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今日の国家活動や企業活動は、経済効果だけでなく、社会に与える影響が大きく注目されている。このたび世界経済フォーラム(WEF)は報告書で「世界で社会的および経済的に、根本的なインパクトを与える画期的な2019年の新興技術」トップ10を発表した。
循環経済を達成させるためのバイオプラスチック、高齢者の世話や子供の教育などに貢献するであろうソーシャルロボット、既存のレンズよりより小型化・軽量化したメタレンズなど、明日の世界を形作る今日の新技術を紹介する。
「持続可能な技術」「人と技術のつながり」に注目のトップ10
このレポートは、技術専門家や有識者が国際委員会として集まり、数々の基準に沿って提案を評価した上で、トップ10が選出された。選定基準は、以下の4つだ。
・社会や経済に対し、大きな利益をもたらす可能性があるかどうか。
・既存にある確立された方法から、変換できるような技術か。
・開発の初期段階にあっても、研究所、企業、投資家などから多くの関心を集めているか。
・今後5年間にある程度の規模の市場に発展するか。
世界経済フォーラムの最高技術責任者であるJeremy Jurgens氏は、「所得格差から気候変動まで、テクノロジーは、私たちの世界が今日直面しているすべての課題に対する解決策を見出す上で重要な役割を果たしている。
今年の新興技術は、人間の革新の急速なペースを示し、持続可能で包括的な未来がどのようになるのかを垣間見せている」と語っている。
では以下1位から、その背景と新技術を紹介する。
http://www3.weforum.org/docs/WEF_Top_10_Emerging_Technologies_2019_Report.pdf
1.循環経済のためのバイオプラスチック
2019年世界経済フォーラムの報告によると、プラスチック産業は2014年に685,000ポンド(=310.7トン)以上の量を生産したが、このうち15%未満しかリサイクルされていなかった。残りは焼却、放棄、または埋め立て処分されているが、プラスチック廃棄物は海洋生態系などの環境に大きなダメージを与え続けている。
従来のバイオマスプラスチックは材料の強度を欠くことが多かったが、新バイオプラスチックは植物の廃棄から取れるセルロースやリグニンを使用することで、バイオマスに分解するプラスチックの一種だ。循環経済を促進し、地球の環境問題を緩和するのに欠かせない解決策になる可能性が期待されている。
2.ソーシャルロボット
社会的機能を発揮するロボットは、世界で増え続ける高齢者の支援や子供の教育など、社会の多くの分野での活躍を期待されている。
2019年、科学者たちは人工知能を使い、センサーを介して受信した情報を選別して、人間そっくりに反応するロボットの制作に焦点を当てている。ソーシャルロボットは、我々の技術的未来の一部に欠かせないものになるだろう。
3.ミニデバイス用メタレンズ
今までも携帯電話、コンピュータ、電子機器など、デバイスが小さくなればなるにつれて、それに使用されるレンズも小さくなっていった。しかし従来のガラスベースのレンズは、すべての特性を保持しながら小型化するのは困難だった。
これからのメタレンズと呼ばれる小型で薄型、平らなレンズは、ガラスレンズより小さく、機能を保ちながらセンサーや医療用画像デバイスなど、さらなる軽量化・小型化を可能化を可能にする技術だ。
4.薬物標的としての無秩序タンパク質
「本質的に無秩序なタンパク質」は、癌や神経変性疾患などを引き起こし得るタンパク質だ。従来のタンパク質とは異なり、それらは剛直な構造を欠いているので形状を変え、治療を難しくしていた。
しかしこの新研究は、治療を実施するのに十分な長さを保つ形状変化を防ぐ方法を見出しており、さらなる研究により、患者に新しい可能性を提供するだろう。
5.より「スマートな」肥料
世界の人口増加に対する食糧危機が叫ばれて久しい。徐放性肥料は、物質をいつ放出するかを「知っている」肥料の一種で、現況では、気候や土壌の種類に基づいて、ゆっくり栄養素を解放するという肥料を開発していたが、それらにはまだ環境を損なうアンモニアや尿素、カリを含んでいた。
新しい肥料は、より環境にやさしい窒素源と、植物による吸収を向上させる微生物を使用している。持続可能な農業をめぐって、大きな戦略の一部となる。
6.共同テレプレゼンス
今日の会議や会話の多くは、すでにビデオ会議やソーシャルプラットフォームによって仲介されているが、新技術は、拡張現実(AR)またはバーチャルリアリティ(VR)や5Gネットワーク、アバターなどの組み合わせ技術により、ユーザーが遠隔地でも存在を「シミュレート」できる。
これによって、他の出席者と同じ部屋にいるように感じるだけでなく、遠隔地にいる人同士も物理的に握手をでき、医療関係者も同じ部屋にいるかのように遠隔治療操作できる。
7.高度な食品追跡と包装
現在毎年約6億人もの人が食中毒にかかり、原因の特定には食品製造業者や小売業者の情報追求に何週間もかかっている。それを解決する可能性が高い、ブロックチェーンは食品業界の注目技術だ。
ブロックチェーンでサプライチェーン全体の食品の進捗状況のすべての工程を透明に監視することが可能だ。追跡も数分で終了する。さらに包装内のセンサーは、食品が腐りそうになったことを示し、賞味期限に達すると無駄を減らす。
8.より安全な原子炉
原子力は地球温暖化につながる二酸化炭素を排出しないが、原子炉は燃料棒が過熱し水と混ざると水素を生成し、それが爆発する危険性がある。
しかし、この新技術では過熱する可能性がはるかに低い新しい燃料が登場していおり、この場合、水素を生成をほぼなくすことができる。しかもこの新しい構成は、わずかな修正を加えるだけで既存の燃料棒を置き換えることができるという。革新的な原子炉を建設が、クリーンエネルギー源である「原子力の復活」でもあり得る。
9.DNA基盤のデータ保存
今日のデータ保存システムは大量のエネルギーを使用しており、膨大な量、そして増え続ける量のデータ保存に追いつくことは不可能だと感じられる。しかし、新しい画期的な研究では、大容量のコンピュータハードドライブに代わる低エネルギーの代替手段として、DNAベースのデータ保存を使用している。
ヌクレオチドA、T、CとGの長鎖からなるDNAは情報記憶材料になりえるとし、推定によると、1年間の全世界のデータを1平方メートルの大きさのDNAの立方体に保存できるということだ。データはこれらの文字の連続で格納でき、DNAを新しい形の情報技術に変える。
10.再生可能エネルギーの実用的規模の貯蔵
持続可能なエネルギーとして注目される太陽光発電や風力発電はなどの再生可能エネルギーは、断続的な性質もあり、風が吹いていないときや太陽が照っていないときに、エネルギーを保存する必要がある。
これを解決するのがエネルギー貯蔵技術、特にリチウムイオン電池への関心の高まりだ。最大8時間という、太陽光発電が、消費ピークの夜の需要を満たすことを可能にする十分な長さのエネルギーを蓄えることができるバッテリーに期待がかかっている。また、リチウムイオン電池のコストが急上昇しているのに反応し、フロー電池や水素燃料電池のような長期的な代替品にも注目している。
総括して、このレポートで注目されている新技術は3つに分類されると考えられる。環境問題を緩和するバイオマスプラスチックやスマート肥料・再生可能エネルギーの貯蔵方法などの持続可能な社会への技術、ソーシャルロボットや共同テレプレゼンスなどの人と技術のつながり、そしてDNA上のデータ保存やメタレンズ、薬物標的としての無秩序タンパク質などバイオ科学の需要が牽引するミクロの分野が注目されていることが分かる。
社会的な人間型ロボットは既にサービス産業に参入しており、2025年末までに190億ドル規模の市場になると予想されている。ミクロ技術と相まって、職場や家庭環境、医療現場などに大きな変革を起こすだろう。
これらの厳選された新技術は、より持続可能で包括的な未来を築くのに役立つに違いない。しかし、忘れてはいけない同時進行している深刻な問題として、世界的な経済格差の拡大がある。
今後最も支配的な技術であるAIは、より多くの貧富格差や男女間の不均等を創り出すと、多くの専門家は懸念している。新技術を牽引する企業とその消費者は、地域社会や世界経済の問題にも積極的に意識を向けていかなければならない。
文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit)