米IT専門リサーチ会社IDCの予測よると、2019年世界のVR・AR市場は売上高ベースで204億ドル(約2兆2600億円)と、前年比で70%近い伸びになる見込みだ。市場拡大を支えるのは、コンシューマサービス(16億ドル)、リテール(15億6000万ドル)、組立製造(15億4000万ドル)などの分野。

国別では米国が最大で市場規模は66億ドル(約7300億円)になる見込み。次いで、中国が60億ドル(約6600億円)、日本が17億6000万ドル(約1950億円)、西ヨーロッパが17億4000万ドル(約1930億円)と予想されている。2019年の予測成長率で最大はカナダで83.7%。これに米国(77.1%)、中国(76.2%)が続く見込みだ。2022年まで高い成長率を維持するとみられている。

生活やビジネスのさまざまなシーンに普及していくことが期待されているVR・ARだが、近年それ以上に期待を集めているのが「Mixed Reality(MR=複合現実)」だ。どのようなシーンでの活用が考えられているのか。最新の取り組みからMRの可能性を探ってみたい。

「ホロレンズ」と「マジックリープ」、MR界をリードする取り組み

MRとVR・ARの違いはどこにあるのか。

VR(仮想現実)は、オキュラスに代表されるような視界を完全に覆うゴーグルを着用し、ユーザーを完全なデジタル映像の世界に没入させる仕組み。AR(拡張現実)は、視界を透過するゴーグルやスマホなどのデバイスを用い、現実世界の物体や情報にデジタル情報を重ね合わせる仕組みだ。「ポケモンGO」はよく知られたAR活用事例の1つといえるだろう。

MRは、現実世界を透過するという点でARと似ているが、現実世界の物体や空間をあたかもデジタル世界のように表現できるという点でARと大きく異なっている。MRは、デバイスが現実世界の空間(部屋など)や物体(イスやテーブルなど)を把握し、それらにデジタル映像を重ね合わせることができるのだ。マイクロソフトの「ホロレンズ」やマジックリープの「マジックリープ・ワン」がMRを可能にする代表的なデバイスとなる。


マイクロソフト・ホロレンズ(マイクロソフト・ウェブサイトより)

2019年3月スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress2019」で、マイクロソフトは最新のMRデバイス「ホロレンズ2」を発表。2016年にローンチした前世代のホロレンズに比べ、解像度やトラッキングセンサー機能が大幅にアップしており、MRの可能性を広げるデイバイスとして多くのメディアが取り上げている。

ホロレンズ2の利用が想定されるのは、建設、医療、製造などの産業分野だ。たとえば、建設分野では米国のソフトウェア会社Bentleyがホロレンズと連携したMRソフトを開発。ホロレンズに建設予定の建築物や建設プロジェクトのガントチャートなどを映し出すことができる。

医療では、フィリップスがMRを活用した「画像誘導型の低侵襲手術」の試みを実施している。医師はホロレンズ2を装着し、リアルタイムに映し出されるレントゲンデータや超音波データから、患者の体内の状態を把握し、精度の高い手術を行うことができるようになるという。


MRを活用した医療アプリケーションのイメージ(マイクロソフト・ウェブサイトより)ト

マイクロソフトとは対象的に、マジックリープはコンシューマ向けの施策が目立つ。

MRゴーグル「マジックリープ・ワン」(マジックリープウェブサイトより)ト

フィンランドのゲーム開発会社ロビオ・エンターテインメントとスウェーデンのレゾリューション・ゲームスは2018年10月、マジックリープを使ったMR版「アングリーバード」をリリース。2009年にモバイルゲームとして登場したアングリーバード、2015時点でPC版など含めダウンロード数が累計25億本に達したとも言われる大ヒットゲームだ。MR版では、自宅がアングリーバードが飛ぶフィールドとなる。


MR版アングリーバード(マジックリープ・チャンネルより)

NBAのマジックリープ・アプリはスポーツ観戦の未来を示す存在として多くの注目を集めている。マジックリープにはスポーツ中継が映し出しされる2次元のディスプレイに加え、各チーム・各選手のデータを示す3次元グラフが投影される。また、三次元のホログラムによるリプレイなどもできるようだ。


NBAのマジックリープ・アプリ(マジックリープ・チャンネルより)

リテール分野では、H&Mがマジックリープを用いたファッション体験プロモーションを実施。プロモーションのために用意された部屋で、マジックリープを装着すると、その部屋に飾られている服に関連する映像や仮想キャラクターの動く姿を見ることができる。これまでにない体験を生み出したいという考えのもと行われた同プロモーション。H&Mは今後ビジネスへの応用も検討していくという。

リテール分野では、若い消費者のVR・AR、さらにMRの活用を求める声が高まっているといわれている。特に、手触りや質感、重みなど現実世界の情報とデジタル情報を組み合わせることが可能なMRはリテールとの親和性が高く、今後その活用が増えてくることが見込まれる。たとえば自動車ディーラーでは、顧客は新車に乗ってその感触や匂いを確かめつつ、MRの効果で、その車をあたかも実際に運転しているような感覚を体験することができるようになるのだ。

すでに実施されているMR施策は未来の一端を示すもの。今後MRはどれほどの速度で進化・普及していくのか。その動向から目が離せない。

文:細谷元(Livit