クリエイティブキャピタル 「NEWS」共同代表 3人が語るクリエイターの課題とは

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スタートアップ企業に、クリエイティブを投資する。そのような新時代の事業モデルを採るTHE CREATIVE CAPITAL 「NEWS」の設立が、2019年8月7日に発表された。

NEWSでは、主にシードラウンドのスタートアップを対象にクリエイティブ、マーケティングの知見を投資し、成長、拡大をサポートする。そして提供したものへの対価として受け取るのは、キャッシュではない。ストックオプションである。

さらにNEWSはメンバーがそれぞれ軸となる主業を持ちつつ、パートナー企業によって最適なメンバーがアサインされる”分散型組織”という、新しい形態の運営方法だ。

NEWSは、現状からどのような課題を感じて設立されたのだろうか?

話を聞いたのはNEWSの共同代表である以下の3人である。

梅田晢矢 クリエイティブディレクター
高木新平 ビジョンアーキテクト / NEW PIECE Inc. 代表取締役
佐々木芳幸 グローバルクリエイティブプロデューサー / 株式会社 monopo 代表取締役

3人にNEWSを設立した経緯、またスタートアップのクリエイティブへの課題、今後の展望などについて詳しく話を聞いた。

クリエイティブキャピタルとは、クリエイティブに投資しリターンを得る事業モデル

クリエイティブキャピタルとは、具体的にどのような事業モデルなのか。はじめに梅田氏にNEWSの事業モデルの概要を聞いた。

梅田哲矢氏

梅田氏「NEWSはスタートアップに対して、クリエイティブ・マーケティングを投資するという事業モデルです。投資と言っているのは、そのリターンをキャッシュではなく、ストックオプションで得るからです。

キャッシュと異なり、ストックオプションはそのスタートアップが成長すれば価値が上がる可能性があります。将来の成長に賭けることで、これまでは難しかった一線で活躍するクリエイターとスタートアップが手を組めるのではと考えました」

リターンはキャッシュではなくストックオプションで貰う。このような収益の仕組みを選んだ経緯として、高木氏はこれまでに感じたスタートアップと仕事をする上での課題を述べた。

高木氏 「僕は今NEW PEACEという会社をやっていますが、そこでも色々なベンチャーやスタートアップのビジョン作りなどを行なっています。

そして、企業がビジョン作りなどにお金をかけるフェーズ、タイミングは上場前とか、プロダクトがマーケットにフィットした後の方が良いと僕は思っています。よくスタートアップの人から相談を受けるのですが、ビジョン作りなど、クリエイティブの領域に対してお金をかけるにはフェーズが違い、プロダクトや人に出資した方が良い時期だったりすることが度々ありました

高木新平氏

しかし、だからと言ってシードラウンドにそれらのことが不要なわけではない。むしろその効果はシードラウンド期など、起業したばかりのスタートアップの方が長期的に作用する可能性がある。だからキャッシュで仕事を請ける自社NEW PEACEでの実現は難しくても、一緒に仕事をしたいという思いがあったと高木氏はいう。

高木氏 「上場よりも手前の時期、もっとスタートアップにいる奴らと、シンプルに一緒に仕事をしたいと思っていました。そしてその感覚を一緒に楽しめる、クライアントもそうだし、一緒に働くメンバーもその感覚をシェアできて、どんどん新しいチャレンジしていける人達が良かったです

NEWSでメンバーを集めるにあたって、ただ儲けることよりも、世の中の価値観をちょっと変えるようなことを面白く感じる、その感覚を共有できている人達でやっていくことが大事だと思いました。

NEW PIECEでいえばビジョンを作るとか、実験となる事業を作るというものとは、NEWSではモチベーションが微妙に違います。報酬形態とかチームの作り方など、NEWS自体が一つの新しいチャレンジです」

大企業とスタートアップのフェーズの違いでキャッシュの価値が変わり、それがクリエイターの課題だった

初期は特にそうだが、スタートアップは大企業のようにPRやクリエイティブに大きな予算をかけることができない。また、クリエイティブを生業とするクリエイターも、初期のスタートアップと仕事をしたいのに、資金面の問題からできないことを課題に感じていたと、梅田氏は述べた。

梅田氏 「社会とは全く関係のない企業の「事情」のために人生の大事な時間を使っていていいのか。社会を大きく前進させるスタートアップのダイナミズムの中で自分のクリエイティビティを発揮できないか。今そうやって仕事の意義を考える(クライアントワークの)クリエイターは多いと思うんです。

