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地球の食料危機は止まらない
ご存知の方も多いと思うが、SDGsとはSustainable Development Goalsの略称で、2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までに達成する17の国際目標だ。
2018年に発表された国連の食料農業機関によると飢えに苦しむ人々は8億2,100万人、そして1億5,000万人以上の子ども達が栄養不足による発育障害に苦しんでいる。
さらに過去3年間、飢餓の増加が続けている現実も伝えられた。
二酸化炭素炭素排出量の4分の1が食料生産によるものだが、地球の飢餓をゼロにするには、今世紀半ばまでに食料を50〜70%増やす必要があると国連はいう。
我々は大きなジレンマに陥っているのだ。そこに彗星のごとく登場し、世界の注目を集めているのが「Solein」である。
NASA生まれの「Solein」とは?
「Solein」はフィンランドのスタートアップ企業Solar Foods社が開発した食料を作り出す革命的テクノロジーだ。
もともとはNASAの宇宙計画から生まれ、フィンランド国立技術センター(VTT)とラッペーンランタ大学(LUT)の研究プロジェクトとして開発はスタートした。
宇宙計画から地球環境への転換がとにかく興味深い。Solar Foods社のCEOであるPaci Vainikka氏は「土地を使わず、気象条件などに左右されず、より環境にやさしい方法で食料を作りたいという願いからSoleinは生まれた」と語っている。
従来、食料生産が困難とされていた極寒や極暑の地域でも製造ができるというのだ。つまり場所に関係なく「Solein」は作ることができる。
「Solein」は二酸化炭素、水、再生可能発電を使った酵母や乳酸菌に似た天然の発酵プロセスによって製造される。小麦粉のような粉末で味も似ているという。
しかし、その成分はタンパク質50%、脂肪5〜10%、炭水化物20〜25%であり、小麦粉とはかなり異なる。
さらに大きな違いは環境負荷だ。1Kgの牛肉を生産するには15,000ℓの水が必要になり、大豆1kgの収穫には2,500ℓの水が使用される。
ところが「Solein」を1kg製造するのに必要な水はわずか10ℓ。さらに農地が不要なので土地効率の面では大豆の生産の10倍の効率性がある。
製造に必要な電力は太陽光などの再生可能エネルギーを使用、生産コストはわずか5ユーロだ。
現在、EUへのライセンス申請を行っており、2021年には商業化される予定だ。「Solein」は直接食べることが可能。また飲料やフードに加えたり、3Dプリンターを使って麺などに加工することができる。
2023年の終わりまでには年間20億食を目標にしていると言う。
Solar Foods社は017年に欧州宇宙機関(ESA)のビジネス・インキュベーション・プログラムにも選ばれた。将来、火星への人類移住も視野に入れた宇宙環境での食料生産を見据えているということがわかる。
地球はいま?Soleinはどう食卓を彩るか。
BURSTより
我々は今、Food4.0時代に暮らしているようだ。Food1.0を農耕と生産の時代として、Food2.0は保存と加工の時代、Food3.0は交流と物流時代、そしてFood4.0は大量生産の時代だと言われている。
けれど人々を豊かにするはずの大量生産は、グローバル化が進んだことでより不均衡を助長してしまったのではないか?と筆者は思う。
賞味期限切れ商品専門のスーパーや食品廃棄を禁止する法律のある国もあるがほんの一部だ。日本では年間2,842万トンの食品廃棄物等があり、可食分とされる食品ロスは646万トン。 なんと情けないことか…。
そんなFood4.0時代を危惧し、早くから取り組んできたのがVTTとLUTを擁すフィンランドだ。VTTは2050年の食料ビジョンとして、動物由来の食べ物に代わる持続可能で健康的なソリューションを掲げてきた。
その結晶として、満を持して誕生したのが「Solein」だ。
世界中の飢餓に苦しむ人の解放を第一優先になっているのか?我々の食卓にどのような夢を与えてくれるのか?日本食はじめ各国料理との相性は?ポテンシャルはそのようなものなのか?
「Solein」の可能性は未知だが、きっと次代の救世主となってくれるだろう。どのようなカタチで食卓で出会えるか、楽しみに待ちたい。
文:羽田理恵子
編集:岡徳之(Livit)