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いま、タピオカミルクティーがアツい。タピオカミルクティーを販売する店の前には、連日10代〜20代の女性が長い行列をなし、そこに何十分も並んでやっと1杯のドリンクを買う。都内ではもはやそういった光景も珍しくなくなった。
様々なティーブランドが群雄割拠するまさに戦国時代の中でも、特に存在感を現してるのがGong cha(以下、ゴンチャ)だ。
ゴンチャは2006年に台湾で誕生し、2015年に日本へ上陸した台湾ティーカフェブランド。
タピオカブームの中心的存在でありながら同社は、「ブームはたまたま起こっているもの」と話す。
ゴンチャが実現したい、日本での台湾ティーカフェスタイル定着とは何か。
今回は、タピオカミルクティーが人々から愛される理由や同社が目指すビジョンについて、株式会社ゴンチャ ジャパン社長兼COOである葛目 良輔氏(以下、葛目)からお話を伺った。
世界で成長してきた台湾ティーブランド
ーまずは、なぜゴンチャが日本市場へ進出したのか?その経緯を教えてください。
葛目:ゴンチャは台湾国内で成長したブランドではなく、海外で店舗網を広げることでブランディングを図り急成長したブランドです。東アジアからオーストラリア、アメリカへと店舗を広げながら、韓国へと進出しました。
韓国はカフェ大国です。日本より狭い国土でありながら、スターバックスさんの店舗は日本と同じ数があります。その韓国で、ゴンチャはクオリティとスタイリッシュさが支持されました。そして韓国での成功を受けて、日本での成功を確信し、2015年に参入しました。
数ある台湾のタピオカブランドの中でゴンチャは、比較的新しいブランドになります。すでに日本に上陸していた春水堂(チュンスイタン)さんが持つような、「パイオニア」「タピオカミルクティー発祥」といった肩書きはありません。だからこそ、他とは違うブランディングが必要でした。
そこで、お茶のクオリティとスタイリッシュなデザインを工夫したところ、世界中で支持された、という経緯があります。
2015年日本に上陸当初のゴンチャの様相はというと、今のブームとは比べものにならないぐらい、静かなスタートでした。オープン当日に200名ほどが列をなしましたが、そのお客様のほとんどが台湾や韓国ですでにゴンチャのファンになったコアな客層でしたね。
タピオカブームは意図的なものではない
ー昨今の日本でのタピオカブームについてどのように思われますか?
葛目:まずお伝えしたいことは、私たちはタピオカのお店ではありません。今までも自分たちのことをタピオカ店とは、1度も言ったことはありません。タピオカブームを作っている自負も、ましてや、意図的にブームを狙ったマーケティングもしていません。
今のタピオカブームは色んな要素が重なってできたもので、その要素に私たちが絡んでいるのは認識しています。が、意図しているわけではありません。
ゴンチャジャパン上陸のベースには、若者の台湾文化、韓国文化との距離感があります。台湾と韓国のグルメやファッションは、日本に近いものがあります。もしかしたら、日本の若者にとっては、日本のそれ以上に格好よく映るのかもしれません。そうなったのは、ここ5年の話です。
重なるように、日本のカフェ文化の様相が変わリ始めたのも、同じくここ5年くらいのことです。
カフェ文化の変化とゴンチャの上陸、そしてタピオカブーム
ー日本のカフェ市場にも大きな変化があったと。
葛目:日本のカフェ文化は、ここ5年で急激に変化しました。美味しいコンビニコーヒーの出現やスターバックスブーム、さらにコーヒーのサードウェイブといったものの出現が然りです。さらには、カフェ文化の変化は、カフェを利用する客層の変化をももたらしました。
つまり、「コーヒーは苦手だけどカフェは好き」という方の出現です。
タピオカブームに関して言えば、過去にもありました。ゴンチャが生まれる以前の90年代ですが、原宿で若者がクレープと一緒に飲んだり、郊外のショッピングモールで見かける程度の、クオリティが低く細々としたものでした。
私たちはそれらとは異なり、カフェ市場における時代の流れのなか、「コーヒーは苦手だけどカフェは好き」という女性を中心に、タピオカミルクティーを含んだお茶を提供するティーカフェという今までにないアプローチをすることにしたのです。
タピオカミルクティーに関しては、春水堂さんがすでに日本で店舗展開をしていたため、流れとまではなってはいませんでした。そこで、私たちは少し異なったアプローチをしてみることにしました。カフェマーケットの中のユニークなティー専門店として、です。
