あなたの手の中にある豊かな「金鉱」

ちょっと耳寄りな話なので聞いてほしいのだが、今、通常の鉱山の100倍の金含有率を誇る巨大な規模の「金鉱」が、発掘してくれる人をじりじりしながら待っている。なんなら金の他に銀や銅も埋まっている。

どこにあるかは…ちょっと複雑だが、その一部は確実に今、あなたの手の中か、遠くてもせいぜい目の前にある。そしてどれくらいじりじりしているかというと、国連がその破壊力と成長の勢いを「津波」と呼んで世界に認識を促すくらいひっ迫している。


ざっくざくだ

緊急性を増すEウェイストの課題

勘のいい方はお気づきだろうが、この「金鉱」とは「都市鉱山」とも呼ばれるEウェイスト。近年の急速な技術革新とコストの削減によりアクセスが劇的に容易になった分、廃棄量もうなぎ上りの電化製品のゴミのことだ。現代の先進国では電化製品は「壊れたから」ではなく「新型がほしいから」投棄されるものになってきており、そのライフサイクルの加速もEウェイストの増加のスピードに加担している。

結論から先に行ってしまうとこのEウェイストは、主に二つの理由において早急な対応が求められている。第一に不適切な処理がなされることにより環境や健康に悪影響を及ぼしていること、第二に適正に取り組まれ循環経済が築かれた場合の経済効果が、無視できない大きさであることが見込まれていることである。

世界的な環境と経済を巡る課題をブーム扱いするのもおかしな話ではあるが、2018年にもっとも喫緊の環境問題のひとつと言われたプラスチック汚染に代わり、2019年のホットイシューとなる(べきである)という指摘もされている。


これが「金鉱」…

深刻な環境破壊と健康被害の原因としてのEウェイスト

Eウェイストは10年以上前から国際的な懸念事項ではあった。

国連環境計画(UNEP)は2009年の時点で、年間4,000万トンずつ排出されていたE-ウェイストが「2020年までにインド・中国・南アフリカなどで2007年比で4~500%増に達する」と予想。また当時既に金や銅などの貴金属を取り出すために、カドミウムや水銀などの有害物質が含まれることも多いEウェイストを不法に焼却している廃品回収業者が多くいたこと、またアメリカなどの先進国がインドネシアなどの「脆弱な立場にある」途上国にEウェイストを不法に投棄していた状況を鑑み、「Eウェイストを資産に変えるために、国内外のポリシーと新しいテクノロジーの導入を積極的に検討すべきである」とも警告していた。

10年後の現時点で後述のような取り組みは各地で始まっているものの、なお年間5,000万トンのEウェイストが新たに生み出され続けている。そのうち適切に処理されているのは多く見積もって20%足らずであるといい、残りの80%余りがどう処理されているかについての正確な追跡データはほとんどないのが実情だ。

バーゼル条約など有害廃棄物の国外越境を規制する国際的枠組みにより、表立ってEウェイストが途上国に廃棄されるケースは少ないものの、多くの場合は再利用を目的とした「リユース品」として中国や東南アジア諸国に「輸出」され、再利用が可能なものが選別されたり、そうでないものから一部の有用な部品や金属が抜き取られた後、最終的にはアフリカに行きつき、そこで深刻な環境汚染の原因となっているという。
 
例えば、そういった最終段階が近づいた廃棄物の処理のメッカとなっているアフリカはガーナ・アクラ郊外のAgbogbloshieという町では、世界中の先進国で用済みとなった電化製品を業界で「黒いオタク」と呼ばれる非正規エンジニアたちが修理・販売する一方、子どもや若者がわずかな金属を手にするために再利用できない電化製品のプラスチックを日々何百キロと燃やしている。

調査によると汚染は大気のみならず農地の土壌にも及び、現地の住人の血液や母乳から鉛やポリ塩化ビフェニルなどの有害物質が検出されている。かつて緑豊かだった町は今や荒廃したプラスチックの墓場と化しているという。

ちなみに2001年にいわゆる「家電リサイクル法」が施行されて電化製品の投棄がままならなくなった日本も、もちろん例外ではなくこの流れの一端を担っている。

625億ドル相当の資源と雇用の創出

世界経済フォーラムは今年の年次総会で、拡大を続けるEウェイストの問題を俎上に載せている。SDGs(持続可能な開発目標)に関連する課題として「よりデジタルでつながりのある世界は、世界をSDGsの実現に向かって前進させ、新興国に今までになかった機会をもたらす」と電子機器普及の大きな意義に触れつつも、「電子機器に対する人類の飽くなき需要は一方で、世界で最も急成長している廃棄物の潮流を生み出している」と警告し、「Eウェイストは大きな問題であると同時に、金のチャンスでもある」と現状をまとめた。

この問題に立ち向かうために国連は昨年、国際電気通信連合・国際労働機関・国連環境計画などを含むEウェイスト連合を組織し、この領域に新しい循環ビジョンを求める共同報告書を発表した。彼らの最新のレポートによれば、世界で使用済みとなっている機器の物質的価値は、総計625億ドル。これは世界の銀鉱山の年間生産量の3倍にあたり、世界にはGDPがそれより低い国も120以上あるという。

この「鉱山」の価値は効率性にもある。例えば1トンの携帯電話には、1トンの金鉱よりも100倍多い割合で金が含まれており、「発掘」するのに排出するCO2の量も実質的に少ない。

そして銀や銅など他のレアメタルも同時に採掘できる。このまま行くと2050年までに年間廃棄量が現在の2倍以上の1億2,000万トンになるといわれるEウェイストは、適切な循環経済を構築することができれば、希少な鉱物や金属を無駄な埋め立てからサルベージし、クリーンな仕事で雇用を創出し、人々の健康や環境への悪影響をストップさせることができる可能性を秘めた巨大鉱山なのだ。

