人工知能(AI)による業務自動化やレコメンド機能、またブロックチェーン技術を活用した管理システム、さらにはキャッシュレス決済サービスなど、今はテクノロジーの進化によって、新たなサービスが息つく暇もなく誕生している。そしてテクノロジーと組み合わさって創造された新しいサービスは、長年に渡って不変であった多くの既存サービスと取って代わり、全産業の基盤を揺るがしている。

現代は全ての産業において、テクノロジーを活用しての進化、そして変革を求められている時代だ。そのため、ある人にとっては脅威を感じる時代だが、ある人にとっては変革を起こせるチャンスの時代でもある。

東京と福岡に拠点を持つ「G’s ACADEMY(ジーズアカデミー)」は、今の時代をチャンスと捉えた人達のためのエンジニア養成スクールだ。G’s ACADEMYは教室でプログラミングが学べるオフライン形式のスクールだが、忙しい社会人向けに週末に学べるコースもあり、動画の教材なども用意されている。

そしてG’s ACADEMYが他のエンジニア養成スクールと違って特殊なのは、これまで数多くのクリエイターを輩出しているデジタルハリウッドが運営していることもあり、学生の起業をサポートする体制が整っている点だ。起業時にはオフィスの無償提供や、最大500万円までの出資支援などが用意されている。

そんなG’s ACADEMYが2019年4月25日、「ゼロから始めるtech起業」をテーマにイベントを開催した。パネルディスカッションの登壇者は以下のG’s ACADEMYの卒業生だ。

  • 株式会社助太刀 代表取締役/CEO 我妻陽一氏
  • 株式会社Bloom 代表取締役 平原俊幸氏
  • freecracy株式会社 代表取締役社長 国本和基氏

登壇者の3人はいずれもG’s ACADEMYにてサービスのプロトタイプをプログラミング未経験から開発し、起業にまで至っている。本イベントではG’s ACADEMYでのどのような経験を経て起業へと至ったのか、また自身の事業アイデアの源泉、創業に至るまでなどを、卒業生で起業家である3人が自身の経験をもとに語った。

学んだからこそ膨らんだ事業アイデア。起業家たちの原点とは

起業した事業のアイデアを決定するまでには、どのような経緯があったのか。ファシリテーターからのこの問いに対して、はじめにfreecracy株式会社の代表取締役社長である国本氏がアイデアの源泉、そしてG’s ACADEMYでのアイデアを決定するまでのプロセスを述べた。

国本氏は2018年8月にfreecracy株式会社を設立し、就職やクラウドソーシングのSNS型プラットフォーム「freeC」の開発、運営を主力事業として行っている。現在は主にベトナムで事業を展開している。

国本氏 「まず、ベトナムは日本とは違って人材の流動率がとても高く、人材紹介をしてもらう場合、通常年収の30%分くらいかかります。ベトナムは年収自体が少ないため、はじめは安いと感じていましたが、30%くらいがすぐに辞めるため、想像以上に採用コストが高いことに気付きました。そもそも面接に30%くらいの確率で来なかったり、来ても会社のことを全く調べていなかったりする。採用する企業側には大きな課題となっていました。

また応募する側にも課題はあります。ベトナムには日本の新卒のようなプレミアムなシステムがないため、優秀でも経験がない人はディスカウントされて採用され、好きでもない会社で経験を積むために働いていたりします。しかしより良い待遇、会社に入りたいと思っている人は当然ですが非常に多いです。なのでもっとお互いの情報を可視化して確認できるようになることで、採用が良くなるのではないかと感じ、その思いが事業のアイディアとなりました。

そしてITスタートアップを目指すプログラミングスクールを探していた時にG’s ACADEMYのことを知り、すぐに入学を決めました。入学して同期やスタッフの人達とのディスカッションを経て、現在の事業の形になっていきました。正式版をリリースしてから今は4ヶ月ほどで、まだまだ検証している段階ではありますが、こういった思いをプロダクトで実現させたいと思っています」

つづいて株式会社助太刀のCEOであり代表取締役でもある我妻氏は、複数あった事業アイディアの中から、助太刀に決めた理由を語った。

我妻氏「僕はもともと電気工事会社を10年くらい経営していたのですが、MBAを取るため大学院に行きまして、その時出会った同級生と二人で創業をして、すぐに登記しました。それが2017年の3月です。

入学する前から起業することは決めていたのですが、肝心なプロダクトがない。そこでプロダクトを作成するためにG’s ACADEMYに入学しました。事業のアイディアはいくつか候補があり、外国人材の活用など考えていたのですが、その内の一つが助太刀でした。

助太刀の話を学校でした時、絶対やった方がいいという大きな反応があり、その時に複数あったアイディアの中から助太刀に決めました。建設業はずっと多くの課題があったのですが、僕自身が12、3年その業界にいたため、外部の人に話すまで分かっていない所があったんだと思います」

我妻氏が設立した株式会社助太刀は建設現場と職人を繋ぐマッチングアプリ「助太刀」の運営を主力事業として行っている。また2019年1月より、助太刀アプリを利用する職人を対象とした、工事代金を即日チャージできる「助太刀カード」の発行が開始された。

最後に株式会社Bloomの代表取締役である平原氏は会社員時代に感じた、転職エージェントのシステムに対する課題を語った。

平原氏 「僕は転職エージェントの会社で約15年と長く働いていて、課題を感じる部分がいくつかありました。例えばエージェントを通じて、応募からの転職実現率というのは1%程度。あくまで平均値とはいえ、人材不足といわれる中でも100社応募しないと転職が決まらない、という状況になっています。

このシステムに対して、業界内ではこういうものだと皆思っているけれど、よくよく考えてみると、本当にいいのかな、と感じていました。また企業にとっても『エージェントは金額的に高い』という声も多く、使わざるを得ないからエージェントを使っている企業も多くあります。

転職エージェントで働くことは魅力的でしたが、しかし生涯かけてよりよい採用サービスや働く人が何度でも挑戦しやすい仕組みを作りたいと思い、起業したいと思いました。このように積み重なった実務経験から事業アイディアが生まれ、G’s ACADEMYの卒業制作で作ったサービスが今の事業のベースになっています」

平原氏が2018年4月に設立した株式会社Bloomでは大手企業を主な対象とした企業間共有型タレントプールシステムを主力事業としており、その他にも採用パートナーAIの開発、AI・機械学習による分析モデルパッケージといった事業を行っている。

スクールに通ったからこそ出会えた創業メンバー

起業を目指す時に一つの障壁となるのが、仲間の集め方である。起業したばかりの、知名度も多くの資金もない時期に、共同創業メンバーはどのようにして集めたらいいのか。3人がそれぞれの経緯を語った。

平原氏 「僕は一昨年G’s ACADEMYに通っていたのですが、卒業制作の発表イベントでのプレゼンテーションがきっかけで創業メンバーと出会いました。イベントには投資家などが来るので、前の期では我妻さんが卒業プレゼンテーションを機に5,000万円を調達したという話を聞いていました。しかし僕の時は特にそんな反応もなく。ただ小さな会社の社長から、個別で会いたいというアポイントメントが入りました。

会いに行ってみると、彼はG’s ACADEMYの受講を考えている人だったんですね。人工知能(AI)を使った採用・人事の事業をやっているけれど、お客さんのニーズがよく分からないとのことでした。一方僕は採用・人事の話ならよく分かるので、お互い何ができるのかという話で盛り上がり、彼の既存の会社を継続しながら、新しく会社を作ることになりました」

国本氏も平原氏と同じようにG’s ACADEMYで共同創業メンバーに出会っている。さら同校で技術顧問も得ており、エンジェル投資の一部も受けている。

国本氏 「僕の場合は、G’s ACADEMYで共同創業メンバーを得て、技術顧問も得て、最初のエンジェル投資も一部G’s ACADEMYから出してもらっています。僕は同期が30名ぐらいいたのですが、その中で僕が見る限り一番技術が高い人間、そしてデザインセンスがある人間に共同創業メンバーとして声をかけました。

技術が高い同期に声をかけたのは卒業式の直前でした。事前にラブレターのようなメールを送り、30分時間を貰い、学校の近くにある上島珈琲であなたの力が必要だと口説きました。ただ彼は今まで海外にほとんど行ったことがなく、英語も話せなかったので、ベトナムに行くことを即決はできないだろうなと思っていました。しかしその場で、すぐに行きますという回答を貰えました。その彼が今のCTOです」

G’s ACADEMYには趣味や仕事のためにプログラミングを学びたい人や、エンジニアを目指す人だけではなく、起業を志している人も多くいる。多種多様な人材が入学するため、それぞれの目標に対して協力しあえる仲間に学校で出会えるチャンスが数多くあるのだ。

起業を志す人がプログラミングを学んで得られるもの

我妻氏 「時々G’s ACADEMYの後輩にアドバイスを求められるのですが、必ず卒業制作の発表イベントでのプレゼンテーションまでに、プロトタイプを完成させることを強く勧めています。プロトタイプがあることで覚悟や説得力を相手に伝えることができるからです。何より、一から自分で学ぶことが事業やサービスへの理解につながります。

またG’s ACADEMYでは分からないことを自分で調べて解決する『ググり力(自らリサーチして見つけ出す力)』が求められます。この力はエンジニアだけに求められる力でないと思います。自分で調べて自力で進む力がなければ、起業なんかできません」

また、国本氏はプログラミングを学んでおくことによって得られるコミュケーションでの利点、さらにはスクールで仲間を得られたことについて語った。

国本氏 「優秀なエンジニアが起業すれば必ず成功するわけではないように、プログラミングを学んだからといって起業が成功するわけではありません。しかしCTOがエンジニアにはできない相談を聞けたり、コミュニケーションが円滑に進んだりと、役立つ時は多くあります

僕が作ったプロダクトのコードもデザインも、作り直されて現在は残っていませんが、そのレベルで補完しあえるメンバーとG’s ACADEMYで出会えたのは本当に良かったです。もし一人でやっていたらと考えると、本当にぞっとします。おそらく全然できていないし、ずっと同じところをループして前に進めていなかったかもしれません」

平原氏 「僕はG’s ACADEMY以外のスクールやサービスでプログラミングの勉強をしたことがありますが、一緒に勉強する同期がいて課題を発表する機会があるG’s ACADEMYが自分にとっては1番良かったです。

今プログラミングを学ぼうか迷っている人は、まずはやってみたら良いと思います。プログラミングが好きかどうかだけでも分かります

テクノロジーへの理解を深めることが、今は未来の選択肢の幅を広げることに繋がる。エンジニアを目指していない人でも、学びはじめてみることで新たな世界が見えてくるかもしれない。また、すでに明確な目的があって学習を始める人も、一緒に学ぶ仲間がいる環境を選ぶことで、一人では得られない刺激と新たな目標を得られるだろう。

今の時代、プログラミングを学習した方がいいのはエンジニアだけではない。変わりつつある仕事への理解を深めるために学ぶ人もいれば、新たなビジネスの潮流を感じて学びはじめる人もいる。

時代が急速に変化することは止められないが、自分のアクションは変えることができる。G’s ACADEMYは能動的な姿勢で行動をおこす人のためのエンジニア養成スクールだ。機会を掴むための支援が揃っている。今、実現したいサービスがある人にとって起業する選択肢の一つとして考えてみるのはいかがだろうか。

取材・文/片倉夏実
写真/西村克也