2019年7月末、英国保守党党首への選出とともに、英国首相に就任したボリス・ジョンソン氏。欧州懐疑主義の立場を取っており、EU離脱を推し進めてきた人物だ。「英国版トランプ」とも呼ばれるジョンソン首相、EU離脱を「非常に大きな経済好機」と捉えており、EU離脱をきっかけとした国内経済の立て直しがどのように進むのかに焦点が当てられつつある。
この英国でいま特に注目されているのが「フラット・ホワイト・エコノミー」と呼ばれる新興経済クラスターだ。
英国経済への寄与率高まる「フラット・ホワイト・エコノミー」
英国のシンクタンク「Center for Economics and Business Research(CEBR)」の副所長であるダグラス・マクウィリアムス氏が作り出したコンセプト。イースト・ロンドン・テック・シティを中心に、デジタル・クリエイティブ分野のスタートアップ・人材によって形成されるクラスターのことを指す。
家賃が高騰するオフィスを避け、コーヒーショップで「フラット・ホワイト」を飲みながら仕事をする姿から「フラット・ホワイト・エコノミー」と名付けられた。
フラット・ホワイト・コーヒー
マクウィリアムス氏の分析によると、英国経済全体におけるフラット・ホワイト・エコノミーの寄与率は、2018年に14.4%に達したとのこと。この寄与率、2013年の8.7%から、2016年には13.3%と着実に拡大しているという。
同氏は、フラット・ホワイト・エコノミーの中でも特に重要な役割を果たした分野の1つがデジタルマーケティングだと指摘する。英国のオンライン消費の割合と消費額は他国に比べ高く、内需を刺激する上でデジタルマーケティングの重要性は無視できないものになっているようだ。
ブルームバーグによると、英国のデジタルセクターは2018年、前年比4.6%の成長を記録。同国GDP成長率の3倍以上の伸びとなる。マクウィリアムス氏は、フラット・ホワイト・エコノミーが英国の製造業、鉱業、電力など既存産業に匹敵、またはそれ以上の規模に拡大しているとの見方も示している。
フラット・ホワイト・エコノミーを構成するのは、デジタルセクターとクリエイティブセクター。デジタルマーケティング以外にもさまざまな分野が含まれている。たとえば、プログラミング、動画作成・編集、音楽、アート・エンタメ、リサーチ、プロフェッショナルサービスなど。
マクウィリアムス氏は、英国のフラット・ホワイト・エコノミーは、EU内で比較しても最大規模であり、もっとも成功しているセクターだとし、今後も拡大していくだろうと楽観視している。
ただし、フラット・ホワイト・エコノミーを構成する各分野は人材不足に直面しているともいわれている。これまでは高度スキルを持った移民によって支えられてきたようだが、EU離脱によって人材確保が難しくなる可能性が懸念事項として挙げられている。
「フラット・ホワイト・エコノミー」と「オフィスなし企業トレンド」
経済の高度化によって高度スキル人材需要が高まるのは自然の成り行きだが、デジタル・クリエイティブ分野ではリモートワークが可能であるため、移民・就労ビザ問題はそれほど大きな問題にならない可能性もある。
というのも、英語圏のデジタル・クリエイティブ分野ではオフィスを持たない企業が増えており、リモートワークが前提となってきているからだ。フラット・ホワイト・エコノミーが誕生した理由の1つは、高騰するオフィス賃料を避けたいという動機。オフィスを持たないことは最良の選択肢であるといえるだろう。
このことは英BBCの2019年7月の報道でも触れられている。BBCの報道によると、オフィスを持たない企業が増加し、トレンドになっているというのだ。
事例としてあげられているのが、WordPress開発などを行うAutomattic社。930人の従業員を抱えているが、オフィスは持っていない。従業員全員がリモートワークなのだという。しかも、従業員の国籍は70カ国に上る。リモートワークするのに必要な経費は同社が負担。
自宅ではなく、コーヒーショップなどで仕事をする場合でも、コストを負担しているが、オフィスを持つよりコストはかからないという。
世界各地にいるAutomattic社の社員 Automatticウェブサイトより)
英国の労働統計によると、本業のリモートワーク人口は10年前88万人だったが、現在は150万人以上。オフィスを持たない企業が増えていることのあらわれだと見られている。
英エクセター大学ビジネススクールのイルケ・インセオグル教授はBBCの取材に対し、オフィスを持たない英国企業が増えているのは明らかな事実とした上で、特にスタートアップに顕著に見られるトレンドだと語っている。
また、英語メディアIncも2016年4月「オフィスを持たなくても問題ない、バーチャル企業125社」と題した記事の中で、オフィスを持たない企業が増加しているトレンドを伝えている。
この記事ではリモートワークに関する情報を得られるウェブサイトRemote.coを紹介。同サイトではリモートワークに関するヒントが掲載されており、2019年8月末時点、そのヒントを提供している企業の数は140社に上る。
英国で期待を集めるフラット・ホワイト・エコノミー。リモートワークの増加とともに、どのような発展を見せるのか、今後の展開を楽しみにしたい。
文:細谷元(Livit)