ビックカメラやメガネスーパーなど大手でも決済の手段として認められ使用されているビットコイン。2018年の時点ではブロックチェーンの40%の取引が、ビットコインで行われているといわれている。

仮想通貨の先駆者であり王様ともいえるビットコインだが、ブロックチェーンのネットワークが拡大するにつれ、そのスケーラビリティ(拡張性)問題から、送金の遅れや手数料の増加、処理速度の低下などの問題が長年指摘されている。それに対応する策として考案されてきているのが「ライトニングネットワーク」だ。

今回は、ライトニングネットワークが提案された背景、その構想と仕組みなどオフチェーン技術の可能性を探る。

活用方法が拡大しているビットコインとその課題点

ビットコイン日本語情報サイトでは、ビットコインが使える日本国内のお店が掲載されている。CoinMapでも、ビットコインが利用できる世界中の店舗を参照することもできる。ビックカメラやメガネスーパーなど、大手でも決済の手段として使用されていることが見受けられる。

coinmap.org

前述したようにビットコインは仮想通貨の中で一番流動性が高く、Forbesの記事では2018年の時点ではブロックチェーンの40%の取引がビットコインで行われているといわれている。また2019年5月時点では時価総額でも11.45兆円と2位のイーサリアムの約2兆円を5倍以上引き離し、1位の地位をゆるがすことはない。

そんな先駆者としてトップを走るビットコインだが、そのスケーラビリティの課題が長年指摘されている。

ビットコインのスケーラビリティ問題は、ビットコインのブロックサイズがボトルネックになっている。

基本的にビットコインは、およそ10分に1回ブロックを発行し、取引情報を保存。このビットコインの取引を埋め込んでいく台帳であるブロックは、1MBの上限が定められており、そして1ブロックに書き込めるトランザクションの数が4,000件ほどと限られている。つまり理論上は、秒間7件程度の取引しか処理することができていない。

これを超えた場合は、通常は取引毎に取引の当事者が付与している取引手数料が高いものから処理されていくため、多くの取引がなかなか確定されず、データ処理速度が遅くなるので、送金に時間がかかってしまう。

また、ビットコインを実用的に送金するためには、それを確認するマイナーに対する手数料がかかるため、マイクロペイメントなど少額を送金する際に手数料が決済金額を上回ってしまうケースも多く出てきている。

ビットコインでは、通貨の取引履歴を記録する役割を担う、マイナーに手数料が支払われており、既存のチェーン上でのシステムでは、介在する第三者も含むやり取りについて取引手数料が発生する。第三者経由でチェーン上でやり取りをするには、余分な手数料が発生してしまうのだ。

このように、ビットコインが世界的に普及していき取引量が増えていったことによって、現在のブロックサイズでは容量が足りない問題、また、不必要な介在手数料を支払う経緯が発生している。ビットコインは、ブロックサイズが1MBに制限されているため、データの処理速度が他の決済システムに比べて遅く、このままでは機能しなくなってしまう危険がある。

これを解決するために現在までにソフトフォーク、ハードフォーク、Segwitなどの解決策が提案され、実装もされてきているが、これらも一時的な解決策であり、完全にスケーラビリティを解決するには至っていない。

そこで考案されたのが、オフチェーンまたはライトニングネットワークと呼ばれる技術だ。

スケーラビリティの課題を解決? ライトニングネットワークとは

ライトニングネットワークは、基本的なビットコインブロックチェーンの層の外で管理・実行するスマートコントラクトのシステムである。ブロックチェーンの層の外で行われるという構造から、ライトニングネットワークはオフチェーン(チェーン外の技術)またはレイヤー2(セカンドレイヤー)とも呼ばれている。

元はビットコインの生みの親であるSatoshi Nakamotoが思い描いた構想の中にあったペイメントチャネルであるが、ライトニングネットワークという名のもと改めて考案したのはJoseph PoonとThaddeus Dryjaの2人だ。

2人は2016年1月に初めてこの提案を論文で提出した。論文の定義では、ライトニングネットワークは「複数のピアツーピア支払いチャネルに安全にルーティングできるようにする、双方向支払いチャネルを備えたHashed Timelock Contracts(HTLC)が提案された実装」と記されている。

