2019年3月、「スクラム採用」を実践している企業の人事が、自社の採用活動などについてディスカッションする『Scrum Recruiting LABO』が東京にて開催された。

イベントには、メルカリ 石黒 卓弥氏、ヘイ 佐俣 奈緒子氏、HERP 庄田 一郎氏、YOUTRUST 岩崎 由夏氏が登壇し、現代に適した採用活動の形とされている「スクラム採用」というテーマのもと、トークセッションが行われた。

 

そもそもスクラム採用とは

スクラム採用とは、従来のように経営陣や人事ではなく、現場の社員が主導で取り組むタイプの採用方式で、株式会社HERPが提唱しているものだ。現場社員が採用担当となることで、仕事内容や必要とする人材要件を正確に把握できるため、人事の業務負担の削減および採用活動の効率化が期待できるという。

同イベントで示された「スクラム採用の実践状況」についての調査結果では、40%を超える企業が実践していて、50%弱の企業がこれから実践したいと回答しているという。また、「スクラム採用の結果」については、実践している企業の半数以上は成果が出ていると回答している。

庄田氏いわく、スクラム採用が行われる背景には、深刻化する人手不足や転職市場の変化が挙げられるという。

「従来、主流だった求人媒体・エージェント経由の転職にとどまらず、 リファラル採用・SNSからの応募・採用イベント経由など、採用チャネルが多様化している現在の転職市場では、人事部だけでなく社員全員が当事者意識を持ち、採用活動を行うことで採用業務効率化に繋がります。さらに、採用内定者の入社後の活躍期待値や既存社員のエンゲージメント向上も期待できます」

また、スタートアップ数社で採用担当の経験がある岩崎氏は、優秀な人材ほど転職活動の方法が変わってきていることを肌で感じているという。

「優秀な人材ほど、現職中に知人に誘われ面接を受ける『リファラル採用』をとおして転職する傾向があります。なので、現在の転職活動においては、転職活動前に勝負がついてしまっていると言っても過言ではありません。しかし、人事が会える人は限られており、リファラル採用における“知人”という役を人事がすべて担うというのは困難です。また、人事の採用活動だけでは、転職潜在層の優秀な人たちに会えないのが現実です」


写真左:YOUTRUST 岩崎 由夏氏、右:HERP 庄田 一郎氏

転職方法の多様化により転職市場に出る前に、優秀な人材がリクルーティングされてしまう傾向の中で、「スクラム採用」を実践している2社はどのようにして人材を獲得しているのか。参加者から事前に募った質問をベースに質問形式でトークセッションが行われた。

 

スクラム採用を実践する2社によるトークセッション

以下より、事前に募った質問案に対しての回答を一部紹介する。

Q1:なぜスクラム採用を始めたのか、背景や考え方を聞きたいです


写真左:メルカリ 石黒 卓弥氏、右:ヘイ 佐俣 奈緒子氏

石黒氏:“唯一にして最重要の活動”だから

「私がメルカリに入った時から、すでにそのようなカルチャーになっていて、今もそれをキープしています。リファラル採用の割合としては当時と比べると若干下がってるかもしれませんが、現在50〜60%の間となっています。

私たちの業種は製造業などと異なり人材が事業成長における核となるため、その源泉である採用という部分にリソースをかけるのはある意味当たり前のことだと考えています」

佐俣氏:誰と一緒にはたらくのかを自分で決められるのが楽しいから

「スタートアップの何がいいかと考えた時に、一緒に働く人を決めれる楽しさがあると考え、逆に入った人にとっては、誰と働けるか顔が見えるというところが根底にあります。

もう一つは、昨年一年間100人取ろうと思っていたんですが、この量の仕事を限られた人事でやると回らない。そうなった時に、会社全体でやったほうが効率的だと考えました。

私たちの場合は、一緒に働きたい友人・知人の紹介の方が選考通過率がよく、スクラム採用をした方が、自分たちの事業目標に早く到達できると自社のデータをみて感じました」

 

Q2:人事と現場の役割の分け方を伺いたいです

石黒:“良い意味で分かれていない。お互いがそれぞれの領域のプロフェッショナリティを発揮できる環境に”

「メルカリの場合、前職で会社を経営していた方や、人事の方がPM(プロジェクトマネージャー)として入社する場合があります。

求める人材像に沿った候補者をどのように増やせるかということについて、人事と採用広報のチームだけで悩んでいる場合がありますが、他部署のメンバーからもアイデアを募るなどすることで、人事だけで課題を抱えない方が良いこともあります」

佐俣氏:“詳細要件の洗い出しまでは現場/広報・リード獲得は人事・後は現場”

「事業計画に基づいて、達成するためにどんな人が欲しいのか、何名欲しいのか、あるいはスキルセット、性格のタイプなどの詳細要件は、現場サイドで出してもらい、そのミーティングに人事も参加して壁打ちしますが意思決定は現場に一任しています。

その後、獲得のための媒体やエージェント選定、リードの獲得は人事が、その後の面談は基本的に現場が行なっていますただ、例えばエンジニアを採用する時に他の部署が出てカルチャーフィットの確認はするようしています」

 

Q3:「全員が採用担当だ」と言ってもなかなか動きません。立ち上げる時のコツや躓きポイントを教えてください。

石黒氏:“経営陣のコミットメント&良い会社であること”

「一つ目は経営陣が採用活動にコミットしていることです。自分たちの会社の経営陣が楽しそうにツイートしたり、イベントを運営したりすることで、現場メンバーも自信が湧くと思っています。

スクラム採用には、本当に行っていいのか、誘っていいのかという不安な気持ちが当事者同士の心のどこかしらにあるわけで。自分が信じることができる経営陣と働いている、もしくは今後働けるというのはすごく大きなことなのではないかと考えています。

もう一つは、良い会社だと思えること。心の底から職場を好きだと思えないと、友人などを誘いづらいというのもあると思うんです。自分から声をかけて連れてきたところで選考に通らない可能性もありますから。なので、メンバーから純粋に会社のことが好きだと思ってもらえるように、良い会社であることを目指して注力した方がいいのではないかと思います」

佐俣氏:“採用の仕事を見える化する、かつ経営者がコミットする”

「まず経営陣がコミットすることが重要です。経営陣がコミットしない会社の場合、人事の立場で動いても難しいわけでデザイナーとか技術を経営陣に理解してもらうには、それらに理解がある経営陣と働くのがいいのと同じことで、採用や人事に興味が向いている経営陣と働くのがいいのかなと。躓きポイントは経営陣がちゃんと聞いてコミットしてくれるかどうかではないでしょうか。

また、採用の仕事って見える化しづらくて、そもそも何をしているのが採用なのかっていうのが分かりづらいんです。なので、採用の仕事を見える化し、それぞれにどのくらい時間がかかるのかとか、何をやっているのかなど、見える化して、伝えていくのも大事だと思っています」

 

取材・文:ナカダコウタ