世界各都市でイノベーションハブを目指す動きが活発化している。日本では中国・深センに注目する報道が多い印象だ。
一方、世界のスタートアップエコシステム分析を専門とするStartup Genomeは、次のシリコンバレーが世界各地に誕生するとの予想を展開。それらがおよそ30都市になることから「Next30」と呼んでいる。
都市単位のイノベーション度合いを分析するレポートは数多く発表されているが、用いられる評価軸はさまざま。このため導かれる結論も異なったものとなっている。どの都市がイノベーティブなのかを知るには、これらの異なる視点の分析を高い視点で見るメタ分析的な考えが重要になってくるといえるだろう。
そこで今回は、日本ではあまり知られていないイノベーション都市に関する調査とその評価方法を紹介し、別の視点で見る世界都市イノベーション競争の動向をお伝えしたい。
特許数で見るイノベーティブ都市ランキング
米不動産サービスJLLがこのほど発表した調査レポート「Innovation Geographies」。特許出願数などから「イノベーティブ都市ランキング」を算出した。
どのような都市がランクインしたのか。1位は大方の予想どおり、米サンフランシスコ。興味深いのは2位以下の順位だ。
2位にランクインしたのは東京。次いで、3位シンガポール、4位北京とアジアの都市がランクイン。5位以下は、5位ロンドン、6位サンホセ、7位パリ、8位ニューヨーク、9位ボストン、10位ソウル、11位上海、12位ロサンゼルス、13位ミュンヘン、14位深セン、15位シアトル、16位シドニー、17位トロント、18位ベルリン、19位アムステルダム、20位ストックホルム。
JLLが指摘するところでは、特許数で見た場合、東京は世界のどの都市と比べても群を抜く存在。同社がまとめた都市別特許数では、東京が2位の深センを2倍近く離し1位となっている。電子機器やナノテクノロジー分野が強みだと指摘している。
この都市別特許数、3位以下は次のような都市がランクインした。3位ソウル、4位大阪、5位パリ、6位北京、7位ヒューストン、8位ニューヨーク、9位ボストン、10位ミュンヘン。
イノベーションスコアで2位となった東京(JLLウェブサイトより)
強固な科学技術・研究開発基盤を持ち、特許数で他の都市を圧倒する東京。冒頭で紹介したStartup Genomeは、デンソー、日立、東芝、ヤマハ、川崎重工などが会員である日本ロボット工業会に言及し、世界の産業ロボット市場での優位性がスタートアップ・エコシステムと強み分野の醸成に寄与するだろうと分析している。
JLLのレポートでは「イノベーション都市ランキング」のほかに「人材ホットスポット・ランキング」も算出。大学などの高等教育環境などが考慮されたものとなっている。
人材ホットスポット・ランキングでトップとなったのは、ロンドンだ。大学と高度スキル人材の評価が総合順位を押し上げたという。
以下、2位サンフランシスコ、3位ワシントン、4位サンホセ、5位シアトル、6位ボストン、7位シドニー、8位パリ、9位オスロ、10位メルボルンなどとなり、米国とオーストラリアの都市がトップ10のほとんどを占める結果となった。
トップ20以内のアジアの都市では東京(19位)のみがランクイン。東京はイノベーション都市としての基盤は強いが、人口動態的に他の都市に比べ弱いと評価された。
162個の指数で測る包括的なイノベーティブ都市ランキング
都市データ分析サービスを提供する2thinknowのイノベーション都市ランキングも興味深い結果を示している。
同社のランキングは、31分野162個の指数から算出された包括的なものだ。
31分野には、ビジネスやテクノロジーに加え、教育、地理、政府、法律、外交・貿易、産業、芸術、ファッションなどさまざま分野が含まれている。162個の指数には、GDP、公務員のプロ意識、産業クラスター、製造業のクオリティ、Eコマース売上、スタートアップエコノミー、スマートデバイスなどが含まれる。分析対象となったのは世界500都市。
同ランキング2018年版で1位となったのは東京だった。昨年の3位から順位を2つ上げた。以下、2位ロンドン、3位サンフランシスコ、4位ニューヨーク、5位ロサンゼルス、6位シンガポール、7位ボストン、8位トロント、9位パリ、10位シドニー。
2thinknowのイノベーション都市ランキング(2thinknowウェブサイトより)
2thinknowのクリストファー・ハイヤー氏は、東京が1位となった要因について、162個の指数が全体的に力強く推移したことに加え、東京が強みとするロボティクスと3Dマニュファクチャリングの世界トレンドが強まったことが理由だと語っている。
トップ100には東京のほか、大阪(45位)と京都(64位)がランクイン。大阪は前回から5つ順位を上げ、京都は6つ順位を上げた。
このほかアジアからは、ソウル(12位)、香港(27位)、上海(35位)、北京(37位)、深セン(55位)、台湾(60位)、釜山(68位)、クアラルンプール(99位)などがランクイン。近年のチャイナリスクの顕在化を反映してか、北京と上海は前回から順位を下げる結果となった。
「イノベーティブな都市」を考えるとき、都市インフラや法規制、ビジネス関連リスクの低さなどさまざまなことを考慮する必要がある。2thinknowのランキングはこのことを体現する重要な指標といえるだろう。
米中貿易戦争の影響によって、世界の資本や人材の流れが大きく変わる可能性がある。各都市はこの流れを踏まえたイノベーション政策を実施することが必要になるのかもしれない。
[文] 細谷元(Livit)