作りたいのは「ブーム」ではなく「スタイル」
ーゴンチャは何を実現しようとしているのでしょうか。
葛目:ゴンチャには、作りたいスタイルがあります。それは、美味しいお茶を格式張らずに楽しみながらスタイリッシュに、コーヒー嫌いが飲みたくなるような雰囲気と場所を提供する、ということです。
ゴンチャの本質は「ティー×カフェ」です。ですのでタピオカはオプションの一つにすぎません。
ただ、タピオカ専門店ではないとはいえ、タピオカ自体の品質にもこだわっています。台湾から直輸入して、お店で丁寧に仕込んで提供しています。お茶の抽出も大切にしているところです。温かいお茶を注文を受けてから急速に冷やしてから、冷たい商品をご提供しています。
そういった、台湾で大事にされている本格的な台湾ティースタイルも提供したい、と思ってやっています。
また、ゴンチャでは豊富にカスタマイズできることも、多くの方に選ばれている理由だと思います。4種類の美味しいお茶をベースに2,000種類ものカスタマイズが可能になります。
カスタマイズすると、提供するまでに時間がかかるので、お仕着せの商品にしてしまえば今よりも早いスピードで提供できるはずです。しかし、それでは、私たちのコアのコンセプトに合わないのです。
オールインティーがゴンチャの哲学
ーゴンチャのスタイルをどのように伝えようとしていますか?
葛目:ゴンチャのスタイルを押しつけがましく、能動的には伝えようとはしていません。なぜなら、お客様がどう思ってくれているか?ということに、価値があるからです。
我々は「オールインティー」、つまり、全てのことはこの1杯のお茶に現れる、という哲学のもとにあります。その哲学を500円前後の値段で体験していただける、そんな体験ビジネスをやっています。「お店にいくことで何かあるんじゃないか?」とわくわくしてもらえる、そんな工夫をしています。
だからこそ、押しつけることなく、欲しいと思ってもらえるメッセージの伝え方を大切にします。そのために必ず必要なことは、「美味しい」を提供することであり、その上で美味しいと感じてもらえる「サービス」を提供することです。
こういったスタイルによって、上陸から4年たった今でも、お客様の数は増え続けているという訳です。ちなみに、お客様の半分はリピーターです。数あるブランドの中から、「ゴンチャがいい」と選んで頂けている、と感じています。
多くのお客様に支持され続けるための独自性と成功要因
ービジネス的な側面からでの成功要因について教えてください。
葛目:1つ目は「ポジショニング」です。つまり、「タピオカ屋ではない、ティーを使ったカフェ業態をカフェ好きの20代女性を中心に提供する、ユニークなティーブランド」というポジションを絶対にぶれさせないことです。
2つ目は、そのポジションに則った「店舗展開」です。実際に、1店舗目の出店は原宿の路地から始まりました。「コーヒーの苦手なスタバ好きがゆったりと過ごせる場所」という狙いがありました。表参道メイン通りや、竹下通りのような非日常の場所にはつくらなかったのもそのためです。2店舗目は阿佐ヶ谷に出店しました。そこは、日常的で自宅に近く駅前ということから、「デイリーティープレイス」というコーポレーションビジョンに則った狙いがあります。
しかし、当時は成功する自信がありませんでした。やってみないと分からない状態でしたが、こうありたいという思いが成功につながり、幅広い客層と継続した来客に繋がっています。
そして、3つ目は「オペレーション力」です。つまり店舗での実行力です。
ガチガチの店舗マニュアルではなく、しかし、こうありたい!という方向性をしっかり持つことで、お客様がお店でゴンチャブランドを感じられるようになっています。これには、通常の競合店には見られない位のエネルギーを注いでいます。
スタッフの人数は、他店に比べてあり得ないくらい多いはずです。よく聞かれるのが、「こんな人不足の状況下でよくここまでスタッフを集められますね」と。私たちのゴンチャには、たくさんのゴンチャラバーズが応募してくれます。新店舗スタッフを募集すると、3桁の応募を頂きます。
これらが、継続的にお客様にご来店いただいている理由だと思っています。言い換えると、店舗拡大とともにオペレーションのクオリティを担保していく必要があるとも思っています。
クオリティーの低い商品が当たり前になって欲しくない
ーいま感じられている困難などはありますか?
