国内ギフト市場が好調だ。矢野経済研究所の報告によれば市場全体で見ても、2018年は2017年比で102.3%増、2019年に入った今も、緩やかにではあるが着実に規模を拡大している。

また時代の変化やテクノロジーの進歩に合わせて、様々なギフトサービスが誕生している。
そんな中、今から14年前の2005年に、ギフト市場に乗り出したのが株式会社ソウ・エクスペリエンスだ。

同社が創業時から打ち出している体験をプレゼントする”体験ギフト”はモノからコトへと消費動向が代わっていく中、20代から40代を中心とした幅広い世代に受け入れられ、2019年7月には利用者数が累計50万人を突破。誕生プレゼントや、クリスマスプレゼントなどのイベントに合わせて多くのユーザーに利用され、堅調に成長を続けている。

今回は同社代表を務める西村氏に”体験”のギフトに着目した経緯や成長する今後のギフト市場の動向を伺った。

何故、西村琢は体験ギフトに勝算を見出したのか

2003年、当時慶応大学4年生だった西村氏はパナソニック(当時松下電器産業)が開催していたビジネスコンテストで優勝。3,000万の出資をうけ事業化できる権利を手にした。パナソニックを離れた後、西村氏が次に手掛けた事業が体験ギフトのソウ・エクスペリエンスだった。

イギリスにある「体験を贈る」という文化を知った西村氏は、そこから着想を得て、同社を創業した。2005年創業当時、国内では全く一般的ではなかった体験ギフト。だが、漠然とサービスが世に受け入れられる感覚はあったと西村氏は語る。

「単純な話なのですが、プレゼントって何を贈るか、結構困りますよね。食べ物を贈ったり、アクセサリーを贈ったりブランド品を送ったり。でも、なかなか贈り先のことを考えられない。何を贈ればいいのかわからない。

そういう問題を考えた時に、エクスペリエンスの贈り物が便利だと思ったのです。多様な選択肢が考えられる。間を埋められる。漠然とそこに需要があると考えたのです」

西村氏は単に事業の成功という視点だけでなく、体験ギフトをビジネスとして展開することに”やりがい”も感じたという。

「体験というものを考えたときに、よくある社会的に成功した人間が死ぬ直前に『誰も見舞いに来てくれない』と語った、みたいな切ないエピソードが頭に浮かぶんです。

成功しないよりは成功した方がもちろんいいでしょう。でも、一般的に言われる大成功が、豊かなこととは限らない。

そうではなくて、ちょっと青臭いかもしれませんが、働くこと、人と一緒にいること、食事、学ぶこと、こうした日常のあらゆる体験が、いいものであったほうがいいと思っているんです。

ただ、他の人間に伝えるのがなかなか難しい。こんなにいい体験があると声をかけても人はなかなか動いてくれない。『昨日と同じ今日を送りたい』と考える人も少なくありません。

じゃあ体験がプレゼントされたらどうだろうかと。お金は払わなくていいし、しかも自分で体験を選べる。

新しい体験への一歩が踏み出しやすいのではないかと考えたのです。そして我々の商品がどこかの誰かの新しい体験のきっかけになる。そこに意義を感じたのです」

体験ギフトを選ぶ視点は「これかも」と思えるか

ソウ・エクスペリエンスが扱う商品数は47、選べる体験数は6,000以上と膨大だ。サイトを見てみると、スパやエステからキックボクシング体験や陶芸教室、旅行などなど、多種多様な体験が紹介されている。こうした体験を商品として選ぶ上で重要な視点とは何なのだろうか。


ソウ・エクスペリエンス ウェブサイト

「例えば、オーダーメイドでジャケットを作るという商品があるのですが、単にモノを買うというだけではない。お店にいってプロと相談し、自分だけのジャケットを作る。そして出来上がったものは普通に使える。

学びがあり、楽しい。かつ身に着けて使えるというのもまた一興。こうした”楽しさ”を見つけられるどうか。

また、スパやエステの体験ギフトはとても人気なのですが、これにも理由がある。ちょっと手の届かない、やろうと思っても金銭的時間的余裕が作れない。その分、憧れがある。だからこそ贈り物として成功しやすい。

あとは様々な店舗を掲載しているわけですが、他のサービスで予約をしたら割引があった。なんてことになって贈り物として適さなくなってはいけない。こういう細かいところも精査しています。

面白くもあり、難しいところですが、送りたくなる体験、送られたらうれしい体験は何なのかという問いを常に続ける。その中で、『これかも』というものに出会えるかどうかが重要ではないかと思っています」

ソウ・エクスペリエンスが提供する体験ギフトは極端にいえば、体験を受ける権利を送っているに過ぎない。だが、商品はそれぞれ、意匠を凝らしたデザインになっている。ここにも細かなこだわりがあるのだ。

「我々の商品は外見そのものには価値がない。じゃあレシートやQRコードの書かれた紙を渡せばいいか、ネットで送ればいいかというと、そうではない。贈られる方、贈るほうがそれでうれしいのか、という疑問が出てくる。