しかしなぜ、今それができないかというと、先ほど高木も話していましたがシード期のスタートアップ企業ではキャッシュをベースとした報酬形態だと成立しづらいからです。スタートアップの100万円と大企業の100万円では、価値が違いますよね。

そうなると我々としても、スタートアップの仕事は請け負えず、大企業の仕事をやるということになるのが実態だと思います。」

またデザインの依頼がスタートアップからあった時、キャッシュのやり取りが介入するために、本質的な課題解決への提案が難しい局面もあったと、佐々木氏はいう。

梅田氏 「佐々木の場合、デジタルクリエイティブの領域が強いので、アプリの UI を良くしたいという相談があります。しかし多くの場合、アプリのUI改善がサービスの根本的な浸透要因にはなりません。

毎日使用するアプリがより使いやすくなり、1日2回使うようになることはありますが、最初から使われていないものは変わりません。このようにUIなどのデザインではなく、そもそもサービスのコンセプトを変えた方が良い時などに、NEWSで請け負うのが理想的な形です」

佐々木芳幸氏

佐々木氏 「本質的な課題解決の提案は、とても重要だと思っていて、これまで自分自身でも試してきました。しかし、僕らの提案が報酬型になると、上手くいかないことが多かったです。依頼する企業にお金がそもそもなかったり、そういうフェーズじゃなかったりすることもあります。

また、相手も僕らにはものづくりのプロとして、デザインのプロとしてお願いしにきます。しかし僕らがデザインではなく、コンセプトやビジョンを変えるべきだと提案しても、相手が僕らに期待している内容との間にズレが生まれます。そんな時に、提案できる場所というか、もう一つの窓口としてNEWSがあるのはとても良いなと思っています」

“10+”ではなく“10x”の仕事がしたい。NEWSを設立した背景

現代は企業の働き方改革が問題として取り上げられる時代だが、重要なのは働き方ではなく、何のために働いているのか、という点が重要だという思いが、NEWSの構想段階からあったと、梅田氏はいう。

梅田氏 「僕らが作っているものは、日々の10%の改善であって、10倍20倍の成長とか、社会を変えていくことに繋がっていないことが多いです。しかし仕事の内容が社会の変化や成長に繋がってくれば、大変な仕事だけど、それでも楽しいと改めて言えるのではないかと思います。この思いがNEWSを設立する背景として、最初の問題意識としてありました。

また梅田氏はGoogleでも使われている”10x”という考え方と、スタートアップの関係性についても言及した。

梅田氏 「今仕事に対して“10+”と“10x”という区分けを作っているのですが、“10+”とはつまり、売上などを10%上げていくという考え方です。そして“10x”は、10倍ずつ増やしていくという考え方です。

そして自分が10xの仕事をしたいと考えた時、これから成長するスタートアップに特化した方が良いという結論に至りました」

“10x”の仕事をしたい、という結論に至った時、個人単位での検証を経て現在の事業モデル、そして“分散型チーム”という組織の運営方法が決まったという。

梅田氏 「最初の構想として10xのために働きたいという思いがあり、そこでスタートアップと仕事をすることが決まりました。しかしキャッシュで仕事をするのは難しい。そこでストックオプションでリターンを貰うことを考えました。

しかし長期的な視野でリターンを待つストックだと、キャッシュフローが大変なので、それぞれが主業を持つ、分散型組織として運営しようという結論に至りました。クリエイティブに投資するというコンセプトを分散型のチームで行う、という働き方でやっていけば、ストックというリターンでの収益方法も実現可能だと思っています。

実はすでに一年半くらい前から実験的に、このやり方を試しています。そして検証を重ねた結果、このモデルであればいけるかもしれないという結論が出ました」

メンバーも、クライアントも繋がりを軸に探す。NEWSがパートナーに提供するもの

約1年半の仲間集めや検証期間を経て、NEWSは設立されたが、分散型組織という新しい形態で働くメンバーをどのように集めたのか、高木氏に尋ねた。

高木氏「メンバーは各領域で活躍している仲間を集めました。そろそろやろうよって声をかけました。同じ視座に立って、グルーブ感を共有できるかどうかが結局大事です。スタートアップは企業やマーケットが日々変化していく世界なので、変化を面白がれる人と仕事がしたいと思いました。

NEWSには外部アドバイザーとして弁護士や会計士にも入っていただいています。彼らは職業としては硬いけど、自分達でスタートアップをやっているような、フレキシビリティの高い人材です」

またクライアント、パートナーとなるスタートアップも、はじめはメンバーの誰かと繋がりのある企業にする予定だと佐々木氏はいう。

佐々木「どんなクライアントと仕事するかは、各々メンバーが所属するコミュニティでの繋がり、また各々の営業の結果だと僕は思っています。

僕の場合、約9年会社をやっているので、クライアントの社長から別の企業の人を紹介されたりすることが、結構多いです。そして僕の領域ではない、ビジョンの壁打ちなどをする必要がある時、梅田や高木を紹介したいんですよね。また、僕以外にもそれぞれ社長だったりとか、役員だったりとか、政治の人とか色んなコネクションがあります」

そして今の段階で、NEWSがクライアント、パートナーに提供できるものは大きく分けて3つあると梅田氏は説明した。

梅田氏 「まだ去年検証の範囲でやっていたなかですが、NEWSが提供できるものは大きく分けて3つあります。

1つ目はマーケティングを初めてやる時に、経験さえしていれば答えが出せることを、僕たちが第三者で当事者という、絶妙なポジションに入り、意思決定をサポートすることです

2つ目はサービスとか事業のコンテンツを作る時、余分なPRや広告を打たなくて済むようにすることです。事業のブレスト段階から僕らが入ることで、あらかじめ話題性を練り込むことができ、効率もスピードも高まります。

3つ目は、僕らもそうですが、自分の事って意外と言語化できないというか、価値を客観視することが難しいです。これはプロでも難しいです。そのため単純に第三者の視点で、スタートアップに対して価値を可視化して、何を広げた方が良いかアドバイスすることができます

共同代表の3人がそれぞれNEWSで実現したいこと

最後に3人に、今後NEWSでそれぞれが実現したいことは何か、目指すものは何か尋ねた。

はじめに高木氏からは、クリエイティブで10xのバリューを出す事例をNEWSで作りたいという答えが返ってきた。

高木氏 「クリエイティブキャピタルというように、クリエイティブを投資するという考え方が一般的になるといいなと思っています。スタートアップにお金を投資することは、日本でも浸透してきましたが、クリエイティブを投資する事例はまだ少ないです。

クリエイティブに投資するって、すごく上位レイヤーというか、お金の使い道が決まって何か制作するのではなく、アイディア自体がもう投資になるので、自分達の仕事を次のフェーズに持っていけるかどうか、実験できて面白いです。

また、クリエイティブは10xというバリューの出し方ができる仕事です。そしてそれが一つでも証明できれば、社会も一気に変わっていくと思うので、NEWSからそういう事例を出していきたいと思っています」

つづいて佐々木氏からは、シードラウンド、シリーズAなどの段階からでも、グローバルを現実的な視野に入れられるようサポートしたいという回答があった。

佐々木氏 「僕は日本のスタートアップが、キャピタルを積む前からグローバルを現実化できるような支援、プロデュースをしたいというのが、答えとして一番強いです。

僕の場合、自分の会社monopoがグローバルになっていて、海外からアジアンマーケットに行きたいクライアントと仕事したりとか、グローバルにコミュニケーションしたい、みたいな日本の大手企業のお手伝いをしたりしています。

しかし日本のスタートアップはある程度キャピタルを積み、マーケティングが終わってから、海外進出と言い出すことが多いです。そうではなく、グローバルを目指しているスタートアップであれば、シードラウンド、シリーズA の段階から、僕の会社のグローバルクリエイターネットワークを生かしてサポートしていきたいと思っています」

最後に梅田氏は、自身がクリエイティブディレクターをやっている理由でもある、「一休さん」という存在にNEWSを通して近づきたいという願望を語った。

梅田氏 「2人とは話のレイヤーが違うのですが、僕小さい頃から一休さんがすごい好きなんです。一休さんの何がすごいって、思いもつかないアイデアで目の前の人を救っていく。しかも打率10割で。小さい頃に憧れたことが今の広告の仕事に繋がっているのですが、今広告でやれることがどんどん狭くなってきているように感じます。

このNEWSという枠組みでは、一休さんみたいに、広告という枠だけにとらわれずに、色んな問題をアイデアで解決していき、少しだけ救われる人が増えればいいと思っています。NEWSを通して一休さんに一歩近づきたいです」

取材:木村和貴
文:片倉夏実
写真:西村克也

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