経済への影響力を強めるZ世代

いつの時代も年寄りは「今どきの若いモンは」的なことを言うものだが、現在社会を担っているミレニアル世代ほど好奇心と切迫感を持って様々な調査がなされた「新人類」もいなかっただろう。しかしそんな彼らを「若い世代」の代名詞として使える時代が終わりかけているらしい。

起業家精神の高いZ世代

停滞する世界に堅実でさわやかな新風を吹き込んでいたミレニアルたちを過去へと押しやる勢いで台頭しているのは、ここ数年で次々に労働市場に参入し、現在440億ドルとも推定される購買力を持って消費トレンド形成への影響を強めている「Z世代」。

定義は複数あるが、おおまかに1997年から2012年までの間に生まれた世代(つまり現在7才~22歳あたり)である彼らが持つ価値観は、せっかくおおよその実態が掴めてきたミレニアル世代ともまた異なってきているという。

考えてみれば初代ミレニアルは現在40歳近く、それに対し最後のZ世代は現在7歳。若いとばかり思っていたミレニアルも下手をすればZ世代と30年の隔たりがあり、その間に世界も色々あったわけだから、価値観も違ってきて当然である。

Z世代のキーワードは、「起業家精神」「真のデジタル・ネイティブ」「社会課題への意識」「ミレニアルよりも切迫した経済観」など。

この度世界最大の会計事務所Deloitteが発表した「グローバル・ミレニアル調査 2019」が、42か国13,416人のミレニアル世代と、10か国3,009人のZ世代を対象としたリサーチの結果を世代別にまとめているので、まずはそこから紹介したい。

なぜか若干の「揺り戻し」? 数字に見るミレニアル世代との相違

本調査ではミレニアルとZ世代の特徴が多方面から浮き彫りとなっている。

特に興味深いのは、ミレニアルの特徴としてよく指摘されていた、地に足がついていてエコへの意識が高く、モノの所有や組織への所属に興味が薄くワークライフバランスを重視する…といった、経済の停滞が続く限りこの先も深まっていくと思われた傾向の一部に、若干の「揺り戻し」が起きていることだ(蛇足ながらロスジェネの中でも特にロストした挙句地球の裏側でフリーランスをしている筆者のような中年は、上記のようなミレニアルの出現を大変歓迎していたので、ちょっと複雑な気分)。

例えば、人生において叶えたいことの優先順位。最も重視しているとされたのはミレニアル・Z世代両者とも57%と高い割合を示した「世界を旅し、目にすること」だったが、2位につけた「富を得ること」を優先する割合はミレニアルが52%、Z世代が56%と、Z世代が4ポイント高くなった。3位の「マイホーム購入」を望む率もそれぞれ49%と52%、続く「社会をよくする」が46%と47%、「子どもを持つ」が39%と45%と、伝統的に「人生の成功の条件」とされてきたこれらの項目全てで、それぞれZ世代がわずかながら高い値を示している。

「社会問題の懸念度」の項では、両世代ともに「環境問題」が29%と最も高い値を示したが、2位・3位に関してはミレニアルが「格差拡大・失業率」と続いたのに対し、Z世代は2位に「テロ」が入り、その次が「失業率」。

「911のあった1997年以降の生まれ(つまりテロのない世界を経験していないこと)」を世代の定義とされることも多いZ世代は、物心ついた頃からその後も世界各地で偶発的に起き続けては「また」というニュアンスとともに報道されるテロや学校銃撃事件のニュースを目にして育ったわけで、テロを一部の犯罪者の異常行為ではなく、恒常的な社会問題ととらえる視点を得たのだろう。

911以降、確かに世界は変わった

次に仕事観。フリーランスでギグ・エコノミー(オンラインで単発の仕事を請け負うワークスタイル)に参加することを考慮している割合は、ミレニアルで84%と高いが、Z世代では意外なことに81%と若干低い値を示している。

そしてギグ・ワーキングに関するポジティブなイメージもネガティブなイメージもZ世代の方がより少なく持っていることが示され、要するに関心が薄れているか一歩距離を置いている印象を受ける。ワーク・ライフバランスを重視する割合もミレニアルよりも低くなっていると指摘され、ここでも安定重視・仕事重視への揺り戻しが透けて見える。

逆に両世代ともほぼ差異のない傾向を示したのは、その仕事で稼いだお金の使い方である消費行動。両世代総合で42%が「社会や環境に良い影響を与えている会社のものを買う」と回答し、37%が「倫理的でないと感じる企業の製品は避ける」と答えている。

