの発酵食品が保存されていたりと、エネルギーや食材の無駄を出さないような工夫がなされていた。
Rhodora(Photo Credit:Liz Clayman)
実はMettāは既に閉店しており、2019年秋に新たなミッションとともに「Rhodora」というレストランに生まれ変わる予定なのだが、そのRhodoraが挑む大胆なビジネスモデルがオープン前から話題となっている。
オベロングループはMettāの他にもニューヨーク市内でこれまで「June」と「Purslane」というどちらもウェイスト・フリーでサステナビリティに注力する飲食サービスを展開しており、土台となるエコビジネスのノウハウは持ち合わせていた。そんな彼らが臨む新しいミッションが、今回のRhodoraなのだ。
Rhodoraが目指すのは、これまでのレストランの概念を覆すレベルでの”無駄”の排除。まず、汚れを電解できる食洗器を導入し洗剤を削減、紙のレシートを廃止して目に見える無駄を省いた。
そして、同グループの創業者であるヘンリー・モイナヘン・リッチ氏はこれまでバッサーが客のために駆け回り、店内をキレイに保つために忙しくしているのは少しおかしいと感じていたといい、考えた結果行きついたのが「自分のゴミは自分で片づけてね」というスタンスだった。
地域ぐるみで実現する「シェフ不在」
Rhodoraを最も異端としているのは、キッチンにシェフがいない点だろう。同店はシンプルな料理とナチュラルなワインやカクテルの提供に徹し、提供するメニューは牡蠣やシーフードの盛り合わせにチーズやシャトルキュリーなどの軽いおつまみ、パンやピクルスにサラダなど簡単な料理のみに厳選。
簡単な料理とはいえ、サーブされる料理はどれも地域の人気店のものばかり。ブルックリンの有名な肉屋「マーロウ&ドーターズ」のサラミや鶏レバーのムース、野菜のピクルスに、マーロウ&ドーターズの姉妹店「シー・ウォルフ」のライ麦のパンやチャバタ、バゲットなどが毎日自転車でデリバリーされる。
このように同じ理念を持つ近所の店同士が一丸となって、サステナビリティを向上させようとしている。
そのため、同店に在籍する6人ほどのスタッフは調理免許を持っておらず、料理に関してはせいぜい盛りつけや飲み物の用意のみで、メインとなる業務は客にワインをお勧めしたり、ウェイスト・フリーディナーについての説明や、サステナビリティに取り組むことの大切さを教育したりすることだという。
Rhodoraで提供されるフードメニュー(Photo Credit:Liz Clayman)
地産地消を推進するRhodoraが扱うワインはどれもローカルの生産者からのもの。ワインというとフランスなどヨーロッパ産のものが人気だが、輸送の際に発生する二酸化炭素などを考え、今のセレクトに落ち着いたのだという。
パッケージングにも配慮しており、チーズはワックスコーティングしていないもの、ワインもリサイクル可能な容器で配達されるものを厳選している。
そして、より良い店舗運営のために客からアイデアを募ることも。店内で排出するゴミを極力削減できる仕組みを作っているが、どうしても客の使うトイレのごみについては頭を悩ませた。
そこで、リッチ氏はトイレに「この問題について一緒に考えてほしい」という張り紙を出し、客もブレインストーミングに巻き込んだ。結果、前身であるMettā時代に利用していた、タバコの吸い殻や揚げ油などリサイクルが難しいものを回収する専門業者に委託することにしたという)
またリッチ氏はサステナビリティは特別なものでなく日常に息づくものだとし、美味しく手頃な価格の食べ物を提供し、人々がリピートしたいと思えるような店にすることはもちろん、他の飲食店も真似できるモデルを構築することがゴールだとGRUB STREETに語った。
「食糧廃棄はクリエイティビティの欠落」
このように随所にユニークさが光るRhodoraだが、その陰にはMetta創業時から共に歩んできたサステイナブル・ビジネスのパイオニアの存在がある。
マンハッタンの有名中華料理店「ミッション・チャイニーズフード」の創始者で、食という観点から気候変動問題に取り組む非営利団体「ゼロ・フードプリント」を運営するアンソニー・ミント氏らだ。
中でも、Rhodoraが大きく影響を受けたのが、イギリス初のゼロ・ウェイストレストラン「Silo」を仕切り、盟友とも言えるダグラス・マックマスター氏である。
2014年にイギリスの南部ブライトンに野菜料理を中心としたコンテンポラリーレストラン「Silo」をスタートさせたマックマスター氏は、同国の外食産業で一早くゼロ・ウェーストを掲げた、その道の先駆者ともいえる存在だ。
2016年にはThe Gardian誌によるObserver Food Monthlyの「最もエシカルなレストラン」にも選ばれ、着実に国内外の評価を高めてゆき、スタートから5年、今年2019年に満を持してロンドンに移転する予定だ。
ドウ・マックマスター氏(Siloの公式Instagramアカウントより)
マックマスター氏は「食糧廃棄を排出するのはそのシェフのクリエイティビティが欠落している証拠だ」というストイックな思想のもと、食材を余すところなく使い切る調理法の追求を始めた。
まず、彼はキッチンにゴミ箱を設けない。そして、元の素材よりもさらに高価値のものに昇華させるアップサイクリングを目指し、積極的に茎や種を他の料理に再活用した。
またSiloは、加工された食品を購入するのをやめ、農場から直接食材を購入することで、これまで中間業者に払っていたマージンを省き、同じようにサステナビリティを大切にする若手農家の収入が増えるようにした。
よって、Siloはバターはハウスメイド、小麦も自らの手で挽いたものを使用するなど自家製が基本だが、彼の創作意欲の対象は食材だけに留まらない。
彼が多大なリソースを費やしたのが、店で排出される空のガラス瓶やプラスチックを器に作り替えるプロジェクトだ。クラウドファンディングでガラスを粉砕する機械などを手に入れ、それを友人の陶芸家に頼み器に生まれ変わらせたのだ。
この器がかつてプラスチックだったとは誰も気づくまい 一点ものの雰囲気も素敵だ(同店公式Instagramアカウントより)
「このゼロ・ウェイストムーブメントをトレンドにはしたくない。食材と向き合い、環境に配慮する考え方は次世代を担う子どもたちにも伝えていきたいテクニックだ」とマックマスター氏はLivingに語る。
ヨーロッパと北アメリカの一人当たりが排出するフードロスは年間95~115㎏にも上るという。食という身近な問題だからこそ、毎日の意識を改めなければならない。本稿で紹介したシェフたちの思想が浸透してほしいと願う。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)