2040年までに短距離フライトすべてを電動化する国も
電気自動車(EV)やハイブリッド車の開発・普及が進む自動車産業。
新車販売に占めるEVの割合は今後急速に伸びると予想されている。
モルガン・スタンレーの予測によると、現在数パーセントといわれる新車販売に占めるEV比率は、2025年に9%、2030年に16%、そして2040年には51%となり、販売される新車の半分以上がEVになるという。2050年には69%に到達する見込みだ。
電動化の流れが起こっているのは自動車産業だけではない。
航空産業も電動化シフトに向けた動きが散見されるようになってきている。
2018年初め、北欧ノルウェーの国営空港運営会社Avinorが2040年までに、短距離フライトすべてを電動航空機で運行する計画を発表。
英ガーディアン紙などによると、Avinor最高責任者であるダグフォーク・ピーターセン氏は、1時間30分以内のフライトを短距離と定義し、これに当てはまるフライトすべてを電動航空機で運行すると説明。
国内フライトに加え、近隣諸国へのフライトも含まれるという。
ノルウェーは西ヨーロッパ最大の産油国といわれているが、電動シフトで先陣を切る取り組みを見せており、航空機の電動シフトもその一環で行われるものだ。
冒頭で新車販売に占めるEV比率は数パーセントと述べたが、これは世界平均。EVvolumesのデータによると、ノルウェーの新車販売に占めるEV比率はすでに25%を超えており、世界で最もEVシフトが進んだ国となっているのだ。
EVシフトが進むノルウェー
ただし、フライト電動シフトを進めるためには多くの課題を解決しなければならない。特に安全性の確保は最重要事項だ。
2019年8月15日ロイター通信が報じたところでは、上記Avinorのピーターセン氏が操縦する2人乗りの電動小型航空機がノルウェーの南部アーレンダールの湖に墜落。
この航空機にはピーターセン氏ともう1人が搭乗していたが、2人とも墜落前に脱出し、ともにケガはなかったという。この航空機、スロベニアの航空会社Pipistrelが開発した電動航空機Alpha Electro G2。
これまでの報道では、操縦中にモーターが停止し飛行不能になったといわれているが、その原因はまだ解明されていない。
この事故は、短距離飛行を目的とした小型機によるもの。小型機の場合、100%の電動化が可能といわれている。一方、長距離飛行を目的とした大型機の場合、100%の電動化は非常に難しいとされている。
このため、エアバスは、フル電動ではなく、ハイブリッドエンジンにフォーカスし直し、英ロールスロイスやドイツ・シーメンスと共同でプロジェクトを進めている。2020年にはハイブリッド航空機の試験飛行を実施する計画があるとも報じられている。
イスラエル発の電動航空機「Alice」、排気量と燃料コストの大幅削減に期待
Pipistrelが開発している電動小型航空機Alpha Electro G2は2人乗りで、複数人の旅客を輸送することはできない。
一方、イスラエルのEviationが開発するAliceは9人乗り。世界初のフル電動旅客機と呼ばれている。
2019年6月フランス・パリで行われた「第53回パリ航空ショー」でお披露目されたAlice。航空産業の電動シフトのパイオニア的存在としてさまざまなメディアが取り上げている。
Eviationが開発する電動飛行機Alice(Eviationウェブサイトより)
Aliceは一回の充電で1,000キロほどの飛行が可能。高度1万フィート(約3,000メートル)を時速480キロで巡航することができるという。プロトタイプはすでに完成しており、2020年初頭までに試験飛行を実施する計画だ。その後米連邦航空局のライセンスを取得し、2021〜2022年頃には旅客サービスを開始したい考えという。
機体の価格は1機400万ドル(約4億3,000万円)。すでに買い手の見込みもついている。
米国の国内路線を運行するCape Air。パリ航空ショーでの記者会見にて、EviationのバーヨヘイCEOは、Cape Airからのオーダー数は2桁になると述べている。イスラエル国内メディアもEviationへの取材で、このことを確認している。
Cape Airは米国国内とカリブ海地域の35都市を結ぶ路線を運行しており、すでに92機の航空機を所有。電動航空機を導入することで、低コスト化を図る考えのようだ。
Aliceの電動駆動システムにはシーメンスとMagniXのパーツが使われている。
シーメンスは日本でもよく聞く名前だが、MagniXはあまり知られていない。MagniXはオーストラリアの企業で、電動航空機向けのモーターを開発・製造している。
MagniXのローエイ・ガンザルスキーCEOはBBCの取材で、毎年世界中で500マイル(約800キロメートル)以下の距離のフライトチケットが20億枚売れているという事実に触れ、Aliceのような小型機の需要は確実に伸びていくだろうと述べている。
またガンザルスキーCEOは、燃料コストという視点でも、電動小型航空機の需要が伸びる必然性にも触れている。小型機の代表格ともいえるセスナ機。通常、100マイル(約160キロ)あたりの燃料コストは400ドルだが、電動モーターの場合そのコストは8〜12ドルに収まるというのだ。
ローランド・ベルガーによると、現在世界中で実施されている電動航空機開発プロジェクトの数は170を超えているという。2018年4月以来で50%近く増加。また2019年末までにはプロジェクト数は200以上になると予想している。
自動車やバスなど地上交通の電動シフトに追随し空でも起こる電動シフト。その動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)