加えて、当初は体験を贈るという文化がそもそもなかったので、一目でわからなければ、それがどんなものか理解されない。言葉で説明すればいいという話もありましたが、それではそもそもプレゼントとしてどうなのか。

普通のプレゼントだったら、包装紙を破くとか何かの儀式があるじゃないですか、堅いものでなくとも、何か我々の体験ギフトにも反映したいと思った。そのためデザインにも投資をし、結果として今のようなあり方にたどり着きました」

成長するギフト市場、好みの多様化が後押しか

ソウ・エクスペリエンスだけでなく、国内のギフト市場は堅調に成長を続けている。いち早く、市場に乗り出した西村氏は市場の動向をどう見ているのか。

「ギフト市場はそもそも何を持ってギフトとするのか、怪しい部分も多い。大手の百貨店ではそもそもギフトラッピングの数を正確に図っていないところもある。

ただ、ソウ・エクスペリエンスは成長していますし、全体的に見ても好調です。ソウ・エクスペリエンスに限らずここ3、4年で体験を贈るという選択肢を選ぶ人は増えてきた。こうした好調の要因は体験ギフトに限ってではありますが、いくつか考えられるかと思います

僕たちの場合は20代~40代の世代が利用者として多い。モノ消費からコト消費へというミレニアル世代の文脈で考えることも出来るでしょう。

ただ、より大きい理由として、消費の選択肢が増えたことによる好みの多様化があると考えられます。例えば、昔だと家電を贈るなら、ソニー。ファッションであれば、ナイキやプーマ。押さえていれば大丈夫だというものがあった。

でも現在は家電も大小様々なメーカーがあって、商品が乱立している。ファッションでもインディーズのブランドが無数にある。それに併せて、個人の好みも細分化されてきている。友人間どころか身近な恋人、家族でも好みがよくわからない。

好みが多様化すること自体、なんら悪いことではありません。一方で何を贈ればいいのかわからなくなり、困ってしまう人が増えたことも事実です。その中で、新たな選択肢として体験ギフトの利便性が高まっている」

ソーシャルギフトではギフティ(東京・品川)等そのほかのサービスも堅調だ。ソウ・エクスペリエンスならではの強みや市場での位置づけについてどう考えているのか。

「そもそも前提がちがうと思うのです。ソーシャルギフトの多くは、相手の住所や細かい情報がわからなくても、その場で気軽に贈ることができるもの。

僕たちの商品はそうではなく、ハレの場で相手に直接渡すことを想定している。競合云々というのではなく、全くの別物だと考えています。

これからITが進んで、QRコードで、インターネットで匿名でプレゼントを贈るといった文化が根付き、今よりも当たり前になれば、僕たちも状況に併せて商品を変えていく必要はあると考えています。ただ、まだその段階ではない。

体験ギフトはまだ、他の贈り物と並列できるほどには市場を確保できていませんが、流れに合わせ市場が拡大していけば、今後強い競合が登場する可能性も十分にあるとのではないでしょうか」

なぜ、ソウ・エクスペリエンスは自由な働き方を勧めるのか

ギフト市場で他にはないサービスを展開しているソウ・エクスペリエンス。事業以外にもその働き方が注目されることも少なくない。業務委託で参画する人材や週3、週4で働く社員も少なくない。子連れ出勤も可能だ。働き方の文脈で紹介されることも少なくない。自由な働き方を勧めることとプレゼント作りの関係性とは何なのか、西村氏に聞いた。

「『ハレ』の日に使われるものを僕たちは作っている。だからこそ心身ともに余裕があるようにしなくては、というのは常に考えている部分です。商品の特性上、粗が出てはいけません。でも、忙しかったり、つかれていたり、精神面は商品に反映されてしまう。

また、当たり前ですが購入する人の気持ち的にもよくない。昔結婚式を挙げた会社が半年後に脱税で捕まってしまったんですが、そういうのは嫌じゃないですか。ブラック企業と揶揄されるような会社がプレゼントを作っていたらどうでしょう」

こうした考えがあるからこそ、自由な社内体制があるのだという。どんな形のギフトであれユーザーに幸せを届ける上でまずは送り手側である自分たちにもしっかりと向き合っているのだ。 そして、最後に今後のソウ・エクスペリエンスの展望について伺ってみた。

「細かいところだと、今まで用意してきた商品の多くはどこかに出かけて体験してもらう、というものが多かった。今後は自宅から出ないでできる体験も増やしていきたいですね。

最近だと、珈琲豆を選んでお届けするという商品が人気なのです。もっとここのバリエーションを増やしていきたい。自宅でできる体験の形というのがあると思いますから。

また、大きなところではすそ野を広げていきたい。まだまだ”体験”が贈り物の選択肢に入っていない人は多い。でも体験は贈り物として成立します。ですから、例えばファッションだったり食品だったり金券や食品券だったり、そういうものと並列して悩む人が出るくらいまで規模を大きくしていきたいですね」

取材・文:小林たかし
写真:西村克也