米中からの投資が急増する世界のテックハブ「インド」、AIスタートアップも活況

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米中貿易戦争避ける動きと対インド投資の加速

「テクノロジー・スタートアップ」が盛り上がっている場所はどこかと聞かれたら、米シリコンバレーや中国深センといった都市を思い浮かべる人が多いはずだ。日本では多くのメディアがシリコンバレーや深センに関する情報を頻繁に発信しているからだ。

日本の多くの人々がシリコンバレーや深センに注目している一方、米国と中国のプレイヤーらの目は別の場所に向けられている。それが中国に次ぐ世界第2位の人口を誇るIT大国インドだ。

Tracxnのデータによると、中国の対インドVC投資額はこの数年指数関数的に伸びている。その額は2016年の6億6800万ドル(約720億円)から、2017年には30億ドル(約3,200億円)、2018年には56億ドル(約6,000億円)に増加。

この額は米国の対インドVC投資額を上回ったという。アリババ、テンセント、シャオミなどが筆頭にVC投資を行っている。

米国企業の動きも活発だ。米中貿易戦争の激化によって、米国企業の脱中国と対インド投資が加速することが見込まれている。米印戦略パートナーシップ・フォーラム(USISPF)によると、現在中国に製造拠点を構える米企業200社ほどが、中国からインドに拠点を移すことを検討しているというのだ。これにはハイテク製造も含まれる。

インド地元紙The Times of Indiaの報道(2019年9月17日)によると、アップルはインドにおけるiPhone製造能力を強化するために10億ドルを新たに投資する計画という。

USISPFが米国企業のフィードバックをもとに作成したレポート「インドのハイテク製造」では、インドのハイテク製造産業は品質や価格競争力の点で優位性を持っていることから、今後5年で210億ドル(2兆2,600億円)に上る投資が見込めるという予想も展開されている。

インドは英語を話せるハイテク人材を多数輩出できる基盤を持っていたことから、1990年代からすでにIBMやオラクル、マイクロソフトなどの米テクノロジー企業がオフショア開発拠点を開設。

こうした歴史的な背景に加え、近年インドがIT開発で急速に力をつけ、オフショア開発だけでなく、上流工程もこなせるようになってきていることから、米国からのハイテク投資はさらに増えている状況だ。

インド注目AIスタートアップ「Staqu」、ドバイ警察からも熱視線

そんなインドでは、先端テクノロジーを駆使するスタートアップが多く誕生している。

AI画像認識技術に強みを持つStaquはインドで注目されるAIスタートアップの1つだ。特に行方不明者の発見や指名手配犯の捜査に活用できる警察向けの画像認識システムに定評がある。


Staquウェブサイト

インドでは年間6万人以上の子どもたちが誘拐などで行方不明になるといわれている。インド国家犯罪記録局のデータによると、2016年の行方不明児童の数は6万3,407人。1日あたり平均174人の子どもたちが行方不明になっている計算だ。このうち50%は発見されるが、もう半分の子どもたちは発見されないという。

Staquは、ラジャスタン州やウッタル・プラデーシュ州などで警察と連携し、行方不明者のデータベースを構築。行方不明者の行動パターンや人身売買組織や誘拐犯に関するデータと照らし合わせたAI分析を行うほか、監視カメラ映像によるリアルタイム分析などを行っている。

犯罪者データベースには100万人以上のデータが蓄積され、これまでに1,100件以上の事件を解決に導いたという。

こうした実績は海外からも注目されている。

2018年5月にはドバイ警察がStaquのAIソリューションを導入することを発表し、大きな話題となった。

ドバイ警察は凶悪犯罪を2021年までに25%削減するという目標を掲げ、テクノロジー活用を進めている。この一環で、ドバイ未来基金が世界中のスタートアップからソリューションを募ったところ677件もの応募があった。この中から選ばれたのがStaquのソリューションだった。

Staquは警察向けのスマートグラスや暴力行為検知、音声認識ソリューションも開発しており、この分野での同社への注目は今後さらに高まることが予想される。


Staquが開発するスマートグラス・ソリューション(Staquウェブサイトより)

StaquがインドのIT業界団体NASSCOMが実施する「AIゲームチェンジャーアワード2018」で優秀企業に選出されたことも、同社の知名度向上に寄与していることが考えられる。

NASSCOMは2013年に「スタートアップ1万社プログラム」を開始。2013〜2023年の10年間で1万社のスタートアップを生み出すという取り組み。グーグル、マイクロソフト、アマゾン、IBMなど米テクノロジー大手がスポンサーに名を連ねているのだ。

インド国内では現在、監視カメラと顔認識技術による防犯システム構築の議論がなされている。地元メディアによると、2019年10月にはインド全域で監視カメラと顔認識の統合システムを構築する計画の一環で、入札が実施される予定。インドでは警察人員が不足している状況だが、テクノロジー導入によって人員不足問題を緩和したい考えだ。

TechSci Researchの推計によると、インドの顔認識市場は2024年には現在比で6倍増加し、43億ドル(約4,600億円)に達する見込みだ。

インドは新興国ならではの「リバース・イノベーション」が起きやすいとの見方があるが、警察人員不足や防犯インフラ不足という特殊環境がStaquなどのAIスタートアップの発展に寄与しているとも考えられる。AI含めインドのスタートアップ動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit

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