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サブスクリプションモデルのサービス(以下、サブスク)が生活に浸透しつつある。もっとも身近なサブスクとしてはAmazonプライムやゼロ年代にスタートしたニコニコ動画のプレミアム会員などがその一例である。
そのサブスクは、売り手・買い手双方にとって、ベーシックインカムになりうるのではないだろうか。サブスクが(若年層の)市民生活に浸透した後は、社会にどう反映されるのであろうか。おそらくベーシックインカムになりうる、そんな仮説を持って、今回は衣食住のサブスクに注目して取り上げる。
サブスクブームは、Amazonからやってきた?
定額課金という仕組みを根付かせたのは、Amazonだったと考えられる。Amazonは膨大な利用者を背景にプライムサービスを提供し、送料が無料になるという経済性や、翌日に届くという利便性、400円(当時)という低価格で、インターネット上にサブスクの文化を広げた。
それまで「買い切り」が多かったインターネット上のサービスにおいて、これは転換点となった。まず、定額課金は、サービス供給者に定額の売上をもたらす。月額×課金者=売上額となり、月初にまとまったお金が入ってくることは、何かと心強いことだろう。ベーシックインカムとのからみでいえば、サービス供給者側にとっての固定収入だったのだ。
さらには、ミニマリズム、断捨離ブームも関係しているだろう。ミレニアル世代は、会社員である限りは可処分所得がそれほど多くない。さらには社会が複雑化し、コントロールしづらいので、せめて家の中だけは管理したいという欲求が、こうしたミニマル化を後押ししていると考えられる。
そこで、モノに執着しないスタイルとしてサブスクが徐々と浸透しつつあるのではないだろうか。
一方で、ベーシックインカム思想である。定額を支払えば、衣食住が保証される。まだ早いと思われるかもしれない。しかし、ミニマリズムを思想的背景に持つサブスクは、確実にミレニアル世代に浸透している。また、人生100年といわれ、年金破綻もいわれる中、長期のリスクヘッジとしてのベーシックインカム思想も浮き彫りになってくる。
衣食住の観点から見るサブスク事例
では、実際にどのようなベーシックインカムになりうるサブスクがあるのだろうか。生活の基盤となる「衣食住」の観点から事例をみていこう。
【食】 個人商店がメインの食のサブスク“Reduce Go”
まず食から。Reduce Goは、月額1,980円で1日2回まで廃棄食品を受け取れるという仕組みだ。都内に住んでいたらかなり便利になるだろう。ただし、交通費は自己負担であり、アプリは紹介をマッチングするものだ。
利用する側のメリットは、格安であちこちのお店の廃棄とマッチングでき、自分で選ぶこともできるので、外食を楽しみたい、でも予算もかけたくないという方にぴったりだ。
食品を提供する側は、基本的に個人商店がメインとなる。少し趣は違うが、ある種、格安で食べ歩きができるようなもので、食費を安く抑えることができるだろう。それに、アプリを通じて露出が増えるので、集客効果もあると考えられる。
食のサブスクリプションは、誰しもが思い浮かぶところではないだろうか。定額食べ放題、さらには食品廃棄ロスを防ぐという社会的意義もある。
ただ、気をつけたいところが、まだまだ現状では首都圏に限られ、しかも加盟店は個人店がほとんどだということだ。大手飲食チェーンは見られない。その理由として、大手が廃棄食品を配りだすと、「ブランドイメージに影響」が生じ、食中毒などの「消費者へのリスク」が存在すると、NHKの取材に対して外食大手は答えている。
食のサブスクは、そうした社会の問題をまざまざと浮き彫りにする。
【衣】 成功事例としてのメチャカリ
ファッションレンタルの『メチャカリ』は、会員数が1万3,000人を超え、成功を収めているうちのひとつだ。同社の特徴は新品を貸してくれることで、値段は月額5,800円。
Reduce Goの3倍近い価格だが、その価値はあると考えられる。なぜなら、洋服という、保管場所をとり、選定にも購入にも時間がかかるアイテムを、サブスクで借りられるのだ。しかも、同社のメチャカリは、新品の服が届くという。
「いろいろな服を着たい」というニーズに対して、月5,800円は消費者から見ると妥当な値段ではないだろうか。服は自分を表現する手段でもあるため、バリエーションが豊富なほど、センスも磨かれ、いつも違う自分でいられるため、とくに女性は多くの服を来たがるからだ。ただ、それが「所有」という形ではなく「サブスク」で実現されるのが興味深い。
借りられるのは、「earth music&ecology」「E hyphen world gallery」など、若い世代をターゲットとし、雑誌やメディアで取り上げられることもあるブランドだ。
1回に3点まで。そして月内の借りられる数に上限はないので、生活リズムに借り入れと返却を取り込めれば、上手に着回しできるというメリットがある。
【住】珍しいマンションサブスクの笹塚テラス
最後に、住のサブスクをみていこう。食と衣のサブスクは、サービスが人に合わせるという仕組みだった。しかし、住においては今もなお、人が箱に合わせるというスタイルが一般的だ。
サービスとしては、リッチな空間でありながらも、ローカルのよさを実感してもらうための、住のサブスクだ。家賃にさまざまな費用が含まれる代わりに、賃貸を借りる際のめんどうな手続きがほとんどカットされている。入退去に煩雑な審査も必要なく、気軽に借りて気軽に滞在できる。
『笹塚テラス』は中長期滞在用で、ホテルに暮らすのとはまた違った、地域密着型の趣がある。
笹塚テラスは、笹塚という新宿と渋谷から一定の距離がありながらも、都心部にアクセスが良好で、なおかつ地元商店が残る土地に存在する。地元での消費を狙った中長期的な滞在を前提としている。
現状はあくまでインバウンド需要を狙ったもので、外国人観光客が「暮らすように宿泊する」がコンセプトだ。ただ、このコンセプトはミニマリズムやノマドワーカーのライフスタイルと非常に相性が良いため、インターネットで仕事をしながら国内を旅して暮らし、東京の滞在にちょうどいいだろう。
サブスクはベーシックインカムになり得るか?
サブスクは衣食住の保証として大いに有り得る。コンパクトライフと相性が良いためだ。ただ、その背景には、日本の整ったインフラが欠かせない。たとえば、食のサブスクアプリを立ち上げて、夕方に3つ先の駅で美味しそうなお弁当が配布されていたとしても、電車が止まっていたらどうしようもないからだ。
同様のことは衣にも当てはまり、人手不足で物流が停滞していたら、欲しいときに着たい服が手に入らないという事態に陥ってしまう。
つまり、サブスクは高度にインフラが敷設された現代だからこそ成り立つ仕組みだ。まだ完全にサブスクに切り替えるのは時期尚早かもしれないが、そう遠くない未来だろう。
今回は衣食住のサブスクをみてきた。
インフラが十分に発展しきった国であるからこそ、サブスクモデルは成立するのかもしれない。あらゆる郵送物が定時に届き、公共交通機関が定刻に着く日本のインフラに乗る形で、サブスクは勢いを増している。
これが、東京都の都心部という限定的なブームなのか、それとも地方都市に波及して大きなムーブメントとなるのかはまだ見えてこない。しかし、Amazonプライムをきっかけとして日本に浸透したサブスクが、いま衣食住や生活そのものを飲み込む日は近いかもしれない。
文:渡邊幸子