レポートが「若い世代は財布で意見を述べる」と表現しているように、企業はビジネスのおまけの善行としてではなく、あくまでビジネスそのもののためにも自社の倫理観や社会への貢献を消費者に示し続ける必要がある時代になりつつあることが明らかになっている。

そしてZ世代が「真のデジタル・ネイティブ」と呼ばれる所以でもあり、幼いころからのスマホやタブレットの利用とセットで語られる、ソーシャルメディアの利用に関しても面白いデータが出ている。

55%がソーシャルメディアの利用には「利より害の方が大きい」、そして60%前後が「利用をやめた方が心身の健康によい」と答えたのに反し、「利用を完全にやめたい」と述べたのはミレニアルが41%、Z世代が38%とちょっと矛盾しており、「良くないと分かってはいるが手放すことはできない」傾向をZ世代がより高く示している。

レポートはまた、総合で半数が「ネット上の個人情報の保護には改善が必要だ」と考えていること、79%がデジタル詐欺の被害にあう恐れを抱いていることなども踏まえ、ソーシャルメディアの依存性を指摘した上で「ミレニアルとZ世代が、デジタル機器やソーシャルメディアと独特の愛憎関係にある背景にはそれなりの理由がある」としている。

最後に、ビジネス・環境・経済・社会など諸々ひっくるめた未来への楽観度は、100を満点としてミレニアルが39、Z世代が40だそうである。1ポイントの差は誤差か、世界が改善している表れか、それとも新しい世代がしたたかになっているのか―。

ミレニアルとZ世代の違いの背景は

古い世代から見れば同じように見えるミレニアルとZ世代に、こうした違いが生まれた背景にはどんな要素があるのか。

ミレニアル・Z世代研究の第一人者であるアメリカ人コンサルタントRyan Jenkins氏は、Z世代を形成した大きな要素を主に4つ挙げている。

第一に、彼らを育てた親世代の価値観。まっすぐな経済成長を疑うことなく伝統的な価値観を持つベビーブーマーに育てられたミレニアルと違い、Z世代は彼らを育てた親自身がX世代、つまり経済の隆盛と衰退の両方を経験している層である。

Z世代の親たちは「ドローン・ペアレント」として、距離を持って子どもたちを見守り、彼らが厳しい経済状況の中生きていけるように、強く安定した生き方を教え、現実的に生きていくためにはどれくらい働かなければならないかを教え込んだ。

第二に、長引く景気後退。62%のZ世代は世界的に経済状況が良好だった時代の記憶がないとのこと。彼らのほとんどは身の回りで会社が倒産し、産業が縮小し、人が失業する景色だけを見て育ったわけで、人生に対して気を引き締める必要があったのだろう。実際、Z世代の77%が「自分たちは過去のどの世代よりも多く働かなければならないだろう」と考えているという。

経済がストップするのを目の当たりにし、社会的な成功と富を追うことを捨て、自身の人生の充実に目を向けたミレニアル世代よりもさらに一歩進んで、「生きるためには働かなければならない」という厳しい現実の中を生きるZ世代の姿が見える。

第三に、IT技術の発展により世界とつながり、様々な価値観や情報を学び、行動を起こすことが格段に容易になった時代に育ったことにより、Z世代はフットワークが軽く、自由な発想ができ、声を発信したり複雑な問題にソリューションをもたらすことを当然のことと考えること。ミレニアルよりも野心的な起業家精神はここから来ているのかもしれない。

「真のデジタルネイティブ」

最後は、ミレニアルの背中を見て育ったこと。すぐ上の世代である彼らが徹底的に調査・分析されたことにより、Z世代は自分たちがすべきこと、避けるべきことを熟知している。

生きがいとなる仕事を自分で探すこと、起業家になること、生涯学習の重要性などを理解し、逆に対人関係を疎かにすることやソーシャルメディアの情報操作に踊らされること、そして何より多額の学生ローンを背負うことなどに警戒しているのは、全て彼らの先輩であるミレニアルを時には教師、時には反面教師として学んだ結果であるという。

経済の停滞を人生の前提として受け止め、価値観の多様性に触れて育ち、働き者で倫理観の強いZ世代。いまだロストな世代の私はちょっと置いてきぼりを食らった気分だが、こうしてみると彼らが組み立てていく未来は明るそうな気がする。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit