少子化が進む日本。子供の数は減っているが、小中学生の「不登校」が過去最多になったとしてさまざまなメディアが取り上げた。
文部科学省が2018年10月に発表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2017年度の小中学生の数は982万人で過去最少、一方で小中学生の不登校生徒数は前年比1万348人増の14万4031人となり、初めて14万人を超え過去最多を更新した。
このトレンド、実は日本だけで起こっているものではない。欧米でも学校に行かない子供たちが急増している。
しかし、このトレンドについて日本と大きく異なっている点がある。それは「不登校」「ひきこもり」などネガティブな印象を持つ言葉ではなく、「ホームスクーリング」や「パーソナライズド・ラーニング」などの言葉で説明され、多くの場合ポジティブに捉えられているのだ。
学校に行かないことがポジティブに捉えられているのはなぜなのか。理由の1つは、ホームスクールやパーソナライズド・ラーニングで学習している子供の方が習熟度が高いという研究結果が相次いで公開されているためだ。
またビル・ゲイツ氏などパーソナライズド・ラーニングの可能性を説く著名人が増えていることもその背景にあるといえるだろう。
今回は第四次産業革命の本格始動を目前に世界で起こる教育革命の最前線をお伝えしたい。
英国・米国でも学校に行かない子供たちが急増、その理由
英BBCは2018年4月、英国で学校に行かずホームスクーリング(自宅で学習)する子供の数が2015年の3万4000人から1万4000人増加し、2017年には4万8000人に達したと伝えた。この状況を受け、英国政府は「自宅学習の権利と責任」に関するガイドラインを発表する予定だと報じられている。
英国の教育専門家らは、国内の教育システムが危機的状況にあることや、いじめ問題が深刻化していることなどが背景にあると指摘。1人の教師が30人もの生徒を教えるスタイルに疑問を投げかけ、オンラインツールなどを活用した21世紀の新しい教育を模索すべきとの声が高まっている。
一方、米国ではホームスクーリングする子供(5〜17歳)の数は200万人以上ともいわれている。ナショナル・ホームエデュケーション研究所は、ホームスクーリングする子供の数は年率2〜8%で増加しており、2016年時点ですでに230万人いたと推計している。
米教育省によると、ホームスクーリングする子供の数は1999年に85万人だったが、2007年に150万人に増加したという。この20年の間に着実にホームスクーリングする子供の数は増えていることがうかがえる。
米国では1980年代からホームスクーリングが増加したといわれているが、その理由は時代とともに変化している。当初は、クリスチャンの家庭が、宗教・モラルの教育において公共の学校では不十分と考え、子供をホームスクーリングさせることが多かったといわれている。
それまで米国では義務教育過程において子供は公共または私立の学校で学ぶことが法律で義務付けられていたが、1980年代にホームスクーリングを合法と定める州が登場し、教育を取り巻く環境は変わり始めることになる。
現在では、すべての州でホームスクーリングが認められている。また、ホームスクーリングの子供でも、学校間のスポーツイベント(日本のインハイなどに相当するもの)への参加を認める州もある。米国ではホームスクーリングはれっきとした教育選択肢の1つとして浸透しているといえるだろう。
ちなみにこのスポーツイベントの参加を認める法律は「ティム・ティーボウ法」と呼ばれている。ホームスクーリングをしながら、地域の高校フットボールクラブに参加、その後フロリダ大学を経てプロのアメフト選手になった人物の名前だ。
立ち上がる教育者たち、米国で起こる教育ディスラプション
ホームスクーリングの認知と需要が高まる中、ニューヨークでは学校版Airbnbとも称されるスタートアップ「CottageClass」が登場し注目を集めている。
公立学校には通わせたくないが、学費が高騰する私立にも行かせたくないと考え、ホームスクーリングを選ぶ親がニューヨークで増加しているといわれている。CottageClassは、このホームスクーリングで学ぶ子供たちと親、さらに教師がつながるプラットフォームを提供している。
教師がどのような授業を行うのか、プラットフォーム上にその概要を公開。親はそこから子供に合う授業をピックアップしていく。ホームスクーリングする子供どうし、親どうしのつながりができる空間として重宝されているようだ。
CottageClassの創業者であるマニシャ・スノイヤー氏は元教師。ニューヨークのテックメディアTechnical.lyの取材で、既存の教育制度に危機感を持ったことが同プラットフォームを立ち上げるきっかけになったと語っている。
スノイヤー氏が教師時代にもっともフラストレーションを感じたのが、子供たちの行動管理に関する方法だ。1クラスに何十人も詰め込まれており1人1人に対応することは不可能のため、静かに座ることを強要する以外何もできなかったという。
また既存の教育制度では、教育に情熱を持って取り組む教師であっても、標準テストへの準備などで時間を割かれ、クリエイティビティや能力を発揮できないでいる状態だと指摘している。
CottageClassは、親がホームスクーリングの一部を教育熱心な教師たちに任せられるだけでなく、子供も社会性を身につけることができ、ホームスクーリングの次の形として期待が寄せられているのだ。
ホームスクーリングは子供たちが自分のペースで学習を進められるため、「パーソナライズド・ラーニング」を実施する上でも効果的な教育環境といえるだろう。
カーン・アカデミーのように分かりやすい教育コンテンツとバッジ獲得などのゲーミフィケーションの仕組みを取り入れたオンライン学習プラットフォームを活用すれば、子供たちの学習における能動性を高め、学校で勉強するよりも高い学習効果を生み出すことが可能だ。
学術誌Canadian Journal of Behavioral Scienceに寄稿された論文によると、カナダの学校に通う子供とホームスクーリングの子供のテストの点数を比較したところ、ホームスクーリングの子供の方が点数が高いという結果になった。
調査対象となったホームスクーリングの内容は、「ストラクチャード」と呼ばれ、よく練られたカリキュラムで学習が行われていたという。カリキュラムがストラクチャードでない場合、ホームスクーリングの子供たちの点数は平均を下回った。
このほかにもパーソナライズド・ラーニングの効果を示す研究は数多く発表されており、ホームスクーリングだけでなく、学校でも導入が始まっている。
米国では、カーン・アカデミー創設者のサルマン・カーン氏が設立した「カーン・ラボ・スクール」やコワーキングスペースWeWorkが設立したプライベート小学校「WeGrow」など、ホームスクーリング以外にもさまざまな試みが行われており、教育の選択肢はかなり多様化しているといえるだろう。教育改革が求められる日本にとって示唆に富む事例となるはずだ。
[文] 細谷元(Livit)