世界における取り組み

世界経済フォーラムはまた、「解決策は既に明白であり、今はそれをいかに効果的に実行するかが問題である」と述べ、第一のソリューションとして「電子廃棄物管理戦略」と「環境基準」の改善を挙げている。

そして「世界が手を組み、廃棄物を減らすことができれば、その効果はデバイスの再利用に留まらず、サステイナブルな産業、新しい雇用、経済活動、教育および貿易を生み出す」ことを前提に、最近登場したデバイスのリースモデルなどを例に「エレクトロニクス産業全体が物質主義を卒業する時だ」と提案。製品の企画や製造関係者から消費者に至るまで、また社会全体を巻き込んで「買って、使って、捨てる」直線的な消費モデルを大胆に変革していくべき時が来ていると主張する。

挑戦は世界各地で始まっている。既に67カ国で電子廃棄物の処理方法に関する法律が制定されており、アップル、グーグル、サムスンなどのブランドが、リサイクルに関する野心的な目標を次々に発表している。

例として環境問題への取り組みで業界全体を牽引するアップルは、2017年の環境責任報告書で「近い将来地球を採掘することをやめ、100%再利用の素材のみでデバイスを製造するようにする」と表明。また昨年は、同社製品であるiPhoneの解体ロボット・リアムの後継機であるデイジーの導入と、その稼働に利用するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことに成功したことを発表した。1時間に200機のiPhoneを解体できるデイジー女史の活躍により、「100%リサイクル素材のiPhone」の目標がぐんと近づいた…と、期待されている。

また、メーカーを問わず使わなくなったデバイスを下取りするサービス「Apple Trade In」も各国で実施し、「あなたが持ち込んだデバイスが、デイジーのもとに送られるかもしれません」とアピールしている。


デイジー女史。見た目はシンプル(Apple社公式HPより)

我らがアジア代表選手は、現時点では韓国サムスンのようだ。現在世界60か国以上で各電化製品の引き取りサービスやリサイクルボックスの設置により無償リサイクル活動に意欲的に取り組んでいる同社は、教育現場で「責任ある電子機器消費者」を育成する課外授業などの活動なども行っている。今年はじめに、ロシアにおいて社会にもっとも貢献したプロジェクトに贈られる「ゴールデン・クレーン賞」の環境部門を受賞した。

「リサイクルはEウェイスト危機への『正解』ではない」との指摘も

ただ、こういったリサイクルの潮流を、冷ややかな目で見る向きもある。

フランス発の電化製品再生・再販プラットフォームBack Marketの共同創設者・Vianney Vaute氏は、「リサイクルの回収に出した時点で何か環境にいいことをした気分になってしまうこと(実際は結局廃棄しているのに)、企業が『グリーン』なイメージを作ろうとリサイクル活動を必要以上にアピールすること」に苦言を呈し、「リサイクルはEウェイスト危機の万能薬として扱われすぎている」と警鐘を鳴らしている。

そして年間120万ユニットのiPhoneを解体し、リサイクルの循環に乗せていた先述のリアムの例を提示し、「しかしAppleは前年に2億3,100万台の新しいiPhoneを販売している。リアムはハイテク分野におけるリサイクルの完璧な象徴だ。汚染された海に注がれる一滴の緑の水。崇高、そして無意味」とバッサリ切り捨てる。

同氏の視点では、そもそも企業の戦略(次々に新しい製品が発売されること)により、電化製品がすぐに『つまらない旧型』となってしまうことが最大の問題であり、「私たちはリサイクルに希望を託さず、電化製品の生産量自体を減らさなければならない。デバイスの寿命を延ばし、埋め立てから守り、第二、第三の命を与えることが賢いアプローチと言えるだろう」という。

そんなVaute氏がリサイクルに代わって評価するのは、米repair.org(電化製品の修理・再販の権利を特定の企業に限定することに反対する修理業者と消費者の団体)やFairphone(世界初の『長持ちするように設計されたモジュール式スマートフォン』)などの取り組みである。そう考えればすぐに手持ちのデバイスに飽きて新製品に飛びつく私たち消費者こそが、Eウェイストをせっせと増やしていることは間違いない。

「いい電化製品」=「自分で直せるシンプルなもの」が常識の国もある

私事だが、数年前にエコと節約の国・オランダで暮らし始めた筆者は、移住間もなく義父が調子の悪くなった洗濯機をいきなりドライバーでガバーッと開けたことに度肝を抜かれた。

日本ではこういう時「素人は下手に分解してはいけない、専門業者を呼べ」もしくは「修理の方が高くつくから新品を買い直せ」が常識だと説明すると義父は涼しい顔で「修理にいちいちお金がかかる電化製品なんか、オランダじゃ売れんわ」と返し、摩耗していたコマを交換し、何事もなかったかのようにまたフタをはめ直した。

確かに洗濯機自体日本なら戦後の香りがするような、ツマミが2つほどついているだけの非常にシンプルなものだったが、それにしても心の隅で「素人がいじっちゃっていけないんだ、知らないぞ」と思っていた筆者をよそに、数年経った今も義父母の家の洗濯機は元気に動いている。

中年の筆者にとって電化製品の進化とは、「より多機能に、より複雑に、よりデリケートに」なっていくもの、というイメージだった。でもこれからの電子機器は、「よりシンプルに、より手入れしやすく、より頑丈に」進化していくのかもしれない。

地球を愛する以前に決してメカに強くない私は、そう信じて楽しみに待っている。

文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit