Twitter, Instagram,Facebookなど近年においてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が世界中で全盛だ。誰もがソーシャルネットワークに接続し、アカウントを開き、きれいな写真やひねりのある言葉をもとめてさまよう時代を迎えている。

たとえば、日本に実名での情報発信文化を持ち込んだのは、まぎれもなくFacebookであることに異論はないだろう。しかし、その源流をご存知だろうか。人とつながり、日常を発信することの喜び、アクションがある楽しさ、そしてつながりが広がっていくことの魅力を広めたのが、国産のソーシャルネットワークサービスであるmixi(ミクシィ)である。

mixiのスタートは2004年。東京大学を卒業した笠原健治氏が事業としてスタートした。当初は完全招待制であり、口コミで友達にメールアドレスを伝達し、招待メールを打ってもらうことでmixi内部にアカウントを開けるという仕組みだった。また、興味深い機能として「あしあと」のサービスがあり、誰かが自分のプロフィールや日記にアクセスすると、そのアカウント情報がマイページに出てくる仕組みだった。

これは1990年代のウェブにあった、古き良き「キリ番」のシステムを応用したものだが、この「あしあと」機能によって利用者は“誰が自分に関心を持っているかに関心を持つ”という現象が生まれ、ユーザーはmixiへ頻繁にアクセスし、人々を夢中にさせた。その人気は多くのユーザーを招き、mixi社を上場へと押し上げた。

しかし、順調が故にその「あしあと」機能を廃止したことが、利用者離れを招いてしまったと言われている。また同時に新しいSNSの台頭のタイミングとも重なり、現在では誰かとつながる手段としてmixiを選ぶ人は決して多いとは言えない。

今なお利用されるmixi。ユーザーを惹きつける魅力とは

筆者はこれまでも、定期的にmixiの様子を伺うべくログインし、またmixi公式からアクションがあった際にメールが届いていたのでチェックはしていたが、業者や広告などの様な通知が多いように感じられた。

確かに、ユーザーの中でも、アクティブに活動している人数は減っていっているのだろう。読者の中にも、mixiはもうマイミク(mixi上のつながっているフレンド)が活動していないので、自分もログインしないという方はいるのではないだろうか。

だが、mixi社が2018年12月に実施したユーザーアンケートによると、毎日mixiにログインして使っているユーザーは72.0%と、驚くべき数字を誇っている。つまり、熱中している人はいまもなお、mixiの楽しさに夢中なのかもしれない。

さらには、利用年数は10年以上のユーザーが57.9%を超える。これもまた、黎明期からずっと使い続けているユーザーに支えられている証拠だ。

同社が公表したデータによると、もっとも使われているのはmixiボイス、つまり“つぶやき“だ。150文字以内で、日記に書くまでもない何気ない投稿を、マイミクやページを訪れた人に見せることができる。このmixiボイスはTwitterに似た機能だが、全世界に公開されておらず、Googleも補足できないところに存在するので、気軽に投稿できて人気が高いと考えられる。


「mixiの利用実態」—アンケート調査レポート

Twitter人気からもわかるように、短文の短い投稿へのリアクションは、友達との中を深めてくれる。

しかしmixiボイスは近い人間関係内の機能でもあり、Twitterでも補完ができてしまう。その一方でmixiにはマイミクとは別でユーザー同士がつながる機能がある。それが、似たような属性のメンバー同士で集まって話し合う「mixiコミュニティ」の存在だ。

このコミュニティ機能は、mixiボイスに次いで利用数はグラフから見ても利用数が高いことがわかる。このコミュニティの存在が、マイミクの人たちが活動を控えても、既存ユーザーがつながって活動をやめない原因の一つだと考えられる。

実際、mixiというワードでTwitterなどで検索してみると、「ビジュアル系バンド」「アイドル」「ソーシャルゲーム」といったコミュニティへの集客を行っている人たちが浮かび上がってくる。

つまり、現状のソーシャルメディアは、インターネット上にオープンでありすぎて、同じ趣向を持つとのつながりが可視化されてしまうため、もっと見えないところで、誰にも邪魔されずに交流を楽しもうという心理が働くのではないだろうか。

それなら、Facebookグループでいいのではと思われるかもしれないが、Facebookは完全実名であるため、匿名で気軽に、ゆるく似たような人とつながれるmixiコミュニティが、選択肢として残るのだろう。

また、総務省が平成30年に発表したデータでは、4.3%がmixiを利用しているというデータが出ている。LINEの鮮やかな伸びに対して、2012年では16.8%だったものが5年で1/4になってはいるものの、同時期に覇権を争ったモバゲーやグリーと同様、古参ユーザーには親しまれているとも言える。


情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書

入れ替わりが激しい“SNS社会の波”

では、なぜSNSは人が入れ替わり、新しいSNSへとユーザーが移ってしまうのだろうか。ひとつには、SNS独自の“偏り”がある。SNSはどうしても先発ユーザーが楽しめるような設計になっている。現在もっとも流行っているSNSとして、インスタグラムとTwitterが存在するが、どちらも最初に利用した初期ユーザーが楽しめて、よりフォロワーを集めやすいという構造になっている。

SNSの運営としても、初期に使ってくれて、宣伝してくれ、いまもヘビーユースしてくれる利用者を贔屓した設計にしたいのが本音だろう。しかし、それを実際に機能に反映させると、後からやってきた大多数の利用者が面白くないため、次のSNSを求めて移ってしまう。これがSNSを全員に楽しんでもらい、平等に運営することの難しさだといえるだろう。

さらにSNSによっては、いわゆるレイトマジョリティも楽しめる設計を行う場合もある。そのケースでは革新性が薄れてしまって、ユーザー離れを招いてしまうことが十分考えられる。

また、mixiに関しては、グローバル化していれば、世界規模にスケールしたはずだと考えられる。その直後にFacebookが台頭し、世界を席巻したことからも明らかである。SNSは人気が入れ替わるのは仕方ないが、再び、クローズドSNSの時代がやってこないとはいえない。mixi世代が成長し、次の若者が育った頃「新しい」という理由で流行る可能性は考えられるだろう。

グローズドSNSの将来を握るカギは“匿名性”と“コミュニティ”

GREEそしてやMobageもしかり、「mixi」が今後SNS市場で盛り返す可能性があるとしたら、やはりキーワードは「匿名性」と「コミュニティ」にあるのではないだろうか。いま、Facebookが日本のインターネットに持ち込んだ実名文化をベースとしながらも、ときに半匿名が可能になるmixiは、再興のポテンシャルがあるといえる。

また、匿名でありながらも、コミュニティを通じて人とつながりたいという強い欲求をすくい上げれば、こちらも現状、競合するSNSが存在しないため、コミュニティに特化したSNSとして再び脚光を浴びる可能性は十分あるだろう。

さらに、ポイントとしては5G時代を控えた動画への対応だろう。大量に“ギガ“を消費する社会を前に、各SNSが動画への対応を表明している。総務省のデータからはまだみえないものの、民間の調査では動画に特化したTiktok、Instagramが勢いよく利用者を伸ばしている。

このあたりを押さえることで、今後またmixiが盛り上がって、という未来は十分考えられるかもしれない。

次の一手は“新時代のインサイト”を探りあてること

mixiの現在の状況からは、学ぶべきことが多い。それまで匿名で掲示板にて語り合う文化から、つながりたいという強い欲求を捉えたmixiは、ユーザーのインサイト(本音)をとらえて大きく成長した。

しかし、実名文化の台頭とともにユーザー離れを招いてしまい、現在は収益がほとんど上がらなくなってしまった。ただ、その他のSNSに懸念があるとすれば、あまりに炎上しやすいという点である。仲間内の投稿が全世界にさらされ、激しい議論と批判を招くオープン型のSNSに、疲れてしまっている人も多いのではないだろうか。

そこで、半匿名、コミュニティ型に加えて、動画での自己表現欲求を満たすことができれば、盛り上がる可能性は充分ある。大切なのはつながりたいという欲求であり、同時に承認されたいという現代型の欲求である。これからのクローズドSNS再興のためには、次世代の新たなるインサイトを探していく必要があるだろう。

文:渡邊幸子