ポータルサイト「goo」で知られるNTTレゾナントが、独自に開発した人工知能(AI)技術を利用したソリューションやサービス展開を進めている。先月、同社の発表会で注目を浴びたのがAIチャットボット事業の拡大だ。
従来のチャットボットが単純で短い受け答えしかできなかったのに対し、NTTレゾナントは「教えて!goo」の膨大なQ&AデータをAIに学習させることで、長文の生成や文脈を理解した回答を得意としている。
今回は同社が発表した内容に触れながら進化する「AIチャットボット」の可能性について紹介する。
AIチャットボットがいよいよ「接客」にも進出
チャットによる問いかけに対して自動で応答を返すチャットボットは、Webサイトなどへの導入が相次いでいる。24時間稼働できるのはもちろん、人間相手では聞きづらい質問もボットが相手なら聞きやすいという。
NTTレゾナントは、チャットボットを導入したい法人向けにセミオーダーサービスとして「goo AI x DESIGN(エーアイクロスデザイン)」を提供してきた。
こうした作られたチャットボットは、ドラマに登場するキャラクターとの会話(日本テレビ)、ハワイ旅行の情報提供(ANA)、就活生の質問に答える(JAL)など、多様なシーンで活躍している。
NTTレゾナントのAI技術で作られたチャットボットたち
次の展開として同社が打ち出したのが、業務効率化など「守り」の用途だけでなく、パーソナライズやデータに基づいた提案やニーズ発掘、アップセルなど売上向上につながる「攻め」のツールにしていくとの方向性だ。
新たに提供する「対話AI型Web接客支援プラン」では、販促・マーケティング領域に進出。たとえばEコマースサイトにAIチャットボットを設置し、雑談で打ち解けながら顧客の属性にフィットする商品を提案し、販売につなげる「接客」が可能になるという。
さらに個人向けサービスとして、エンドユーザーがチャットボットを作れる「goo botmaker」構想も発表した。第1弾として、6月に劇場公開の人気アニメ「フレームアームズ・ガール」に登場するキャラクターのチャットボットを、100人にファンが作るプロジェクトを開始する。
フレームアームズ・ガール チャットボット
個人でチャットボットを作るサービスが、果たしてビジネスとして成立するのだろうか。これを考える上でヒントになりそうなのが、リアルとバーチャルの境界で活躍する「VTuber」たちの存在だ。
急増するVTuberの先に見えてくる、新たな市場
国内YouTuber市場は、2022年には579億円規模に成長する(Cyber Now調べ)との予測もある中で、バーチャルYouTuber「VTuber」の人気が急増している。NTTレゾナントがAIチャットボットで実現しようとする世界観は、VTuberよりも先を見据えたものだという。
goo botmakerが描き出す、チャットボットの可能性
VTuberは、カメラやセンサーで読み取った人間の表情やポーズを2Dや3Dのモデルに反映することで、豊かな動きを実現している。だが、その中には生身の人間がいる以上、活動できる時間やパフォーマンスに限界はある。
これに対してチャットボットはソフトウェアなので、24時間・365日の動作はもちろん、必要な数だけコピーして同時に動かすこともできる。現在のチャットボットはテキストや画像をやりとりするものが大半だが、3Dモデルやボイスを組み合わせることで、将来的にVTuberを置き換える可能性を秘めている。
NTTレゾナントが示した可能性として、家族やペットのチャットボット化も興味深い。一定のデータをAIに学習させることで会話ができるようになれば、死別した家族と話したり、自分という存在を何百年も先まで残したりできることになる。
家族やペット、架空の人物をチャットボット化する
ただし、こうしたツールを実用化するにあたっては、技術面以外にも著作権や肖像権などの権利関係、倫理的な側面など課題は山積みだ。NTTレゾナント メディア事業部長の鈴木基久氏は「一般公開に向けて、整理すべきことは多数ある」と語っている。そのため、第1弾である人気アニメキャラクターとのコラボは、できることを制限した上で最初の一歩を慎重に踏み出したというわけだ。
今後のAIの進化により、チャットボットの性能が急速に進化することは間違いない。NTTレゾナントは、将来的にサブスクリプションの導入も視野に入れているという。ビジネスモデルの確立に成功すれば、これまでにない新たな市場を切り開くものになりそうだ。
取材・文:山口健太