INDEX
2018年7月、スターバックスは全世界の店舗でプラスチック製ストローの使用を取りやめることを発表した。英国では2年以内に流通を禁止する方針が決まり、世界中で「ノー・プラスチック」の動きが加速している。
そのあまりに急な動きの裏には、環境保護以上に「中国の固形廃棄物輸入禁止」が大きく関わっている。2017年、それまで世界のゴミを一手に「引き受けて」いた中国が、受け入れをやめたのだ。それにより、世界有数のゴミ輸出国・日本はもちろん、世界中の国々が打撃を受け、新たなゴミ処理・削減対策を迫られている。
そんな中、ゴミのポイ捨てに罰金を課すなど、世界で最も衛生管理に厳しい国・シンガポールでは、ハイテクを使った新たなゴミ削減対策が練られているそうだ。
ゴミ削減もハイエンド? シンガポールらしい最新鋭な削減案
HDBのゴミ箱であるダストシュート(ストレーツタイムズより)
今年1月、シンガポールの国家環境庁は、世帯ごとのゴミ箱に無線識別(RFID)タグを取り付けてゴミの量を測り、その量に応じて課金するシステムを将来的に導入する可能性を示唆した。
現在シンガポールの公共住宅(HDB)では、ゴミ処理費用として各家庭月額8.25ドルを一律に支払う決まりになっている。これを「捨てた分だけ支払う」重量課金制にすれば、量によっては今よりも支払い額が少なくなるため、ゴミ削減につながるのではないかという画策のようだ。
実際シンガポールでは3年前、リサイクル回収の際、ビンに取り付けたRFIDタグをスキャンして、リサイクル可能かどうかをシステムで追跡する実験に成功した。これを発展させたら、家庭用のゴミ箱(ダストシュート)に装着することも可能なはずだ。
ちなみに、シンガポールではゴミの分別は義務付けられていない。可燃でも不燃でも、まとめて自宅に備え付けられているゴミ箱に放り込んだらおしまいだ。それゆえ、ゴミの量を家庭毎に測ることも、日本ほど難しいことではないかもしれない。
あと15年で限界超え。待ったなしのシンガポールゴミ問題
セマカウ埋立地。マングローブを植林して環境保護にも努めている(ネクストシャークより)
国家環境庁によると、シンガポールの2018年の年間固形廃棄物排出量は約770万トン。前年より9,000トン減少とのことだが、40年前に比べると約7倍もの増加であるという。
シンガポールの国土(721.5 平方キロメートル)は、東京23区の面積とほぼ同等であり、その多くは住宅や商業施設、公園など、既に開発済みの土地である。人口は約561万人(2017年)。東京23区の人口が約920万人であることを考えると、人口密度は東京より低いものの、それでも過密していることはわかる。人口は年々増え続けており、今後も国土を圧迫していくことは明らかだ。
シンガポール国内には4つのゴミ処理プラントがある。集められた固形廃棄物はまずプラントに運ばれ、リサイクルされるものと、そうでないものに分別される。そして燃やせるゴミは焼却処理され、その後、灰や焼却できない廃棄物はセマカウ埋立地に運ばれる。
本島から8km南にあるセマカウ埋立地は、世界初の人造オフショア埋立地だ。1999年に造られた面積約3.5平方キロメートルの人工島で、国内唯一のゴミ埋立地。2035年にはその許容量を超えると予測されている。環境省によると、当初は2045年までは維持できる計算であったが、人口の増加や使い捨て製品の急速な普及などにより、10年早く寿命が来るであろうとのこと。つまり、シンガポールはあと15年のうちにゴミ問題を解決しなければならないのだ。
きれいな町を支える、処理能力の高い焼却プラント
人口密度が高く国土の狭いシンガポールで、ゴミのない清潔な町を保てているのは、焼却炉の性能の高さが関係している。国内には国営、民間合わせて4つのゴミ処理プラントがあり、1日の最大焼却量はそれぞれ800~3,000トンと、高い処理力を誇っている。
北部にあるセノコ廃棄物エネルギー工場は、1992年に開業。1日の処理量は約2,400トンで、20以上あるごみ投入口には次々とゴミが運ばれ投入される。ゴミは約800~1,000度もの高温で焼却処理され灰になる。煙はフィルターを通して有害物質を取り除き、高さ150mの煙突から排出される。中央制御室には多くの計器やモニターがあり、内部の様子や温度が表示され、24時間体制で稼動している。
こうして焼却炉で処理することにより、ゴミの体積は1/10まで減らすことができるのだ。
官民一体で取り組む「ゴミのない社会」
ゼロウェイスト・アジアが開発した「ZA-TECH」
シンガポール政府が目指す未来は「ゴミのない社会(Zero Waste Nation)」である。国家環境庁主導で、ゴミの3R(Reduce=ゴミの削減、Reuse=再利用、Recycle=再資源化)を推進しているが、今のところ固形廃棄物全体におけるリサイクル率は約60%。うち、国内のリサイクル率は2割程度に留まっているのが現状だ。そこで政府は、イノベーティブな技術を持つ民間企業と連携して、スピーディーな問題解決に取り組んでいる。
そのひとつが、有害廃棄物を無害化する薬品を開発したスタートアップ「ゼロウェイスト・アジア」だ。同社は2013年に設立され、ヒ素、カドミウム、水銀、鉛などの有害金属を、廃棄物から効果的に取り出す薬品「ZA-TECH」を開発した。この薬品を使うだけで、様々な固形廃棄物から有害物質を無害化することができる。大掛かりな機材や高いコストをかけずに、手軽に実行できることも大きなポイントだ。同社によると、これを使えばほとんどのゴミがリサイクル可能になるとのことだ。
2016年に設立された「エコワース・テック」は、液状の産業廃棄物を浄化して、下水管へ流すことを可能にする物質「炭素繊維エアロゲル(CFA)」を開発した。古紙などの天然素材から作られたCFAはリユースが可能。生ゴミの再利用や工業用水の処理などへの利用が期待される。
世界中の国々が頭を悩ませているゴミ問題。シンガポールは、高度なテクノロジーや政府の強いガバナンスを活かしながら、独自の解決法を模索している。これまで、国の経済と人口は廃棄物の量と比例して上昇し続けてきた。しかし、これからは反比例させなければ未来はない。環境に配慮した「清潔なシンガポール」をどう維持していくのか。今後の展開が気になるところである。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)