さらにPoonとDryjaは、論文内でこう解説している。「ライトニングネットワークは、安全な暗号化ハッシュの知識を条件として支払いを埋め込むことによって、いかなる当事者も一方的な保管所有権を有する必要なしに、チャネルのネットワークを介して支払いを行うことができます。

ライトニングネットワークを使用すると、管理下での信頼と所有権を必要とせずに、信頼できるが独占に脆弱であった金融システムでは不可能だったことを実現します。 ネットワークへの参加は動的であり、すべての人に開かれています」。

The Bitcoin Lightning Network

つまりライトニングネットワークでは、ネットワーク上の任意の人が、互いの間に開いているチャネルを直接持っていなくても、他の人にも支払うことができるネットワークの形成が可能となる。

ライトニングネットワークでの支払いチャネルの使用により、お互いの支払いを自分で追跡することで、2つの当事者は高価で時間のかかるブロックチェーンとのやり取りを避けることができる。

万が一、ライトニングネットワークで残高に関して何らかの争議が発生した場合にも、どちらかの当事者が署名した最後の有効な状態をブロックチェーンに送信でき、数字をだましたりすることなく証明される。第三者を経由してでもペイメントチャネルでつながっている人であれば、誰にでも送金が可能となる。

また手数料に関して、マイクロペイメント等の取引をオフチェーンで実行し、最初と最後の取引だけをビットコインのブロックチェーンに記して確定させることで、介在する第三者とのやり取りで本来発生するはずだった多額の取引手数料が省略される。

そこから、仮想通貨の取引履歴を記録する役割を担うマイナーに支払われる手数料が最小で済む。つまりオフチェーン(ブロックチェーン外)での処理となるため、マイニングが不要になり手数料が安くなるのだ。

他のアルトコインと比べた、ライトニングネットワークの可能性

このように、既存のスケーラビリティの課題を解決(または迂回)できるように提案されたライトニングネットワークだが、既存の他のアルトコインは、ビットコインよりも早く安く取引を可能にするものもあることはある。

ここまでしてビットコインに固執する必要はあるのだろうか、別コインに頼ればよいのでは?という意見もある。しかし以下のようにライトニングネットワークの利点と他コインに比べた優位性を検討すると、やはりビットコインに軍配が上がってしまうようだ。

まず手数料についてだが、ライトニングネットワークが実用化すれば、これらのアルトコインが提供するものよりもはるかに安い支払いを可能にするはずであり、マイクロペイメントの取引も可能にする。ライトニングネットワークホワイトペーパーの著者2人は、ビットコインのライトニングネットワークに対する費用は、事実上ゼロになるとも主張している。

もう1つ、ブロックチェーン自体の技術について、1秒間に特定の数のトランザクションを処理する能力に関してはすべてのブロックチェーンが同じ課題に直面するということも留意しなければならない。

つまり、他のアルトコインも流動性が高まれば限界があり、同じような問題がに直面するということだ。 ビットコインは最も信頼性が高く、長期にわたる暗号通貨ネットワークであるため、多額の手数料がかかっている、という現状になっているだけのことである。

さらにライトニングネットワークの利点として、取引は低料金であることに加え、その速さにも期待がある。取引は即時に有効として承認されるため、支払いが有効であると承認される前に新しいマイニングブロックで確認を待つ必要はない。

結論として、アルトコインと比較するならば、ビットコインの高い流動性、低いボラティリティ、そして長い資産価値を考慮してライトニングネットワークを実装した時の結果と比較すべきだろう。

ビットコインのこれらの利点があるゆえ、多くの人は単にアルトコインよりも、ビットコインを通貨として使うことを好むことが予想される。それが相対的に高い料金に直面してもビットコインが使用され続けている理由でもあるだろう、ということはForbesの記事でも語られている。 

現在でも時価総額が世界的に一位であり流動性も高いビットコイン、そのスケーラビリティの課題を解決するとされるライトニングネットワーク。将来的にビットコインがより流通し、日常決済で使われるようになった際に、ライトニングネットワークであるオフチェーン技術の実用化が大きく期待される。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit