AV監督・村西とおる氏の半生を、虚実交えて描いたオリジナルドラマ『全裸監督』が、大きな話題を集めているNetflix。今や世界190カ国、1億5,100万人以上が利用する有料動画配信サービスの雄だが、同社プロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏は先日、メディア向けのイベント「NETFLIX HOUSE: TOKYO 2019」で、日本のユーザー数が約300万人にのぼっていることを明らかにした。

国内通信事業者との提携も相次いでいて、つい最近もauがNetflixの視聴&データ使い放題をセットにした、新料金プランを発表したばかり。また9月4日には、CATV最大手J:COMとの新たな提携も発表されている。

有料放送が当たり前の米国と異なり、日本ではテレビは基本無料で楽しめる。CSの専門チャンネルやWOWOWなどの有料放送、VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスもあるが、基本無料という逆風の中、これらのサービスでは長い年月をかけてユーザーを獲得してきた経緯がある。

WOWOWが公開しているデータによれば、2019年度時点の累計正味加入件数は約289万4,000件。プラットフォームが異なるため一概に比較はできないものの、Netflixは国内でのサービス開始から4年あまりで、これを上回るユーザーを獲得したことになる。

国内外からの話題作を生み出すNetflixのコンテンツ力

Netflixはいかに日本でユーザーを獲得したのか。見放題で月額800円~という手頃な価格もさることながら、やはり注目すべきは、ここでしか見られないオリジナルコンテンツの豊富さだろう。

米アカデミー賞外国語映画賞・監督賞・撮影賞の3部門を受賞した『ROMA/ローマ』、今年の東京国際映画祭での上映も決まった、巨匠マーティン・スコセッシ監督作品かつ、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシら豪華俳優陣が出演する『アイリッシュマン』(11月27日配信予定)など、話題作が目白押し。

コンテンツはハリウッドだけでなく、世界中のクリエイターによって手がけられていて、日本でも冒頭の『全裸監督』をはじめ、人気のテレビシリーズを引き継いだ『深夜食堂 Tokyo Stories』や『テラスハウス』、ストップモーションアニメの『リラックマとカオルさん』など、数多くの作品が製作されている。『テラスハウス』のように日本発で世界的に人気となっている作品もあり、『全裸監督』も12言語での吹き替え版、28言語での字幕版が配信中。

日本だけでなく韓国、インド、台湾、香港、タイ、シンガポールなどでもトップ10入りを果たしているという。Netflixでは今後も、日本発のオリジナル作品を強化していく計画で、今後12ヵ月以内に16作品を投入予定だ。


これから12ヵ月で16のオリジナル作品を公開すると発表した


Netflixではユーザー個々の好みにあわせ、見やすく探しやすいUXを提供。たとえば同じ作品でも表示されるビジュアルが異なる

Netflixが目指すストレスフリーな視聴

視聴できる環境も広がっている。ビジネス・デベロップメント担当ディレクターの山本リチャード氏によれば、対応デバイスは1,700種類以上。「先月だけでも、世界で5億のデバイスがNetflixへアクセスした」という。

テレビ、PC、タブレット、スマートフォンなど、どんなデバイス、通信環境でもストレスなく視聴できるように、配信のしくみも工夫されていて、たとえば映像のビットレートをシーンにあわせて最適化するといった、細やかなチューニングも行われている。作品を一律のビットレートでエンコードするよりも「ショットごとに最適化した方が、少ないデータ量でよりクオリティの高い映像を配信できる」(エンジニアリング・マネージャーのテヤン・ファン氏)からだ。

コンテンツを格納しているサーバーは各国や地域に設置されていて、ユーザーに最も近いサーバーから配信することで遅延を最小限にしているとのこと。さらにその時々のネットワークの状況に応じて、適時画質レベルを切り替えることで、途切れることのないストレスフリーな視聴を実現しているという。


ショットごとに最適化することで、高いクオリティを維持しつつ1GBで6.5時間(『全裸監督』8エピソード分)の視聴が可能になったという


米ロス・ガトスのNetflixのキャンパスには、デバイステスト用の専用ルームも設けられていて、様々なデバイスでのテストが随時行われている

このほかテレビメーカーと共同で、よりクリエイターの意図に近い絵作りにも取り組んでいて、最新のソニー製およびパナソニック製のテレビには、同社のコンテンツに最適化された「Netflix画質モード」が搭載されている。また最近発表されたJ:COMとの提携によって、同社製のSTB(セット・トップ・ボックス)「J:COM LINK」もNetflixに対応。メニュー画面に最初からNetflixが組み込まれていて、放送と動画配信をシームレスに楽しめるようになっている。


NetflixにアクセスしやすいUIを採用したSTB「J:COM LINK」シリーズ。「XA401」(左下)は今年の冬から提供開始予定だ

山本氏によればグローバルでも日本でも、Netflixへの登録は圧倒的にスマホからが多く、日本では特にその傾向が強い。

一方で、登録から6ヵ月後の視聴環境を調べると、テレビで視聴する割合が高くなっているという。日本はグローバルに比べるとまだスマホで視聴されている割合が高いものの大画面へのニーズは高く、「今後テレビでの視聴はさらに増えると予想している」とのこと。対応機器の広がりにあわせて、4K・HDRや「Dolby Atmos」などに対応した作品ラインナップも拡充しているという。


J:COMの発表会に登壇したジュピターテレコムの井村公彦社長(左)と、Netflixプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏

自社のイベントに先立ち、新たに提携を発表したJ:COMの発表会にも登壇したピーターズ氏は、地域に密着し顧客とフェイス to フェイスでつながるJ:COMを、「新しいテクノロジーの導入が難しい人に対しても、サポートができる」と高く評価した。

Netflixのさらなるユーザーの獲得には「アクセスやサインアップへの敷居を下げる必要がある」と、考えているからだ。「(J:COMのサポートによって)より簡単にアクセスできるようになれば、より多くの人にNetflixを楽しんでいただける」とピーターズ氏。そのもくろみ通り、J:COMの持つ551万のサービス加入世帯を取り込めるか、注目される。

取材・文・撮影:太田百合子