気候変動がもたらす問題は深刻さを増す一方だ。昨今の異常気象がもたらす自然災害を目にするにつけ、とても他人事には感じられない事態になってきている。

その一方で、一刻の猶予も許されないといわれながら、学校での気候変動教育は遅々として進まず、「今すぐ手立てを講じるべき」と若い世代に訴えられても、情けないことに一般の大人は手も足も出ない。

今、「何から手をつけたらいいの?」という疑問を持つ私たちを導いてくれる場所が、世界で続々と誕生している。気候変動に特化した博物館やテーマパークだ。最新テクノロジーを取り入れているところも多く、どこも「お堅い学びの場」という雰囲気はない。

お出かけスポットとして、家族そろってこうした施設を訪れ、皆でしっかり気候変動に向き合ってみれば、各世代で何ができるかが見えてき、また親子の絆も強まるのではないだろうか。

見かけはメルヘンの世界でも、メッセージは辛口


フランスの「デュフィプラネット」では、妖精に導かれて、家族そろって冒険へ
© DefiPlanet


世界的にも珍しい、気候変動を取り上げたテーマパークがフランスのオーヴェルニュ地方にある。メインテーマは「気候変動」。ライドなどがあるわけではないが、「デュフィプラネット」は家族連れを中心に毎年13万人が訪れる。

2011年にオープンし、東京ディズニーランドの半分ほどの敷地があり、2つのエリアで構成されている。

1つ目は、昔ながらの生活を再現したエリアだ。ビジターは5つの村を巡りながら、自然の恵みを受け、ニワトリや馬などの家畜の世話をし、季節に応じて農作業などをしていた頃の暮らしを経験する。平和でのんびりした雰囲気ながら、気候変動でこうした生活がどのような危機にさらされているかも同時に解説されている。

次に待ち受けるエリアは森。ここでいよいよビジターは地球を守るための冒険に出発する。森に住む妖精が物語や歌にして、自然保護の方法を教えてくれる。そこここに配置されている小型のコンピュータスクリーンから出題される、環境に関する雑学クイズに答えながら進む。自分自身の生活についても尋ねられることがあり、自省の良い機会になる。

約4時間かかる冒険は誰にとっても興味深いものだ。とはいえ、ビジターは要所要所で森の住人たちから警告や批判を受けることを覚悟しなくてはならない。

「自然災害に注意しろ」「地球の命はもうわずか」「地球を病気にしたのは人間だ」と指摘される。おとぎ話の世界が展開されながらも、メッセージはとても現実味を帯びている。


5つの気候帯に属する9つの町を巡る


各気候帯が再現されている、ドイツの「クリマハウス・ブレーマーハーフェン」。気温30度以上のサモアのエリアでは、白砂のビーチとヤシの木が待ち受ける
© Marcus Meyer

天気や気候に焦点を当てた観光スポットを造ろうと構想を練り、約10年後の2009年にオープンした博物館が、ドイツのブレーメン州にある「クリマハウス・ブレーマーハーフェン」だ。

1万2,000平方メートルの館内の約半分を占める「ザ・ジャーニー」と呼ばれる展示エリアで、ビジターは5つの気候帯に属する9つの町を「旅」する。各町独特の気温や湿度、空気の匂いを実際に体験しつつ、気候と生活の関わり、生息する動物の種類、気候変動による影響を学ぶ。

さらに、地球と気候変動の歴史を踏まえ、研究者が発見した事実などを紹介しながら、近い将来、気候変動によりどのような現象が起こり得るかを予測する展示室、「パースペクティブス」へ。

また「ワールド・フューチャー・ラボ」ではゲームが楽しめる。各人に課せられたタスクを、計画を練り、工夫を凝らしてクリアすると、結果が3メートル近い地球に反映される。サステナブルな将来を構築するための知識を楽しみながら、身につけることができるようになっている。

極地から持ち帰った標本が物語る気候変動


「ジョッキー・クラブ・ミュージアム・オブ・クライメート・チェンジ」があるCUHK の構内では、マップを片手にエコツアーもできる


「ジョッキー・クラブ・ミュージアム・オブ・クライメート・チェンジ」は、2013年に香港中文大学(CUHK)のキャンパス内に設立された。世代を超えて香港の住人が気候変動を理解し、日常生活を改め、低炭素社会を目指すのを助けるのを狙いとしている。

4つあるうちの目玉の展示エリアは、「ポーラー・ギャラリー」だ。北極、南極、エベレスト山と3つの極地を現地調査した、香港出身の女性探検家、レベッカ・リー博士が持ち帰った貴重な標本などが展示されている。ビジターは地球温暖化の証拠ともいえる展示物を自分の目で確認できる。

「リモートセンシング&エンバイロンメンタルモニタリング」のエリアでは、ビジターは地理情報科学のアプリを用いて自主的に気候変動についてを探る。地球の周りを回る衛星から得られるデータにもアクセス可能だ。

「リサーチ&イノベーション・アット・CUHK」では、CUHKで行われている環境科学やエネルギー工学の研究結果や具体的な気候変動抑制策を紹介している。


テクノロジーやアートを取り入れ、理解を深める


近未来的なデザインを得意とするスペイン人建築家、サンティアゴ・カラトラバによる「ムゼオ・ド・アマーニャ」
© Mariordo (Mario Roberto Durán Ortiz) (CC BY-SA 4.0)

「ムゼオ・ド・アマーニャ」は、ポルトガル語で「明日の博物館」という意味。館名通り、向こう50年間、どのような世界が待ち受けているかを探ろうという趣旨だ。2015年にブラジルのリオデジャネイロにオープンした。

館内には、「宇宙」「地球」「新人世」「明日」「私たち」の5つの展示スペースが設けられている。ビジターは地球の過去と現状を踏まえ、自らが生きる「新人世」の時代を振り返る。

各所で、「人類が従来の生活を続けるには惑星が幾つ必要か」といった質問が投げかけられる。しかし、答えはそこにはない。館内を巡りながら、ビジター自身が考え出すようになっている。

限られた資源をもとに4人のプレーヤーが協力してサステナブルな世界を構築するバーチャルゲームもある。たった1つの決断が、私たちと地球の運命を左右させることを身をもって体験することができる。

各所でVRなどのテクノロジーを取り入れ、常に最新情報が反映されるよう整備されている。また著名アーティストの力を借り、美的感覚に訴えるような実験的な展示を行っているのも特徴だ。

オスロとニューヨークでも、博物館が次々と


ノルウェーのオスロに2020年オープン予定の「クリマヒューセ」では、展示室内に限らず、屋外にも学びの場を設ける予定だ/
Illustration: Lund Hagem arkitekter and Atelier Oslo

世界にはほかにも開館準備が進められている、気候変動を専門とした博物館がある。

ノルウェーはオスロの植物園内の一角に、2020年春に「クリマヒューセ」がオープンする予定になっている。気候変動問題に興味を持つ若い世代を中心とした家族連れのための展示を計画している。

長い年月をかけて自然に起こる気候の変化と、人間活動が原因でもたらされる気候への悪影響の両方についてが解説される。ほかにレクチャーや映画、討論なども行うことになっている。

屋外スペースも有効に活用する予定だ。遊びやアクティビティ、アートインスタレーションを通して、気候変動を理解してもらう。情報の発信源としてだけでなく、環境問題に興味がある人が集まるハブになることを目指す。

一方、米国ニューヨークでは、建物の建設を待っていられないと、先に活動を始めた博物館もある。「クライメート・ミュージアム」は、米東部に大きな被害をもたらしたハリケーン・サンディをきっかけに、2014年に創設された。

2017年、会場を借りて初めて行われた、写真と絵画の展覧会は、ビジターに気候変動について考えるきっかけを与えた。

2018年には展示を通じてニューヨークの活動家11人の紹介する一方で、交通用の電光掲示板を利用し、市内各所に環境問題関連のメッセージや標語を5カ国語で表示し、市民にアピールした。

現在は、世界各国で環境活動を行う若者を取り上げた展覧会を行っている。建物の建設費は現在一般からの寄付を募っているところだ。人々の関心が高い気候変動を取り上げる博物館だけに、建築費が集まるのにそう時間はかからないだろう。

気候変動を取り上げたテーマパークや博物館は、世界各所に散らばり、またアプローチ方法もいろいろだ。しかし、1つ大切な共通点がある。それは、「アクションを起こして!」というビジターへのメッセージだ。

各施設で知識を身につけたり、理解を深めたりして終わり、ではない。その先がもっと重要だと言っているのだ。こうしたテーマパークや博物館の存在意義は、ビジターに自分たちができることを考え、始めてもらうことにあるといえるだろう。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

eyecatch img:Tomaz Silva/Agência Brasil (CC BY 3.0 BR)