葛目:困難とは違いますが、タピオカブームとして扱われることに戸惑いを感じています。ブームとは距離を置かないと、やりたい事ができる環境にならないと思うからです。
私たちはブームではなく、台湾ティーというスタイルを定着させ根付かせたいと思っています。新しいタピオカ専門店が今もどんどん出てきていますが、本気で台湾ティーカフェスタイルを根付かせていきたい方々でしたら、新規参入は大歓迎です。
ですが、ブームに乗ってクオリティの低い商品を提供する、といった流れにはなって欲しくないんです。そういった事態が、かつての第一次タピオカブームを終わらせてしまったのではないかと考えています。
ー日本において、目指すべき台湾ティーカフェスタイルはどのような状態になるのが理想だとお考えですか。
葛目:それは測り方が中々難しいことですが・・・。交わる言葉や目に見える画だったりもしますが、私たちが「スタイルになった」と決める事ではなくて、世の中が決めることなのかなと思います。
ビジネス街でOLの方がランチ後にゴンチャのカップを持って仕事場に戻る姿が一般的になるとか。あるいは、「タピオカは若い女性の飲み物だ」といった気恥ずかしさがなくなって、年齢や性別に関係なく、幅広い客層に利用してもらうことだったりもします。
もしくは、「タピオカ」「タピる」という言葉があまり使われなくなって、「ゴンチャに行く」「台湾ティーカフェ」という言葉が日常的に使われることだったりでしょうか。さらに、枕詞の「台湾」がなくなって、「ティーカフェに行く」という言葉と行動が一般的になったら、スタイルになったと言える、と思います。
私達が「台湾ティー」にしたのも、台湾茶だとオーセンティックな茶文化を意識させてしまいます。なのであえて「台湾ティーカフェ」とすることに決めて、台湾生まれの美味しいティーを使ったカフェスタイルを意味しました。
スタイルを定着させるためには、今の30店舗ほどの規模では難しいのが現実です。200店舗300店舗ともなれば、そもそも目に付いて日常になります。ただし、私たちは、生活に根付いたブランドになるために、規模を満たすという考え方です。あくまで、規模拡大は目的のための手段にすぎません。
厳密な行動の基準がない分、サービスがばらつきやすくなります。店舗展開とともにオペレーションの担保が難しくなるはずです。個別化と標準化のバランスは難しく、その二つのバランスをとりながら、今後の店舗展開をすすめることが必要になると思います。
ーお客様が分かってくれる、スタッフも自分たちも信じている、信頼し合っているように感じました。
葛目:それを教えてくれたのは、お客様だったりスタッフの声です。
時に、私も列に並んでお客様の生の声を聞くようにしています。「お客様はこんな事を期待している」「こんなことは伝わっていないな」ということが分かってきますし、スタッフの「楽しい」という声も聞こえてきます。
時に、「やっぱりタピオカ屋なんだな」と愕然となることもありますが、勇気づけられることだってあります。だからこそ、私たちはお客様とスタッフ、どちらもハッピーになれる流れを作り続けていきたいです。
目指すのはお客様のデイリーティープレイス
ー今後の展望を教えてください。
葛目:私達がやろうとしていることは、「日常的に美味しい台湾ティーが気軽に楽しめる」ことです。それは地味で堅実ですが、そこから得られる結果の世界は壮大だと思います。そんな世界を、地に足を付けてしっかりやっていきたいんです。
そのための戦略は、「ちょっとしたワクワクがあるデイリーブランド」であり「派手ではないしフォトジェニックではないけど美味しい」です。また、「お客様にどれだけ、私たちのポジショニングと思いをしっかり伝えられる商品を提供し、商品を通じた会話と体験価値を提供すること」に限ります。そして、「一店舗一店舗、一杯一杯に今まで以上にこだわること」を、店舗拡大してもいかに全ての店舗で提供し続けるか、です。
これらは、ブームと相反するかなり地味な戦略です。大きなチャレンジやとんでもない隠し球はありません。だからこそ、ブームではなくスタイルになって、毎日足を運んで頂けるのではないでしょうか。
取材・文・撮影/花岡カヲル