米中貿易戦争の激化と、それにともなうチャイナリスクの顕在化で東南アジア市場をみなおす動きが活発化しているが、その東南アジアEコマース市場でいま急速に存在感を高めているプレーヤーがいる。シンガポール発のオンラインショッピングサービス「Shopee(ショッピー)」だ。
2015年に登場した後発組ながら、域内でトップシェアを誇っていたアリババグループ「Lazada(ラザダ)」を追撃。マレーシアを拠点とし、オンラインショッピングサイト価格比較サイトを運営するiPrice Groupの調査によると、2019年第2四半期のASEAN6カ国を合わせたEC総合ランキングでは、Lazadaを超えトップになったことが明らかになった。
ホームであるシンガポールに加え、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンといった東南アジア各国に広く展開し、東アジアでは台湾にも進出を果たしているShopee。C2Cだけでなく、B2Cを含めたハイブリッドECで、ソーシャルの要素も強いことから、これまでのECとは一線を画すサービスであると期待を集めている。
楽天、AMAZONでさえも苦戦する東南アジアEC市場とは、そして急速に勢力を強めているSHOPEEはどんなサービスなのだろうか。
次なる主要Eコマース市場として急成長する東南アジア
経済成長に伴ってEコマースのマーケットとして高い注目を集める東南アジア。スマートフォンの普及により、今年の調査ではインターネットへのアクセスはシンガポール、タイ、マレーシアでは8割を超え、インターネットユーザーにおけるEコマース利用率は東南アジア各国ともに日本の約70%を上回り、インドネシアではなんと9割近くとなっている。
いまだ小売業全体におけるEコマースの占める割合は諸外国と比較して小さいものの、昨年の「2018東南アジアインターネット経済レポート」によると、この3年間で南アジアEC市場の年平均成長率は62%を超えた。
2016年、楽天がシンガポール、マレーシア、インドネシアから撤退したニュースが記憶に新しいように、これまでEコマース企業にとって、なかなか難しいエリアとも言われてきた東南アジア。
各国の文化や規制、消費者の志向や、経済力、インフラの整備状況に大きな差があり、地形的にも陸路での輸送が困難な場所が少なくない。
しかし、比較的インフラが安定しているシンガポールを拠点に、これまで成功をおさめてきたのが東南アジア版AMAZONと言われる「LAZADA」だった。
LAZADAが東南アジアに備える自社倉庫
ドイツ、ベルリン発のインターネット関連スタートアップ、ロケットインターネット社によりAMAZONのビジネスモデルのコピーとして2012年からスタートし、2016年に中国のアリババが10億ドルで買収した「LAZADA」は、本社を置くシンガポールに加え、いまやインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムで、自社倉庫からの販売だけでなく、マーケットプレイスも備え、40万の売り手、3千のブランド、5億6千万の買い手を抱える東南アジアきってのEコマースとなった。
美容、ファッション、家電から食料品まで、幅広い製品を提供、約100のロジスティクスパートナーがサポートし、シンガポールでは食品などを取り扱うネットスーパーREDMARTと2019年にプラットフォームを統合。もはや、人々の生活に欠かせない存在となっている。今後はさらに他の東南アジア諸国でも食品、日用品の販売を進めていく方針だ。
このLAZADAが君臨する東南アジアEコマース界に変化をもたらすかと噂されたのが、2年前の世界最大手のEコマースAMAZONの参入だった。2017年の夏、短時間配送サービス「プライム・ナウ」をシンガポールで開始、配送センターも設置したAMAZONは、国内最短1〜2時間で配送する最速のサービスで、競合との差別化を図った。
しかし、アマゾン参入から約2年。この2社どちらが東南アジアを制するか、と注目されてきたにもかかわらず、実際、オンライン決済が普及していない東南アジアで、代引きをはじめとした多様な支払いができるLAZADAに対し、カード払いのみのAMAZONはそれほどの存在感を示せていない。取り扱う商品数が、約800万点と意外と少なかったことも影響した。
そんなEコマース界の巨人AMAZONが苦戦する状況で、LAZADAのライバルとして急浮上したのがSHOPEEだった。
モバイルファースト・ソーシャルファーストで急成長「Shopee」
2015年にC2CのサービスとしてシンガポールでスタートしたSHOPEEは、同年Tech In Asiaによる「5つの破壊的なEコマーススタートアップ」、またシンガポールのデジタル出版社Vulcan Postによる「シンガポールスタートアップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞し注目を集めた。
そして、そのたった2年後には、8000万ダウンロードを記録、販売に手数料を課さない方針で多くの売り手を集め、1億8000万もの商品をあつかうB2C機能も併せ持つ巨大なオンラインショッピングモールへと成長していた。
東南アジアで主流の現金払いが可能なことはもちろん、「SHOPEE XPRESS」により1-3営業日での配達も可能、「Shopee Guarantee」と呼ばれる独自のエスクローサービス(商取引の安全性を保証する仲介サービス)により、注文を受け取るまで支払いの保留が可能など、使い勝手の良さと安心感を兼ね備えたECサイトとして人気は高まるばかりのSHOPEE。
現在は、マレーシア、タイ、台湾、インドネシア、ベトナム、フィリピンと、東南アジア各国に広く展開する、LAZADAに匹敵するオンラインモールとなっている。
東南アジア主要国に展開するSHOPEE
基本的にAMAZONのコピーであるRAZADAに対し、その急成長に寄与したと言われているSHOPEEの特徴は、自社倉庫や在庫を持たない「アセットライト」、そして二つのコンセプト、「モバイルファースト」と「ソーシャルファースト」だ。
日本でも若い世代を中心に、インターネットへのアクセスがパソコンではなくスマホ中心になってきていることは広く報道されているが、東南アジアでは、特に実店舗での買い物から、パソコンではなく、スマホでのネットショッピングに一足飛びに移行する傾向が強いという。
これまでのところSHOPEEの売り上げの約39%がモバイルデバイス経由とのことだが、同社は2020年までにモバイルトラフィックが8倍に増加すると予測しており、今後はさらにモバイルでの買い物のしやすさに注力する方針をとっている。
また、多くの人がソーシャルメディアから影響を受けて、買い物をすることが多い点を反映させ、SHOPEEでは、自分のショッピング体験を様々なソーシャルメディアで簡単にシェアできる「ソーシャルファースト」なショッピングができるようになっている。
SHOPEEアプリも、ハッシュタグでの商品検索や、気になる売り手をフォローし、自分のフィードでアップデートを確認できるなど、ソーシャルメディアの使用感に近い感覚で使える作りだ。
ソーシャルメディア感覚で使えるSHOPEEアプリ
2019年に入ってからは、フィリピンで韓国のガールズグループBlack Pinkのミート&グリートイベントを利用した詐欺の疑いにより、Twitterで#ShopeeScamというハッシュタグがトップトレンディングになるといったスキャンダルを経験しながらも、急速に東南アジアのEコマースで存在感を高めるSHOPEE。
親会社であるデジタルエンターテイメント会社「Sea Group(旧Garena)」も2017年10月にニューヨーク証券取引所で10億米ドルの新規株式公開、2019年に入ってから株価が急騰しているなど好調であり、SHOPEEのさらなる躍進を後押しする。
GoogleとTemasek Holdingsによると、東南アジアのデジタルエコノミーの規模は2025年までに2,400億米ドルにも達するという。
規模の小さな企業や個人事業主にも大きなチャンスをもたらすEコマース。大きなポテンシャルを持つ東南アジアマーケットから今後も目が離せない。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)